第24話 私の旦那様①

私の名前は不知火澪。


日本有数の財閥である、不知火グループの長女。


物心ついてから、どんな些細なことでも誰にも負けないように、教育をされてきました。別にこの環境を不幸に感じたことはございません。


むしろその教育のおかげで、今の私があるのですから。


しかし、一つだけ不満なことがあります。

それは定期的に訪れる、お見合いです。


私は恋愛などしたことがなく、したいとも思っておりませんでした。いつかは、どなたかと結婚し、後継を産む。そんなことは当然のことなのです。


ですが、お見合いにいらっしゃる男性は、明らかに私より年上の方が多いのです。なぜでしょう、誰でも構わないと思っていたのですが、心がモヤモヤするのです。これは明らかな嫌悪感でした。


たまに、同年代の男性がいらっしゃることもありましたが、私の身体を見るあのいやらしい視線にはうんざりです。世の男性は、皆あのような方ばかりなのでしょうか?結婚する方の気がしれません。


それから、私の男性嫌いにはどんどん拍車がかかって行きました。高校に入学してからというもの、毎日のように男性から呼び出され、告白を受ける。そんな日々にはもううんざりです。最近では、話しかけられるだけで嫌悪感を感じてしまいます。


きっと、私には運命の相手など居ないのでしょう。少しでもまともな男性がいれば、その方と将来を考えることに致しましょう。


ーーーーーーーーーー


「見て見て、この雑誌!」


「あっ、これHARU様が宣伝してた雑誌!」


「売り切れで買えなかったのよねぇ、見せて見せて!」


我が生徒会は女子生徒しかいないため、唯一安心できる空間です。生徒会活動中が私の癒しですね。


そんな、生徒会室がいつになく騒がしくなっております。何かあったのでしょうか?何やら、ファッション雑誌のようですが、何がいいのでしょうか?


「皆さん、どうしたのですか?そんなにお騒ぎになって」


私は、皆さんの輪の中に入っていくと、何事なのかと事情を聞くことにした。何やら物凄いイケメンが写っているんだとか。はぁ、そんなことで騒げるなんて、皆さんは幸せですわね。


「不知火会長も見て下さいよぉ」


「すごいイケメンですよ!」


「はぁ、そこまで言うなら」


初め、私は全く乗り気ではありませんでした。しかし、彼女たちがHARU様と呼ぶ男性のページを見てみると、私は目が離せなくなってしまっていました。


他のページの男性を見ると、明らかに心に靄がかかるような感覚に陥ります。しかし彼のページを見たときは、むしろ心がスッキリするような感覚を覚えたのです。全く嫌悪感を感じない。どうして?


流石に、彼女達の前で騒ぐのはみっともないので、私は下校時に本屋により雑誌を購入して帰りました。


その後、何度も見返してみたが、彼だけは大丈夫でした。不思議です。もっと彼のことが知りたくなりました。


私は、気づけば雑誌だけでなく、普段は絶対にやらないSNSにも手を出してしまいました。HARU様は毎日のように写真を投稿しているます。その中には、彼女さんと写っているものもありました。その写真を見た時は、何度か胸が苦しくなりました。何かの病気でしょうか?


それから、私はHARU様のファンクラブの存在を知り、思わず入会してしまいました。定期的に送られてくるHARU様グッズが届くのが今では、楽しみでしょうがなくなりました。


そんなある日のこと。


「おい、澪」


「なんですか、お爺さま?」


お爺さまは、不知火グループの会長で、私のことをとても可愛がってくれています。ですが、そんなお爺さまの手にはいつもの物がありました。


「澪、今回はお前も気にいるかもしれないぞ。年も近いし、とても好青年だ」


私は、一応写真を拝見しましたが、やっぱりダメでした。HARU様以外は考えられません。


「いえ、今回もやめておきます。それから、もうお見合いは結構です」


「み、澪?どうしたんだ、いつもなら顔合わせまではするではないか。それにもういいって、結婚しないってことか?」


「いえ、結婚相手は私が見つけます。なので心配しないで下さい」


「え、ま、まさか、気になるやつでもいるのか!?」


「おい、澪!どこの馬の骨だ!」


おーい!とお爺さまの声が聞こえるが、私は無視して部屋へと戻ります。


私は、どうにかしてHARU様を見つけられないかと、目撃情報をまとめて見ました。HARU様の行動範囲は限られており、この辺りに住む高校生だとはすぐにたどり着きました。


