第28話 三者面談

「晴翔、三者面談って今日でいいのよね?」


「そうだよ、母さん」


去年の三者面談は、仕事で長期不在だった為、香織のお母さんが代理で立ち会ってくれた。先生達も、うちの事情を知っているので、いいように計らってくれている。本当に助かる。


「じゃあ、今日の放課後、迎えに行くから校門のところに来てよ」


「わかったわ。服装はどうしようかしら」


「バレると面倒だからいつも通りでいいよ」


「そうね、紘子なら大丈夫よね」


俺の母さんと担任の田沢先生は同級生で、とても仲がいい。母さんのこともよくわかっているので、前もって先生に伝えておけば問題ないだろう。


「それじゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい」


俺が外に出ると、もう香織が待っていた。本当に学校の日だけは早起きだな香織は。香織は、本当に寝起きが悪いからな。明日香さんの苦労が目に浮かぶようだ。


俺達は、途中で綾乃と合流すると、学校へと向かう。


「2人も今日、三者面談だっけ?」


「そうだよ、なんと今日は真奈さんが来るんだよ!?」


「真奈さん?誰それ」


「ハルくんのお母さんだよ。すっごい美人でね、会ったらビックリするよ」


「へぇ、晴翔のお母さんか。じゃあ挨拶しないといけないな」


「いやいや、なんでだよ。俺としては騒ぎになるからさっさと終わりにして帰りたいんだから」


「何で騒ぎになるの?」


「いや、まぁ」


「会えばわかると思うよ?」


何となく自分の口から言うのも憚られるため、俺達は敢えて綾乃に教えることはしなかった。どうせ会えばわかることだからな。


俺達は学校に着くと、それぞれのクラスへと向かった。教室に入ると、いつもより皆んなテンションが高くなっている。友達の親に会う機会なんてほとんどない為、友達の親がどんな人なのか気になる人が多いのだろう。


そんな中、やはり馬鹿騒ぎをしたがる奴らはいるもので、その標的になるのは俺みたいな陰キャなのは分かりきっている。


「今年はお前の親も来んのかよ?」


何かとイベントのたびに、俺に突っかかってくる町田。本当に飽きないのだろうかこいつは。


「そうだね、今年は来るよ」


「そうか、息子のことが恥ずかしくて来れないのかと思ったけど、よかったな。お前みたいな陰キャの親がどんなのか楽しみだぜ」


クククッと笑いながら、取り巻きを率いて立ち去っていく。はぁ、あんまり俺に関わらないで欲しいんだけど。香織にフラれた腹いせなんだろうけど、その香織の機嫌がみるみるうちに悪くなっていく。宥めるのが大変そうだが、今日は母さんがいるから、香織のことは任せよう。


ーーーーーーーーーー



「私お母さん迎えに行くけど、ハルくんはどうする?」


「うちはまだ来ないから、その辺ぶらぶらしてるよ」


「わかった、じゃあまた後でね」


さて、1人になったがどうしようか。俺は、ぶらぶらと廊下を歩いていると、1人の女性に出会った。


見た感じは結構派手めの女性で、どことなく誰かに似ている。誰かのお母さんかな?とりあえず、スルーしようとしたのだが、通り過ぎる瞬間に話しかけられた。


「ねぇきみ、ちょっといい?」


「はい、なんですか?」


俺は女性の方へ振り向くと、何だか考え込んでいる女性。


「どっかで見たことある気がするのよねぇ」


「いや、初対面だと、思いますけど・・・」


女性は顎に手を当て、しばし考え込む。すると、次の瞬間目をカッと見開いた。


「そうだ!綾ちゃんのプリクラだわ!」


ちょっとごめんなさいね、と言いながら俺の前髪を持ち上げる。俺の顔をまじまじと見ると納得したようで解放してくれた。


「ごめんなさいね、私は大塚若菜おおつか わかな。綾乃の母親よ」


「あ、やっぱりですか。何だか似てると思いました。俺は齋藤晴翔です。よろしくお願いします」


俺は、ペコリと頭を下げた。何となく綾乃に似ているとは思ったが、お母さんもギャルっぽいんだな。しかし、子持ちとは思えないほど若く見えるな。


「あなたは綾乃の彼氏なの?」


「い、いえ、彼氏では」


俺がそう言うと、さっきまでニコニコしていたお母さんだが、先ほどと少し雰囲気が変わった気がする。これは、香織の機嫌が悪い時に似ている。何か粗相をしただろうか?


