第22話 HARU様の行方


ふっふふーん♪


やっとドラマの収録が終わったぁぁぁ!

これでやっと学校に通える。待ってて下さいね、HARU様!


そういえばHARU様のお名前をちゃんと伺ったことがなかった。名前がわかればすぐに見つけられるのに。


いや、例え名前がわからなくても、あれだけのイケメンならすぐに見つかるはず。むしろ学校では有名人かも知れませんね。ふふふ。


先日はあの彼女さんさえいなければ、もっとHARU様との距離を詰められたのに。


それにしても、最後のほっぺにキスは緊張しました。私はファーストキスまではキスNGで女優をやらえてもらっているので、凄くドキドキしました。ですが、私のことをだいぶ印象づけられたし、ちょっとずつ私を意識してもらえるように頑張るぞ!



ーーーーーーーーーー



私は、2ヶ月遅れの高校生活を開始した。


うちの高校は進学校ではあるが、芸能活動などにも理解のある学校で、テストなどでしっかり結果を出せば進級することができる。


初登校は、当然1人での登校だった。早く友達が出来ればいいんだけど。でも、まずはHARU様に挨拶に行かないとね。あと、ついでに彼女さんも。


私は高校に着くと、まず職員室へ向かった。向かう間にも、すれ違った生徒達は私に気がついたようだ。


「お、おい、あれ」


「なんだよ?」


「田沢桃華だ!」


「すげー!本物だ!」


ふぅ、私も少しは有名になったのかな?いや、私が目指す女優になるには、この程度で満足してちゃダメだ。もっと上を目指さないと。


ガラガラガラ


「失礼します」


「おぉ、来ましたね。私が担任の篠崎です。よろしく」


「田沢桃華です。よろしくお願いします」


「いやぁ、私は田沢さんのファンでね。担任になれるなんて嬉しいよ」


うん、人当たりの良さそうな先生ね。でも、なんとなく嫌な感じがする。あの目、痛いファン達と同じような目。ああいう輩は何するかわからないから関わりたくないんだけど。


でも、担任の先生だから少しは我慢しなくちゃね。私の仕事はどんなことがスキャンダルになるかわからないから。


さて、先生への挨拶も済ませたので、私はHARU様を探しに行きましょう。確か2年生のはずなので、ひとつずつ潰していきましょうか。


まず、私が向かったのはA組だった。


ガラガラガラッ!


もう少し静かに開ける予定だったのだが、焦る気持ちから予想以上の力が入っていたようだ。凄い勢いで扉を開けてしまった。当然だが、視線は私に集まり、教室内は静まり返っていた。


だが、そんなことはどうでもいい。HARU様を探さなくては。私は、今のうちに人探しをすることにした。しかし、HARU様を見つけるには至らず、クラス内が騒がしくなってきた。


「お、おい、あれ」


「田沢桃華だ」


「やばい、可愛いくない!?」


「私ファンなんだよね!」


もう、気が散るから静かにしてくれないかしら。


そんな中、一人の男性が近づいてくる。


「田沢さん、どうしたの?ここは2年の教室だよ?」


何よこの人。そんなの知ってるわよ。

しばらく無視すれば帰ると思っていたのだが、どうやらこういう人種には効き目がないようで、懲りずに話しかけてくる。


「田沢さん、誰か探しているのかな?もしかして、俺のことーーー」


「違います。ちょっと静かにしててくれますか?気が散ります」


流石に面倒になってきたので、キッパリと答えることにした。確かに顔はそこそこ良いかもしれないけど、そのいやらしい視線は最悪ね。こんな男に引っかかる女の気が知れないわ。


しかし、先輩方の教室でこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。そろそろ潮時でしょうか?


「おかしいなぁ、確かにHARU様の気配がするんだけど」


そう、私の勘が言っている。HARU様が近くにいると。だが、実際はHARU様らしき人物は見当たらない。あれ?今、顔を伏せた人・・・。


怪しい人物を見つけたが、私の関心は別の方向に向いてしまった。私の視界の端に、ある人物が見えた。


「あっ、あなたは!HARU様の彼女さんじゃないですか!?」


私は思わず近くに寄って行ってしまった。


「あら、のハルくんに何のようなの?」


相変わらず、余裕のある感じが腹が立つ。しかし、この人があの方の彼女さんであることは確か。認めざるを得ませんね。


「ふふふ、確かにあなたはHARU様の彼女なのでしょう。そこは認めます」


「意外とあっさりしてるのね」


「ですが、HARU様ほどの方です。何人彼女が居ようと構いません。必ず、私に振り向かせてみせます!」


そうです。HARU様なら彼女の5人や6人くらい居たって不思議じゃありません。でも、いつまでも正妻の座は譲りませんからね。


私は教室から出ると、その後も各クラスをまわり、HARU様を探したが、見つかることはなかった。そして、色々と目立ち過ぎた私を、迎えに来た先生に引きずられクラスへと連れていかれた。


