第29話 俺の気持ち


不知火先輩の家から帰った俺は、自室に篭ると気持ちの整理をしていた。


俺は、綾乃のことが好きだ。


それは間違いない。しかし、複数の女性とお付き合いをしていくことに不安はある。一夫多妻が認められているとはいえ、実際どうなのだろうか?


ここは、聞いてみるしかないか。


俺は、恥ずかしさを堪えて、両親の元へと向かった。今日は2人とも仕事が休みで、ちょうどリビングにいる。聞くなら今しかない。


「父さん、母さん、ちょっといいかな?」


俺が2人に相談するのは、滅多にあることではない。そのためか、2人とも大歓迎で相談に乗ってくれた。


「俺さ、彼女がいるんだけどさ」


「香織ちゃんでしょ?」


「見てりゃわかるさ」


香織と付き合っていることは2人には言っていなかったのだが、どうやらバレバレだったようだ。


「ま、まぁ、それはいいんだよ」


話の腰を折られた俺は、一度話しを戻す。


「それでさ、今は一夫多妻が認められてるだろ?だから、新しく奥さんが増えた家だっていっぱいある」


一度2人の顔をチラッと確認するが、いつになく真剣な表情をしている。俺の次の言葉を待っているのか。


「その、実は香織以外にも真剣に付き合いたい人が出来たんだ。でも、複数の女性と付き合っていくことに不安があるんだ。父さんは母さん以外に奥さんを増やさなかっただろ?少し、話が聞きたくて」


俺は、どうしたらいいかわからない気持ちを両親に打ち明けた。


「んー、難しい問題だな。俺の場合は真奈以外にそんな女性がいなかったから増えなかっただけだ」


「そうね、私だって法律で問題ないなら増えても構わないとは思ってたわ。でも、やっぱり独り占めしたいって気持ちも確かにあったの。だからね、最後は気持ちの問題じゃないかしら」


気持ちの問題か。確かにそうなんだろうな。俺が、二人をちゃんと愛していければ問題ない。


「最後に決めるのはお前だ。でも、話すべき相手がいるだろ?」


「・・・。そうだよな。うん、ありがとう」


「おう」


俺は、自室に戻ると香織に電話をかける。


『もしもしー、どうしたの?』


『香織、ちょっと時間あるか?』


『そっちにいってもいい?』


『いいよ』


簡単に通話を終えると、香織が来るのを待った。隣の家なので、きっとすぐに来るだろう。すると、1分も経たずに呼び鈴が鳴った。


ピンポーン


「いらっしゃい、香織ちゃん」


「伊織さん、お邪魔します」


「香織ちゃんが言ってた通りになったな。晴翔が迷惑かけると思うけど、よろしく頼むよ」


「いえいえ、私も話たかったので、丁度よかったです」


すぐに行こうと思ったのだが、父さんが先に出てしまい、気まずくなり部屋から出ることが出来なかった。俺の部屋からでは、会話していることはわかっても、何を話しているのかまでは聞き取れなかった。


「ハルくーん、やっほー」


「おっす」


香織は俺の部屋に入ると、定位置である俺のベッドへと腰掛ける。


「それで、どうしたの?」


「えっと、その」


俺は、なかなか言い出せないまま、気まずい雰囲気が漂っていた。そんな中、香織が口を開いた。


「綾乃ちゃんの件でしょ?」


「!?」


「見てればわかるよ。私がどれだけハルくんのこと見てるか、わかってないな?」


ぷくぅっと頬を膨らませ、冗談混じりに怒ってみせた香織。俺は、本当にダメな彼氏だな。自分のことで精一杯だった。


「そうだよな。香織、俺さ」


「うん」


「綾乃が好きだ。付き合いたいと思ってる。でも、まず香織にちゃんと話してから考えたくて呼んだんだ」


「そっか。色々考えたんだね。私のことも、綾乃ちゃんのことも」


「あぁ」


「そっか、わかった。ハルくんが決めたなら私は構わないよ」


香織の表情は嘘を言っているようには見えない。いつもと変わらない雰囲気の香織。しかし、母さんが言ってた言葉を思い出す。気持ちの問題だと、独り占めしたい気持ちもあったと。俺は香織のことをもっと大事にしたいと思った。


