第13話 仕事現場


波乱のテスト期間が終わりを告げた。


今、俺は何をしているかというと、屋上で正座をさせられていた。


理由はテスト結果が貼り出された際の、田沢先生の行動によるものだ。あれは先生が勝手にやったことであって、俺は被害者だと思うのだが。


「いい、ハルくん!?絶対に近づいちゃダメだよ!?」


「香織の言う通りだ!!絶対に危ないって、あの先生!!」


「い、いや、お前ら担任だぞ?」


「「それでも!!」」


いやいや、流石に担任に近づかないって不可能に近いのでは?俺は無理難題を課せられているように感じたが、早く解放されるためには、頷く他ない。


「わ、わかったよ。気をつける」


「「ならよし」」


さーて、打ち上げはどこ行こうか?と2人は、さっきまでとは打って変わり、ニコニコしている。


女の子って、忙しい生き物なんだな。


俺はそっと立ち上がると、2人の後をついて行くことにした。また、変なことして正座させられないよう、俺はこの日ずっとおとなしくしていた。



ーーーーーーーーーー



さて、今日は何を着て行こうかな?

クローゼットの中を漁り、服をベッドへ並べて考えていた。


悩んだ末に、無難に白Tにジャケットを羽織ることにした。どうせ向こうで着替えることになるなら、私服はそこまで考えなくて大丈夫だろう。


今日は、恵美さんが家まで来てくれるらしいので、身支度を整えて待つことにした。


一通りの準備を終えると、ちょうど我が家のチャイムが鳴った。お、来たかな?


「はーい」


ガチャッ。


「おはよう、晴翔くん。ご家族は居ないのかな?」


「おはようございます、恵美さん。今日はもう仕事に行ってるので居ませんよ」


「そっか、ご挨拶したかったけど、また今度だね」


さっそく行こうか、と恵美さんに誘導され、車に乗り込んだ。


俺の自宅から、今回の撮影スタジオまで30分程だった。


実際に来てみると、かなりデカい建物で、スタジオ兼ファッションブランドの会社になっているようだ。


地下に入ると、高級車がずらりと並んでいた。


車から降りると、恵美さんの後を追い、建物の中に入る。職員用のエレベーターからスタジオのある5階へ移動する。


「こっち来て、ここが晴翔くんの控え室になるから、ここで少し待っててくれる?飲み物とか勝手に飲んで良いからね」


そう言うと、恵美さんは控え室から出て行った。


案内された部屋には『HARU様控え室』と書かれていた。


HARUという名前は、ツイッターのアカウントを作る時に、恵美さんにつけてもらった名前だ。本名だとなにかと大変になりそうだからと。


それにしても、控え室ってテレビとかでたまに見るけど、本当にこうなってるのか。8畳間ほどの部屋に、メイクをする為のスペースに、ソファ、テーブル。俺のイメージ通りの控え室だった。


テーブルの上には、水とお茶のペットボトルが数本置かれており、俺はお茶を飲むことにした。


「それにしても暇だなぁ」


俺は携帯を取り出し、ツイッターを開いた。

俺のツイッターのフォロワーはいつの間にか1万人を超えており、よくわからないつぶやきが並んでいる。


つい先日、香織に相談したところ、特に解決することはなく、香織と綾乃のアカウントをフォローさせられた。


暇だからなんかつぶやくかな。


俺は控え室から出ると、入口に貼ってあった、『HARU様控え室』の写真を撮った。


その写真と共に、『これから撮影です』と一言付け足して投稿した。


その後、やるとこもなかったので、控え室の中を色々見て回っていた。すると、5分程経つとドアがノックされた。


コンッ、コンッ。


「晴翔くん、お待たせ。じゃあ挨拶行くから来てくれる」


「はい」


俺は恵美さんの後を追って、スタジオへ向かう。


「そういえば、今日のこと投稿してくれたんだね?ありがとうね」


「あ、いえ、暇だったんで。勝手に載せましたけど、よかったですか?」


「あぁ、全然大丈夫だよ。今日は色んな服を着てもらうんだけど、いくつか私の携帯で撮っておくから、それも投稿してもらっていいかな?」


「わかりました、よろしくお願いします」


一番奥の突き当たりの部屋に着くと、そこには大きな扉があった。コンサートホールとかにありそうな重たそうな扉だ。


扉を開けて入ると、そこには大きな白い背景布が天井から吊るされており、その前には立派なカメラが設置されていた。


照明の数もあり得ないほど多く、度肝を抜かれた。


さらに奥には、撮影で使う小道具や、セットが置かれていた。前回の撮影は、ショッピングモールで行ったので、あまり緊張していなかったが、ここに立っているだけで汗が湧き出てくる。



「ほら、挨拶行くよ?」


「は、はい」


カメラの近くで集まるスタッフの皆さんのところへ挨拶に行くと、喋るのをやめてこちらを振り向いた。


「おっ、君が今回のモデルさん?」


「やば、本当にイケメン!」


「安藤さん、どこで見つけてきたんですかー!?」


ここに居るスタッフは、カメラマンさんも含め皆女性の方だった。この業界はこんなもんなのだろうか?


「今回はたまたま女性だけになったけど、普段はこんなことないからね。それと、こちらが今回のカメラマンの小湊桜こみなと さくらさん」


「小湊です、よろしく」


「はい、よろしくお願いします」


小湊さんから名刺を頂き、ペコリと頭を下げた。


「こっちの2人は、前回も居たけど覚えてる?」


「はい、メイクの佐野睦さの むつみさんと、スタイリストの神戸雪かんべ ゆきさんですよね?」


「そうそう、よく覚えてたね」


「「よろしくね」」


「はい、よろしくお願いします」


他にも照明さんなど沢山のスタッフさんを紹介された。なかなか一回じゃ覚えられそうにないな。


「じゃあさっそく、メイクと衣装を合わせてみようか」


「じゃあ先にメイクしちゃおう」


俺は、佐野さんと神戸さんに連れられ、また控え室に戻る。そして、そこから着せ替え人形のようにあれもこれもと着せられたため、撮影までに時間が掛かってしまい、2人は恵美さんにめちゃくちゃ怒られていた。

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