第14話 撮影開始


「晴翔くん、これも着てみて!」


「晴翔くん、晴翔くん。こっちもお願い!」


俺は言われるがまま、渡された服を着ていく。

その中には、本当にこれで撮影するのか?と疑問に思うような服もあった。


「きゃぁぁぁ、やっぱり似合う!!」


「このキャラ実写やるなら晴翔くんで決まりだわ!」


控え室は異様な盛り上がりを見せていたが、そんな2人の後ろには、般若の形相の恵美さんが。


「2人とも?」


「「ひっっっ!?」」


恐る恐る振り返る2人。


ぎぎぎぎっと、壊れかけのおもちゃのような動き。


「時間がかかると思ったら」


「「す、すみま「なんで呼んでくれないのよ!?」せん」」


・・・。


「「えっ?」」


「ゴホン、小湊さん待ってるのよ?」


じーーーーー。


2人の視線が恵美さんに集中する。

ジト目な2人の視線に耐えられなくなった恵美さん。


「終わってからにしなさい」


「「やったぁぁぁ!!」」


「でも、これとそれとは別よ。待たせた分きっちり給料引くわよ?」


「鬼ー!」


「人手なしー!」


「なんとでも言いなさい。さ、晴翔くん行くわよ」


そう言うと、何事もなかったように、歩き出す恵美さん。俺は素直に従い後を追う。そんな俺達の後ろを、佐野さんも神戸さんも、ぶつぶつ言いながらついてくる。


「恵美さんもノリノリだったよね?」


「バッチリ聞こえたんだから」


まぁ、確かに何か言っていたが、俺としては助けられたので文句はなかった。



ーーーーーーーーーー



「お待たせしました、小湊さんお願いします」


「随分かかったね。でも、その分しっかり仕上がってるね」


「そこはもちろんです。この子は元々素材が良いですから」


「よし、じゃあさっそく撮ろうか」


俺は指示された通りのポーズを撮る。

前回とは違い、指示がかなり細かかった。


視線、指先、表情、どんどん指示が飛ぶ。

仮にもお金を頂くんだ、精一杯やらないと。


「はい、ここで笑顔下さーい」


小湊さんの指示に従い、カメラに向かって微笑む。


「ぶっっっ!!」


突然小湊さんからが、左手で鼻を押さえた。

どうした?と思って見守ったが、どうやら鼻血が出たようで、指の隙間からポタポタと赤い液体が垂れていた。


「だ、大丈夫ですか!?」


近寄ろうとしたが、小湊さんに手で『来るな』と制されたので、仕方なく元の位置に戻る。


「いいよぉぉぉ、もっと頂戴!!」


小湊さんの様子が先ほどよりも明らかにおかしくなってきているが、これも写真に対する情熱なのだろう。俺も必死に食らいついていく。


「ぐっ、一旦休憩!」


バタンッ。


一言だけ発すると、小湊さんはその場で大の字に倒れた。


「あれ、大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ、こっちは任せて着替えてきて。佐野さん、神戸さん次はワイルドにお願いね?」


