第23話 なんでこうなった?

「ねぇ、ハルくん」


「なぁ、晴翔」


二人とも、言いたいことはわかるぞ。俺だって、言いたいけど我慢してるんだ。


「「なんで、こうなった?」」


言っちゃった。


まぁ、言いたくなる気持ちもわかる。なぜか、俺たちは今、大財閥の御令嬢により自宅へと招待されていた。


「では、こちらにお乗り下さい」


そう言って、案内された車は映画などでよく見るリムジンだった。まさか実際に見る機会があるとも思わなかったし、さらに乗る羽目になるとは。


学校の校門の前に止まっていると存在感か半端ない。皆の視線が痛いので、さっさと乗り込むことにした。


「家までは30分ほどで着きますので、ゆっくりして下さい」


ははは、なかなかこの中でゆっくりなんて無理な話で、俺たち3人は緊張しっぱなしの30分を過ごした。


ーーーーーーーーーー


「さ、こちらにどうぞ」


リムジンから降りると、そこには大きな門が立っていた。左右を見渡すと、どこまでも塀が続いており、一体どこまで続いているのかわからない。


先輩の後を追い、門をくぐると、屋敷に向かって石畳が続いている。左右には見事な竹林が広がっていた。まさにお金持ちって感じの家だな。


屋敷に入ると、長い廊下を歩いて行き、とある部屋に案内される。宴会でもやるのか?というほど大きな和室に案内された。


「えっと、先輩」


「なんでしょう、晴翔様?」


「今日はなぜ俺達を呼んだんですか?」


最大の疑問をここで投げかける。俺の顔を見られたとして、それと何か関係があるのか?いまいちピンと来ていなかった。


「そうですねぇ、皆さんを、というよりは晴翔様をお呼びしたつもりだったのですが。一人だと来て頂けそうになかったので、皆さんお呼びした次第です」


「な、なるほど」


「それでですね、晴翔様に来ていただいた理由なんですが、私の部屋を見ていただいた方が早いので、案内しますね」


俺達は、先輩の部屋の前まで来ると、ここである確認をされる。


「あの、絶対に笑わないで下さいね?」


俺達は、心の準備をして各々頷いた。

本当は恥ずかしいのですが、と言いながら開けられた部屋の中は想像以上の衝撃だった。


「このポスターって」


「もしかしなくても」


「・・・俺ですか?」


「はい、全部、晴翔様です♪」


部屋の壁に何枚も俺のポスターが貼られていた。てか、俺ってポスターなんか売ってたっけ?


「これは、ファンクラブの会員になると、定期的に何かしらの晴翔様グッズが貰えるんですよ。その中の一つです」


マジか。ていうことは、そのファンクラブで作られてるのか、これ。というか、そのファンクラブって公式?


「あ、ちなみに、このファンクラブは公式のものですよ。ちゃんと晴翔様の事務所が主催でやってらっしゃるものです」


「そ、そうなんですね」


俺の知らぬ間に、そんなことになってたんですね。恵美さんめ、後で聞いてみるしかないな。それにしても、俺のグッズってこんなにあるんだ。よくみるとポスターだけでなく、マグカップやボールペン、アクリルスタンドなど色々なものが置いてあった。


「お恥ずかしいのですが、私、晴翔様の大ファンなのです。今まで何かにハマった事などなく、この気持ちをどうしたらいいのか困っておりましたところ、先日の体育祭でたまたまお顔を拝見致しまして」


