第20話 体育祭②

「さてさて、ハルくんはどうしたかなぁ?」


今回私は、競技には参加しておらず、応援係としてクラスメイト達の試合を応援していた。


そして、私の今日のメインとなる試合がこの後開始される。男子バスケの決勝戦だ。


今回は、大番狂わせは起こらず、順当に進んでいったようだ。みんなの予想通り決勝戦はAクラス対Bクラスとなった。


まぁ、今回はハルくんの出番はないだろうけど、仕事だから応援しよう。


「あ、香織。今から晴翔の応援?」


「あれ、綾乃ちゃん。どうしたの?」


「うちのクラス、あとバスケだけだから応援に来た」


「あぁそっか、綾乃ちゃんはBクラスか。でも、誰の応援に来たの?」


「もちろん晴翔」


「だよねぇ」


私達はハルくんを応援するために体育館に入ったのだが、中は異様な雰囲気だった。


「どうしたんだろ?」


「そっちのクラス、何か揉めてるね」


よく見ると、バスケ部の男子が一人ベンチに座っている。テーピングを巻いてるところを見ると怪我でもしたのかな?


ということは、ハルくんが出るのかな!?


私は目をキラキラさせ、コートを見る。すると、そこにはハルくんの姿があった。


「ひゃぁぁぁ、ハルくん!体操着も似合うぅ」


ハルくんは何着ても似合いますなぁ。


「おい、顔やばいぞ。少しは自重しろ?」


「そういう綾乃ちゃんだって、デレデレだよ」


私のことを一丁前に指摘する彼女だが、本人も頬を染めて、ニヤニヤしている。人のこと言えないわ。


とりあえず、もっと近くで応援しなくちゃ。



「おい、西城さんと大塚さんだぞ」


「もしかして、また齋藤か?」


「くそ、またアイツかよ。そうだ、お前ら」


男子達は何か耳打ちをすると、突然大声を出し始めた。


「陰キャは引っこんだろ!」


「お前が出るなら、俺の方がマシだ」


「引っ込めー!」


・・・はぁ?


コイツらなに言ってんの?

私のハルくんを馬鹿にするなんて。


私は怒りを抑えられない。今すぐにでも掴みかかりたいが、遠目に見えるハルくんが、こちらを見て首を振っている。


ふぅ、仕方ない。ここは我慢よ私。


ふと隣を見ると、私と同じく怒りを露わにする綾乃ちゃんがいた。必死に耐えているのか、ギリギリと拳を握りしめている。


「もう始まるから応援しよ、綾乃ちゃん」


「そうだね、馬鹿は放っておこう」


私達の反応が思っていたのとは違い、さらには相手にもされていないことに、ショックを受けているらしい。さっきまでの勢いは何処へやら。


しかし、さっきの馬鹿達は大人しくなったが、それに煽られた奴らは未だに騒いでおり、ブーイングの中、試合が開始された。



ーーーーーーーーーー



「あの男子、誰だっけ?」


「あの人は勅使河原くんだよ。バスケ部のエースなんだ」


「エースか。確かに一人だけ動きが良いね。よく一人で頑張ってるよ」


そう、勅使河原くんはよく頑張ってる。だけど、周りが上手く機能していない。ハルくんにボールが渡ればなんとかなりそうなのに。


勅使河原くんは、何度かハルくんにパスを出そうとしているが、思い留まっている。


「なんで晴翔にパス出さないの?晴翔に嫌がらせ?」


「うーん、勅使河原くんはそういうタイプじゃないんだけどね」


そう、勅使河原くんはいじめとか、仲間はずれみたいなのが大嫌いなことで有名。現にパスを出そうとしていた。何でだろう。


そんなことを考えてる間にも、どんどん点差は離されていき、最終クォーターを残して30点差がついている。


もう、ここまでかなぁ。


最終クォーターを残し、休憩に入るメンバー。もちろんハルくんも休憩中。私達はハルくんの近くに移動する。


「ハルくんお疲れ様」


汗をかくハルくん。素敵♡

私はハルくんにタオルを渡すと、タオルで汗を拭く。そして、そのタオルは私の元へ。


そんな私を綾乃ちゃんはジトッと見ていたが、呆れたようにハルくんに寄っていく。


「このままだと負けそうだな。晴翔が結構いいポジションに居るのに全然パス出さないじゃんか、アイツら」


「まぁ、みんな楽しんでるからいいんだよ。邪魔したくないしね」


こうところで空気が読めるところはハルくんの良いところだけど、今回はもう少し頑張ってもらいたいな。格好良いハルくんが見たいし。


「でも、ハルくんがやる気出せば、絶対勝てるよ。勝てるのに、努力をしないのは好きじゃないわ」


「確かに、晴翔の活躍も見たいし」


なんとなく、思うところがあるのか、少し悩んでいるハルくん。だが、答えが出る前に試合は始まってしまった。頑張れ、ハルくん!