しかし、この辺の高校でHARU様らしき人は目撃されていません。でも、手がかりはありました。それは、彼女さんです。


彼女は、うちの高校に通っております。そして、彼女はいつも学校にいるときは、とある男子生徒といつも一緒にいるそうです。明らかに怪しいです。


私はしばらく、二人の様子を伺うことにしました。


ーーーーーーーーーー


そのまま、何もわからぬまま、時間だけが過ぎて行きました。


今日は体育祭当日です。生徒会長として、色々な競技の様子を見て回らなくてはいけません。何を勘違いしたのか、喜び出す男子生徒もいて、本当に不愉快でした。


そして、本日最後の仕事場はバスケの決勝戦でした。


「AクラスとBクラスですか。確か彼がいましたね」


最近、彼のことを見ているのがなんだか楽しみになっている自分がいました。HARU様を探しているのに、不思議なこともあるものです。彼のことが気になって仕方ありません。


そんな彼は、やる気があるのかないのか、よくわかりません。しかし、最後の10分で急に動きが変わりました。


そして、シュートを決めるとき、チラッと見えた顔に驚きを隠せませんでした。


「えっ、まさか、HARU様なんですか?」


その後も私は彼から目が離せませんでした。彼がボールを持つと面白いように点が入っていきます。すごいです、すごく格好いいです。


私はドキドキがとまりませんでした。試合が終わると、すぐにでもHARU様に挨拶に行きたかったのですが、私はある光景を目撃したのです。


あれは、確か大塚綾乃さんでしたね。彼女は見た目によらず優等生で、模範的な生徒でしたね。そんな彼女が、こんな人前であんなことをするなんて。


きっと、彼女もHARU様のことに気づいているのでしょう。


あぁ、羨ましいです。私だって、HARU様を膝枕したいです。甘やかしたいです。


そ、それに、ほっぺにキ、キスまで。私は何を見せられているのでしょう?


この日、私はドキドキでよく眠れませんでした。あぁ、HARU様、待っていて下さいね。


ーーーーーーーーーー


コン、コン


あ、来ましたね。


「はい、どうぞ」


「失礼します」


ガラ、ガラ、ガラ


ずっと探していた男性が今、目の前にいます。私は今すぐにでも抱きついてしまいたい衝動に駆られるが、必死に我慢しました。


「待っていました、齋藤晴翔くん」


「えっ?」


ハァ、ハァ、どうしましょう。なんなんでしょうか、この気持ちは。今すぐにでも持ち帰ってしまいたいですね。


私はどんどん彼に近づいていくと、顔と顔との距離は10cm満たないくらいの距離まで接近していました。いっそこのまま唇を・・・いや、確認が先ですね。


「急に呼び出してごめんなさい。ちょっと失礼しますね?」


私は、彼の前髪を持ち上げました。すると、今まで見えていなかった彼の目がばっちり見えました。


「やっぱりそうでしたか。まさか同じ学校にいらしたなんて思いもしませんでした、HARU様♪」


「え、いま、なんて?」


「はい、ですから、HARU様。先日の体育祭ではご活躍でしたね。まさかHARU様にお会いできるなんて」


どうしましょう、顔が熱くなってきてしまいました。


「HARU様」


「あ、えっと、その呼び方なんですけど」


どうやら、あまり呼ばれたくないようですね。そもそも隠していらっしゃるのだから理由があるのでしょう。


「そうですか。では、晴翔様とお呼び致しますね」


「ははは、もう好きにして下さい」


「はい。それでですね、この後少しお時間頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」


彼は、あまり乗り気ではないようですね。このままでは断られてしまいます。無理矢理連れて行ってもいいのですが、仕方ありませんね。


「彼女さん方も一緒で大丈夫ですよ?」


「あ、あはは、なんだかすみません」


「いえ、では了承ということでよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


よかったです、なんとか第一段階は成功ですね。


「さて、では早速参りましょうか。私の家に」


「えっ?」


ふふふ、驚いていますね。でも、驚くのはここからですよ?さて、第二段階へと作戦を進めましょうか。

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