「そ、そうですか」


「ハルくん、やっぱり見られてたのね」


「まぁ、あれだけ激しく動けばみられるでしょ。今後は気をつけてよね」


「反省してます」


あの時はテンションも上がっていて、すっかり忘れていたが、次からは本当に気を付けます。俺は心の中で反省した。


「それで、本題なのですが」


「あ、そうでした」


こちらをチラチラと見ながら、躊躇いがちに口を開く。


「えっと、私の許婚になってもらえないでしょうか?」


「えっ?」


「「はっ?」」


あまりの衝撃に俺達は変な声が出た。先輩の言葉を理解するにはしばらく時間がかかった。


「え、許婚って」


「はい、私の婚約者になって頂きたいのです」


思わず聞き返してしまったが、今度はすんなりと先輩の言葉が入ってきた。そして、俺達は驚きのあまり絶叫した。


「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」


ーーーーーーーーーー


大絶叫をしたあと、俺達は最初に案内された部屋へと、また戻って来ていた。


「さっきは大声出して、すみませんでした」


俺達は先輩に頭を下げた。うるさかったのは当たり前だが、こんな家で騒ぎを起こしたら何が起こるか怖くて仕方ない。


「いいんですよ、私もいきなりでしたね。順を追って説明致しますね」


それから、俺達は先輩から事情を聞くことにした。まず、許婚の件は、定期的に送られてくるお見合い話を断る為らしい。


なので、本当に結婚を考えているわけではなく、必要な時だけ婚約者として対応してくれれば構わないとのことだった。


「ハルくん、そういえば先輩は大の男性嫌いで有名なの」


「そうなのか?そうは見えないけど」


俺に対しては普通に接してくれてるし、そんなようには見えなかった。


「私も聞いたことあるよ。話しかけるだけでも、機嫌がすごく悪くなるらしくて、今の生徒会はみんな女子になったとか」


「ま、マジで?」


「お恥ずかしながら、本当のお話です。私は男性が苦手なのです。話しかけられるだけで、嫌悪感が凄くてですね。でも、不知火の者に生まれた以上は跡取りの問題は、いつも付き纏うのです」


「大変なんですね」


俺達は先輩の境遇に同情するとともに、俺達とは住んでる世界が違うことわ改めて感じた。


「ですが、晴翔様をひと目見た時、今までのよう感情は抱かず、むしろ会ってみたいと思うようになりました」


そう話す先輩は、潤んだ瞳でこちらを見つめている。うっ、美人そんな目をされると、心臓に悪い。そして、両脇からの視線が痛い。


先輩に聞こえないように、香織達は小声で話しかけてくる。


「オモテになって、よろしいですねハルくん」


「本当に、モテモテですねー」


おい、少しは助けてくれよ。俺だって不本意な状況なんだから。


「初めて拝見したのは、生徒が持って来ていた雑誌でした。私はもっとあなたを知りたくてファンクラブに入会し、どんどんと虜になると共に、男性達への嫌悪感は増すばかりでした」


先程とは打って変わって、悲しそうな表情の先輩。


「そして、先日の体育祭で、たまたま晴翔様を見つけた時は、心が踊り出しそうくらい跳ね上がるのがわかりました。すぐにでも会いに行きたかったですが、あの状況では近づけなかったので」


そう言って、綾乃の方を見る先輩。笑顔だが、なんだか身体が冷え込むような感覚に陥る。綾乃も蛇に睨まれる蛙の如く、固まっていた。


「晴翔様、しばらくの間でいいので、私を助けて頂けないでしょうか?」


正直、面倒ごとは関わらないのが一番だ。でも、困っている人を見捨てるのも後味が悪い。俺は悩みに悩んだ末に答えを出した。


「わかりました、俺でよければ力になります」


俺の答えを聞いて、パァッと笑顔になる先輩。そして、先輩は笑顔でこう言った。


「よかった。今後ともよろしくお願いしますね、旦那様♪」


俺はこの時なんとなく理解した。あぁ、これもう詰んだかもと。


そして、案の定、香織と綾乃からほこっぴどく説教を喰らう羽目になった。


俺達3人は、またあのリムジンで家まで送ってもらうと、近くの公園で集まることにした。


「なんでこうなった」


「ハルくんが、OKしちゃうからだよ!!」


「そうだぞ!なんで断らないんだよぉ!!」


確かに、今思えば許婚の話だって、いつまでやらされるかわからない。むしろやめられるのか?俺、そのうちこっそり消されたりしないよね?


「晴翔ぉぉ、あの先輩怖いよ、睨まれたぁぁ」


珍しく綾乃が涙目で、抱きついてくる。くっ、せっかく忘れてたのに、意識し出すともうダメだ。


「あ、綾乃、とりあえず離れよう」


「なんで?」


潤んだ瞳で見上げる綾乃。やばい、可愛い。そんな俺達を見ていた香織はさらに後ろから抱きついて来た。


「ハルくん私も私もー」


おい、なんだかお前は楽しそうだな。


「晴翔」


「ん?どうした、綾乃?」


「ギュッとして」


!?


いつになく積極的な綾乃に、俺はどうしたらいいのか迷っていた。


「私の方が先に出会ったのに。なんで皆が先に進んじゃうの?置いて行かないでよぉ」


ついに泣き出してしまう綾乃を見て、俺は居ても立っても居られなくなった。そっと綾乃を抱きしめて、俺は綾乃への気持ちを固めた。


伝えよう、この気持ちを。俺の言葉でしっかりと。俺はそう誓った。


そんな俺を見ていた香織は、微かに微笑んでいた。そんな香織の表情は、とても印象深く映った。あれは、どんな感情なのだろうか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る