ーーーーーーーーーー



「おい、ボールをくれ!」



開始早々に、勅使河原にボールが集まる。やはり勅使河原くんは上手い。周りも、最後まで勅使河原くん任せる感じかな。


だけど、そう思った矢先、ハルくんが走り出した。


そして、それに合わせるかのように勅使河原くんも動いていく。


ハルくんにボールが渡ると、そのままドリブルでゴールまで走り、シュートを決めた。


わかってたけど、やっぱりハルくんは格好良かった。さらに惚れなおした瞬間だった。


「えっ!?晴翔、運動そこそことか言ってたじゃん!?」


「まぁ、ハルくんからしたら、バスケは苦手な部類だからね。ハルくん球技好きじゃないから」


「マジか、あれで?バスケ部が可哀想に見えるな。相手のチームはレギュラーだろ?」


ふふふ、余程の強豪校でも無い限り、ハルくんなら対応出来る。それにしても、問題が発生したわ。


ハルくんと勅使河原くんの連携が取れ始めて、どんどん点差が縮まり、ハルくんの活躍も見れるようになった。


だけど。


「前髪、どうするのよー!?」


「え、あ、確かに。さっきからチラチラ顔見えてるぞ。動きが早くて、周りは気づいて無いかも知れないけど」


「そうだね。でも、もしかしたら何人か気づいてるかも」


私は試合の結果よりも、ハルくんのチラチラ見える顔が気になってしょうがなかった。


試合の方は残り時間10秒。


ハルくんが勅使河原くんからボールをもらう。上手く相手にフェイントをかけ、シュートを放つ。放たれたボールは綺麗な放物線を描きながらゴールへ向かい、ブザーと共にゴールを決めた。


「やったー!ハルくん格好良い!!」


「やった!晴翔すごい!」


私達は、未だに驚いている人達を尻目に喜びを爆発させた。そして、颯爽とこちらに歩いてくるハルくんを迎えた。


って、ハルくん!!


汗で髪の毛がぁぁぁ!!


私は急いでハルくんの頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。その行為に、周りは若干引いていたが、周りに気づいた様子はない。よし。


誰も見てませんように。私は、ただただそれだけを祈った。


ーーーーーーーーーー


「お、おい、香織。急になんだよ!?」


俺は、急に頭をぐしゃぐしゃに撫で回され驚きを隠せなかった。


「な、なんでもないよ!それより、やっぱりハルくんは格好良かったよ!」


「晴翔、本当に凄かった。か、格好、良かったよ?」


「おう、2人のおかげだな。ありがとう」


それにしても、疲れたな。少し横になりたい。この後は、各競技の結果発表と表彰、クラス順位の発表で今日は終わりのはず。


「俺疲れたからちょっと端っこで休んでるよ」


「あっ、だったら私もーーー」


「西城さん、先生が呼んでるよー」


そんなぁぁぁぁぁ、と言いながら先生の元へ連れていかれる香織。頑張れ、香織。


さて、俺は休もう。


俺が体育館の端っこに座ると、そのすぐ横に綾乃が腰掛ける。なんだろう。すごく良い香りがする。


俺は、眠気のためか、香りに誘われそのまま綾乃の肩にもたれ掛かる。


「ひゃっ!?」


ごめん、綾乃。


でも、もう、疲れて・・・。

俺はそのまま意識を手放した。


ーーーーーーーーーー


「は、晴翔?寝てるの?」


私の肩にもたれ掛かる晴翔。


やばい、近いよぉ。緊張する。心臓の音がかなりうるさい。このままじゃ晴翔に聞こえちゃう。静まれ、静まれ。


はぁ、それにしても晴翔、格好良かったなぁ。


その時、晴翔の身体が私の肩からずり落ちた。幸い、床に落ちることはなかったが、これって、俗に言う膝枕ってやつぅ!?


「はわわわ、どうすれば」


ひゃぁぁ、晴翔の顔が私の太ももの上に。な、撫でても、大丈夫かなぁ。


そーっと、そーっとよ、私。


私はビクビクしながら、晴翔の頭に手を乗せた。さっきまで、激しく動いていたためか、体が温かい。なでなで。


ふふ、寝てる晴翔は可愛いなぁ。さっきまではあんなに格好良かったのに。ギャップ萌え?なんてね。ふふ。


「おい、齋藤の奴ぅ」


「ちょっと活躍したからって、ちくしょう」


「全然羨ましくないんだからな!ちくしょう」


はぁ、ずっと見ていたい。あれからデートはおろか、2人になる時間もなかった。少しでも、晴翔が私を意識してくれるように頑張らないと。


私は晴翔の耳元でそっと囁く。


「晴翔、大好き。私、頑張るからね」


晴翔の頬にそっとキスをした。自分でも、なんでこんな大胆なことをしたのかわからない。しかし、おかげで今後も頑張れる気がした。晴翔と結ばれるために、努力しよう。


この時の私は、周りなど見えておらず、結構な数の生徒が目撃していたことを知らなかった。そして、晴翔の頬が赤く染まっていることに全く気づいていなかった。

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