「ふーん、彼氏じゃないのね。実際、どうなの?綾乃のこと」


なるほど、綾乃の心配をしているってことか。確かに、自分の子供が仲良くしている男性がいれば気になるか。それに、あんなプリクラを撮っておいて彼氏じゃないなんて。俺は、腹を括った。本当は、先に綾乃に言いたかったが仕方ない。


「お母さんに言うのもどうかと思っていますが、俺は綾乃が好きです。しっかりと気持ちを伝えたいと思っています」


「・・・」


俺達は、しばし無言で見つめ合った。たった数秒だと思うが、永遠かと思うほどに長く感じた。そんな時、遠くから綾乃の声が聞こえた。


「あっ、いた、お母さん!」


「綾ちゃん、どこ行ってたのよ。自分の学校で迷子にならないでね」


「迷子はお母さんでしょ!迎えに行くから待ってよ、って何で晴翔がここにいるの!?」


お母さんに集中していた綾乃は、やっと俺に気がついたようだ。


「晴翔くんとちょっと話してたのよ、ねっ?」


「はい」


「そうだ、晴翔くん。私のことはお義母かあさんって呼んでね?」


「分かりました、お義母かあさん」


「ふふ、じゃあ行きましょ、綾ちゃん」


若菜さんに腕を引かれて連れていかれる綾乃。何が何やらわかっていない綾乃はキョトンとした表情をしている。


「晴翔、後でじっくり聞かせてもらうからなー!」


そう言いながらドナドナされていった綾乃。いやぁ、それにしてもそっくりだったな。香織の家もそうだけど、美少女の親はみんな美人なんだな。


俺は、そんなことをしみじみ思いながら、自分の親を迎えに行くために校門へ向かった。若菜さんに捕まってしまい、ほとんど時間を使ってしまった。急がないと、もう来てるかも。


俺が校門へ向かうと、何だか人集りができている。何かあったのだろうか?


「ねぇ、あの人すっごい美人だよ!?」


「誰の親かな??」


「西条さんと大塚さんの親はさっき見たから違うよね。でもあんな綺麗なお母さんなら、きっと子供も美形よね」


みんなの視線の先には、俺がよく知る人物がいた。はぁ、だからいつも通りの格好でいいって言ったのに。いつも、母さんは上下ジャージにサングラスで出かけることが多い。


見るからにあやしいが、逆に面倒ごとには巻き込まれないのだとか。よくわからない。しかし、今日の母さんはスーツを着てバッチリ決めてるな。サングラスをつけてるのがせめてもの救いだ。


「母さん、こっち」


「あっ、晴翔!」


母さんが俺に気づくと、こちらに向かってくる。その姿を見て、周りは一瞬静寂に包まれたが、すぐに騒ぎ出した。


「おい、齋藤の親なのかよ!?」


「誰の親より美人じゃん!?」


「ねぇ、あの人誰かに似てない?」


やばい、このままだと気付かれるので、俺は母さんを連れてそそくさと教室へと向かった。


「何で、よりによってバッチリ決めてくるかな?」


「えぇ、たまにはいいじゃない。お母さん格好いいでしょ?」


全く、全然反省してないなこの人。本当に、顔見られたら大変なんだからしっかりしてくれよ。


「あっ、紘子」


「あら真奈じゃない!久しぶりね」


2人は出会うや否や、抱き合って再会を喜んでいた。これまた、周りの生徒達から注目されているので、早速教室へと入った。


俺達は、教室に入ると、用意されていた椅子に座る。しかし田沢先生は、ここで思いもよらない発言をする。


「齋藤は、どうせこのまま芸能関係に行くんだろ?なら話すこともないな」


「えっ、いやいやダメでしょ!?」


「いや、大丈夫だろ。親が国民的大女優なんだから、進路相談はそっちでしなさい。むしろ私の娘も相談に乗ってくれると助かるよ真奈」


「あぁ、あの娘ね。今度共演の予定があるからみてあげる。ちなみに晴翔とも初共演ね」


え、初共演?


まさか、次のドラマに出てくる主人公の母親役って。


「撮影中はみっちり鍛えてあげるから心配いらないわ」


「ははは、お手柔らかに」


結局、うちの三者面談は特に話すこともなく、先生と母さんの雑談で時間が終わってしまった。俺達は、廊下に出ると、もうすでに三者面談を終わらせた二組の親子がいた。


香織と綾乃達だ。


「真奈さん、お久しぶりです!」


「久しぶりね、香織ちゃん。それと、あなたが綾乃ちゃんかな?晴翔に話は聞いてるわ」


「えっ、は、晴翔から?」


「ふふふ、可愛いわね。晴翔をよろしくね」


「「はい!」」


2人は揃って返事をした。香織は当然とばかりに返事をしていたが、綾乃はどこか戸惑いながら返事をしていた。


「ね、ねぇ、晴翔。も、もしかして、真奈さんって、女優の?」


「そうだよ。仕事でいつも居ないから、会うのは初めてだよな」


「うん、なんか、真奈さんを見ると晴翔のスペックも納得かも」


何かに納得した綾乃は、まじまじと母さんを見ていた。本当に綾乃は可愛いな。さて、そろそろ。俺は周りに目配せをする。


母さんと香織には、事前に相談してあるため、すぐに理解してくれた。この後、綾乃に気持ちを伝えよう。


「綾乃、ちょっといいか?」


「えっ?構わないけど」


綾乃は少し戸惑うように周りを見渡す。事情を知っている2人は笑顔で送り出す。そして、お義母かあさんも、先程の出来事でなんとなく理解しているようで、俺の意を汲んでくれた。


「大事な話があるんだ。ちょっとだけ時間をくれ」


「う、うん」


俺達は、誰も居ない場所を求めて歩き出した。着いた場所は、初めて綾乃に呼び出された場所。校舎裏だ。俺達が、関わるきっかけになった場所。


出来ることなら、これからもずっと、そばにいて欲しい。今日、俺は綾乃に告白する。

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