「香織」


俺は、そっとキスをした。以前とは違い、少し長めに唇を重ねた。俺が初めて好きになった人。これからも一緒にいたい人。


「香織、愛してる。ずっと一緒にいてくれるか?」


「もちろん。離れろって言われても、絶対に離れないよ。私はしつこいからねー」


そう言って、笑顔を向ける香織。俺達は、この後も何度も唇を重ね、お互いの気持ちを確かめ合った。この絆が崩れることはないと、心からそう思えた。


そして、俺は綾乃に気持ちを伝える覚悟を決めた。


ーーーーーーーーーー


「綾乃、ちょっといいか?」


「えっ?構わないけど」


流石に、知られているとはいえ、親の前で告白するほど俺のメンタルは強くない。できるだけ、人のいない場所に移動しよう。


「大事な話があるんだ。ちょっとだけ時間をくれ」


「う、うん」


俺は、綾乃の手を引いて歩いていく。向かう場所は、初めから決めていた。俺達が関わるきっかけの場所。校舎裏だ。


初めて綾乃とまともに喋ったのが、あの時だ。あの時は、まさか綾乃に対してこんな感情を抱くとは思っていなかった。でも、これは運命だったのかもしれない。顔を見られたことも、俺が綾乃を好きになったのも。


俺達は、校舎裏に着くと手を離して向き合った。奇しくも、あの時と同じ構図。違うのは、俺たちの気持ちだけ。


「綾乃」


「な、なに?」


どこか、不安そうな顔をしている綾乃。何をそんなに不安がっているのだろうか。


「ここで初めて喋ったときのこと、覚えてる?」


「うん、覚えてる」


「デートも行ったよな」


「うん、楽しかった」


俺達は、これまでの思い出を語り合った。二人でどんなことを話た、どこに行ったなど。少ない時間では到底語りきれないほど、俺たちの思い出はたくさんあった。


「綾乃」


「なに?」


さっきまでとは違い、可愛い笑顔を見せてくれる綾乃。よかった、少しはリラックス出来ようだ。ふぅ、ここからが本番だ。勇気を出せ、俺。


「綾乃、好きだ」


「・・・えっ?」


綾乃は、ポカンと口を開け呆けている。


「えっと、その、私の、聞き間違えかな?なんか都合のいいことばっか考えちゃうから、ごめんね、そんなわけないよね」


ははは、と乾いた笑い声が聞こえる。


「俺、綾乃が好きなんだ。俺と付き合ってくれないか?」


「ほ、本当に?夢じゃないよね?」


「夢にしないでくれよ。綾乃、返事を聞かせてくれ」


俺は返事を聞きたくて、綾乃に尋ねるが、なかなか返事が帰ってこなかった。もしかして、失敗したか?香織の時もそうだったが、この時間が一番ドキドキする。僅かな時間だが、何時間にも感じる。


「晴翔」


一言、俺の名前を呼ぶと、綾乃は勢いよく俺に向かって飛びついた。


「うおっ!?」


「晴翔、だーい好き!」


俺は、そのまま綾乃に押し倒されてしまった。綾乃は「好きぃ、大好きぃ」と言いながら、俺の胸に顔をすりすりしていた。


俺は、その姿がとても愛くるしくなり、そっと頭を撫でた。すると、綾乃はこちらに視線を向ける。何かを期待するように、とろんとふやけたその顔は反則だと思う。


俺は、綾乃の唇に自分の唇を重ねた。


「私のファーストキスだよ」


「そっか、ありがとう」


俺は綾乃を立たせると、もう一度キスをした。今度はさっきよりも少しだけ長めにキスをする。


「ぷはぁ、なんかやばいかも」


顔を真っ赤にする綾乃は、恥ずかしかったのか、両手で頬を覆う。


「綾乃、そろそろ戻ろうか」


「そ、そうだね!みんな待ってるよね」


俺達は手を繋ぎ、さっき来た道を戻っていく。先程とは違い、俺が引っ張るのではなく、しっかりと並んで歩いていく。


流石に教室の方には残ってなかったようで、誰も居なかった。携帯を確認すると、メッセージが届いていた。


『遅いから、校門の方に行ってるよ』


どうやら、待ちきれずに校門へと向かってしまったようだ。俺達は、2人で校門へ向かった。


「お、おい、あれ!?」


「なんで大塚さんが、あんな奴と!?」


「くそ、またあいつかよ!」


俺達の様子を見て、悔しさを滲ませる男子達。一方女子達は。


「大塚さん、可愛くない?」


「体育祭の時はびっくりしたけど、あんな幸せそうな顔見せられるとねぇ」


「幸せそうだね、羨ましいー」


女子達は、驚いているようだが、否定的な声は聞こえて来なかった。むしろ綾乃を応援していた女子は多かったようだ。


校門に近づくと、母さん、香織、明日香さん、若菜さんが待ってくれていた。そして、俺達の様子を見て、4人は笑顔で俺達を迎えてくれた。


香織、綾乃、絶対に幸せにするよ。

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