「ちょっと、お母さん、痛いってば!ちゃんと歩くから引っ張らないでよ!」


「学校では先生と呼びなさい」


「わかったから、田沢先生!」


全く、と言いながら止まる先生。もう腕がもげちゃうわよ。だけど、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないので、私は大人しくクラスへと戻った。


それにしても


「HARU様どこですかぁぁぁぁぁ!?」


私の叫び声は、虚しくも校舎中に響き渡ったのだった。



ーーーーーーーーーー



「ハルくん、危なかったねぇ」


「そうだな、まさかクラスまで来るとは思わなかったよ」


「やっぱりそっちのクラスにも行ったんだ」


俺たちはいつも通り、学食の一角で昼食をとりながら、桃華のことを話していた。綾乃は実際に会うのは初めてだったが、見かけによらず大胆で驚いていた。


「とりあえず、ハルくんは今まで以上に気をつけること」


「そうそう、髪の毛は特に気をつけること」


「そんなこと言われてもなぁ」


気をつけていたってバレる時はバレるんだから。だが、俺だって面倒ごとは嫌なので言われた通り気をつけることにした。


しかし、そんな俺の元には面倒ごとが押し寄せる何かがあるのだろうか?放課後になって事件は起こった。



ピン・ポン・パン・ポーン


『生徒の呼び出しをします』


お、校内放送とか久しぶりに聞いたな。誰か何かしでかしたのだろうか?


『2年A組、齋藤晴翔くん。至急、生徒会室へ来て下さい』


・・・は?


『繰り返します。2年A組、齋藤晴翔くん。至急、生徒会室へ来て下さい』


どうやら聞き間違いではなかったようだ。だが、生徒会室に呼ばれるようなことはないと思うのだが。そんな俺のこと心配そうに香織が見ている。


「ハルくん、生徒会長が誰だか覚えてる?」


「えっと、ごめん。誰だっけ」


香織は大きめのため息を吐くと、呆れながら教えてくれた。


不知火澪しらぬい みおさんだよ。自分の学校の生徒会長くらい覚えててよ」


「あぁ、ごめん。そういえばそんな名前だったな。ありがとう」


「不知火グループのご令嬢だから、粗相のないようにね」


どんな人物だったかは、よく思い出せないが、とりあえず、待たせるわけにはいかないので、生徒会室へ向かうことにした。


ーーーーーーーーーー


コン、コン


「はい、どうぞ」


「失礼します」


ガラ、ガラ、ガラ


俺は初めての生徒会室へと、足を踏み入れた。職員室の次くらいには緊張するかも知れないな。


「待っていました、齋藤晴翔くん」


「えっ?」


生徒会室に入ると、黒の長髪が良く似合う女性が待っていた。そして、どんどんこちらに近づいてくる。その勢いに、気押され俺は壁際に追い詰められる。


近い近い近い!


顔と顔との距離は10cm満たないくらいの距離まで接近した。


「急に呼び出してごめんなさい。ちょっと失礼しますね?」


そう言って俺の前髪をサッと持ち上げた。


俺は彼女とばっちり視線が合う。


「やっぱりそうでしたか。まさか同じ学校にいらしたなんて思いもしませんでした、HARU様♪」


「え、いま、なんて?」


「はい、ですから、HARU様。先日の体育祭ではご活躍でしたね。まさかHARU様にお会いできるなんて」


ぽっと頬を染める、和風美人な生徒会長。どうやら体育祭の時に顔を見られていたみたいだ。


「HARU様」


「あ、えっと、その呼び方なんですけど」


出来ればその呼び方やめてほしいんだよなぁ。桃華の時も思ったが、なんだか恥ずかしい。


「そうですか。では、晴翔様とお呼び致しますね」


「ははは、もう好きにして下さい」


「はい。それでですね、この後少しお時間頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」


今日は確か、予定は何も入っていなかったはず。財閥のお嬢様を無碍に扱うわけにはいかない。だが、香織達になんで言おうか。


そんな迷っている俺に、生徒会長は微笑みながら提案する。


「彼女さん方も一緒で大丈夫ですよ?」


「あ、あはは、なんだかすみません」


「いえ、では了承ということでよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


そう返事を返すと、ぱぁっと笑顔が咲く。本当に和がイメージにぴったりの人だ。綺麗というより美しいという方が似合いそうだ。


そして、彼女は最後に爆弾をひとつ投下した。


「さて、では早速参りましょうか。私の家に」


「えっ?」


こうして、財閥のご令嬢の自宅へと連れていかれることとなった。香織、綾乃・・・なんかごめん。俺は心の中で謝ることしか出来なかった。

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