「「お任せを!!」」


そ控え室に戻ると2人の手により、先ほどよりもちょいワルな感じにされると、撮影を再開した。俺が戻ってきた時には、もう小湊さんは普通に戻っていた。


その後、何度も着替えと撮影を繰り返していく。


「よし、もうちょっとで今日は終わるよー。最後は少し好きに動いて良いよー」


好きに動いて良い、か。

難しいな。指示が出てても難しいのに。


しかし、俺は出来る限り自然に、心のままポーズをとっていく。汗が垂れてくる。俺は手で汗を拭うと、そのまま髪を乱雑にかきあげた。


なんだか暑くなってきたな。おそらく照明のせいだろう。俺はシャツのボタンを外していく。


一つずつ、ボタンを外すたびに、ごくりと唾を飲む音が聞こえる。完全にボタンが外れると、チラリと綺麗に割れた腹筋が現れる。


「「「ーーーーーー!!!」」」


言葉にならない何かが聞こえたような気がしたが、気にせずしばらく動き続けた。そして、10分ほどポーズを取り続けるとOKが出された。



ーーーーーーーーーー


晴翔が着替えのため、控え室に下がっている頃。

スタジオでは、大変なことになっていた。


「くそ、血が足りないぞー!」


「わ、私もやばいです。動悸がします!」


小湊とは違い、鼻血まで出す者は居なかったが、皆胸を押さえて息を整えている。


「あ、あの子、素人ですよね!?」


「安藤さん、本当にやばい子見つけましたね!」


「私も想像以上だったわ」


とりあえず、晴翔くんにあげてもらう写真を選ばないと。んー、これは。全部いいな。決められない。


「皆さん、すみません。小湊さんも意見を聞かせてください」


なになに?とみんなが集まってくる。


小湊さんは、まだ血が止まっていないのか、両鼻に栓をして現れた。


「晴翔くんにSNSで宣伝してもらう写真を選びたいんですけど、どれも良くて困ってて」


「なるほど。確かに、今回は撮ってて、メッチャ気持ちよかったからなぁ」


撮影を思い出したのか、光悦な表情をする小湊さん。この人やっぱり変態だわ。私も気をつけないと。周りからこんなふうに見られたら生きていけないわ。


「とりあえず、多数決で決めて良いですか?」


「「「「「オッケー!」」」」」


せーのっ!!


私のかけ声で、一斉に写真を指で指す。

そして、その指は全部同じ写真に止まっていた。


「えーっと、やっぱりコレですか?」


「撮っててこれが1番興奮した」


「私も動悸がヤバかったです」


「私も」


それぞれ感想は違えど、晴翔くんの腹筋がこんにちはしたヤツに決まった。とりあえず、これをあげてもらうか。


私は早速晴翔くんに、例の写真をあげてもらった。


最初は渋った晴翔くんだが、何度もお願いしたらあげてくれた。晴翔くんは本当に優しい子だ。


今日は何か美味しいものでも奢ってあげるか。晴翔くんへのご褒美のつもりで居たが、自分のご褒美になっているとは、思っていなかった。



ーーーーーーーーーーー



「あれ、この控え室ここのスタジオだ」


私は、田沢桃華たざわ ももか。最近、ちょい役をもらえるようになってきた新人女優だ。今年16歳になる高校一年生。


最近、私は気になっている人がいる。


と言っても、まだ会ったことがない、SNSで知っただけの人。名前はHARU様。最近、突如として現れた超人気モデルである。彼は、モデルをやる前から、ちょくちょくとSNS上で目撃情報が上がっていて、私も気になっていた。


そして、さらに興味を持ったのが、ある人の一言だった。


なんと、私の通っている高校にHARU様が居ると言うのだ。私は入学してからほとんど学校に行っておらず、勿体ないことをしたと反省している。


しかし、現在も仕事でなかなか行けていない現状。


早く会いたいと願っていたら、先程の更新された写真に写っている控え室。あれはここのスタジオで、間違いない。


私は、急いで控え室へ向かった。


すると、控え室の扉には、『HARU様控え室』と貼られていた。やっぱり合ってた!!


私は、必死に呼吸を整えると、髪の毛を少し整え、扉をノックした。


コンッ、コンッ。


「はーい、どうぞ」


中から男性の声がする。

どうしよう、どうしよう!!


行けっ!行くだ私!!


私は勢いよく扉を開いた。


「失礼します!HARU様ですか!?」


やっちゃった。私のばかぁぁぁぁ。

穴があったら入りたいよぉぉぉ。


「えっと、そうですよ?」


さっきまで悶えていた私だが、やっぱりHARU様だと判明すると、テンションが上がった。


「やっぱりですか!?初めまして、私女優の田沢桃華です」


「えっと、モデルで良いのかな?HARUです」


ぴやぁぁぁ、声もかっこいいぃぃぃ!!

それになんですか、そのおエロい腹筋は!?


目のやり場に困ります!!

あっ、そうだ!


「HARU様、写真撮っても良いですか!?」


「いいですよ」


「やった!!」


私は早速HARU様の隣へ。あわわわわわ、近い近い近い!!


落ち着け私、変な子だと思われちゃう。平常心よ、私。


私はなんとか呼吸を整えて、ツーショットの撮影に成功した。SNSにもあげていいと言っていたので、私は早速投稿することにした。


「えへへ、ありがとうございましたHARU様。あの、よろしければ、連絡先とか・・・ダメですか?」


「んー、別にいいですよ」


私達は連絡先を交換すると、HARU様の仕事の関係者の方が来たようなので、私は失礼することにしました。


はぁぁぁ、今日はなんて良い日なんでしょうか?私は早く仕事を終わらせて、学校へ行くことを誓った。


その後、なんとか登校することに成功したが、私がHARU様を見つけられるのは、まだ先の話。

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