第7話 雑誌の出来栄えは


「ハルくん、待ち合わせ何時だっけ?」


「10時だよ、そろそろ来るんじゃないかな?」


俺達は、以前パフェを食べに来たカフェに来ていた。そろそろ安藤さんが来るはずなんだけど。


「晴翔くん、お待たせ」


「安藤さんおはようございます」


「おはよう。あれ、彼女はどちら様?」


あ、一緒に来ること言うの忘れてた。

昨日、返事の連絡を入れたのだが、すっかり忘れていた。


「すいません、昨日言おうと思ってたんですけど、忘れてて。俺の彼女です。一緒に来たいっていうんで」


「ハルくんのの西城香織です。よろしくお願いします」


ニコニコしながら、安藤さんに自己紹介をした。一瞬驚いたようだが、すぐに我に返る。


「これはご丁寧に。私は安藤恵美です。そっか、彼女ねぇ」


ふむふむ、と顎に手を当てながら俺達を見ている。しばらく交互に見たあと、にこっと笑顔になった。


「いやぁ、こんなにイケメンだからね。彼女の1人や2人は当然だよねぇ。それにしても美男美女のカップルって本当にあるのねぇ」


すごい目をキラキラさせながらこちらを見ている。あまりの勢いに、呆気に取られた俺達はだったが、香織の方は『美男美女のカップル』というパワーワードに機嫌はすっかり良くなっていた。


「そんな美男美女だなんてぇ、本当のことだけど」


ふふふ、と言いながらくねくねする香織。

もう、何を言ってもダメだろう。こうなると香織は自分の世界に入ってしまうので、しばらく放置するのが正解だ。


「すいません、香織は放っといて下さい。しばらく帰ってきませんので。それで、雑誌が出来たとか」


「そ、そうなんだ、個性的な彼女さんだね。そうだった、これが今回の雑誌ね。一応発売は来週の予定なんだけど、一応初めての仕事だったから確認したいかと思って」


はいこれと手渡されたのは、メンズファッション誌だ。ファッションに疎い俺でも知ってるブランドだ。そんな雑誌に自分が載っているなんて、今でも信じられない。


パラパラとめくっていくと、俺の載っているページを発見してした。ほうほう、これかとよく見ると、『期待の新人モデル』『国宝級イケメン』など見出しが凄かった。


「こ、これ俺のことで合ってます?」


「もちろんだよ。こんなイケメン会ったことないもん。ほら、今だって周りがすごい君を見てるよ?」


確かに、言われてみればそうだ。

ただ、香織が可愛いからでは?と考えてしまう。


「俺は普通ですよ。多分香織が可愛すぎるから、みんな見てるんですよ」


「ほへぇ、お暑いねぇ。そんなに可愛い彼女さんが居ると、他の女の子達が可愛く映らないんじゃない?」


冗談っぽく、俺に返してくる安藤さん。

いやいや、世の中可愛い人はいくらでも居るでしょ。


「安藤さんだって、凄く可愛いじゃないですか。仕事してる時の笑顔は本当に素敵でしたよ」


「ひやぁぁぁぁぁぁあああああ」


一瞬のうちに顔を真っ赤にした安藤さんは「ちょっとお花摘みに行ってくるー!」と言って居なくなってしまった。


「あれ?安藤さんは?」


「おっ、やっと帰ってきたか。お手洗いに行ったよ」


「そっかそっか。お、これが例の雑誌だね」


自分の世界から無事生還した香織は、どれどれと言いながら雑誌に目を通していた。


「ふぁぁぁぁ、やっぱりプロは違うなぁ。ハルくんが国宝級イケメンに!」


これは永久保存版だね、と言いながら鞄の中にしまった。

香織さんや。それは俺のですぜ。俺は香織の鞄からスッと雑誌を抜き取った。


「あぁ、私の国宝級ハルくんがぁぁぁ」


名残惜しそうに雑誌を追いかけてくる香織。

全く、雑誌もいいけど本人がいるんだからいいだろ。埒があかないので、少し意地悪してやるか。


「おい、香織」


「ひゃ、ひゃい!」


何故か盛大に噛む香織をよそに、俺は名前を呼ぶと、香織の両肩に手を置いた。


「雑誌もいいけど、本人が居るんだから、俺を見てくれよ」


そう言って、頬に軽くキスをした。

すると、香織だけでなく、周りからも「きゃぁぁぁ!」と叫び声がこだました。


「うお!?びっくりした」


「いやいや、びっくりしたのはこっちですよ」


どうやら安藤さんに見られていたらしい。


「晴翔くんは大胆だねぇ。彼女さん、またしばらく帰って来ないんじゃないの?」


「ははは、そうかも知れないですね」


「そうそう、次の仕事の話なんだけど、いいかな?」


「次ですか?早いですね」


つい先日撮影したばっかりだが、モデルの仕事って忙しいんだなぁ。


「うん、どうしても君にやってもらいたいって、オファーが何件か来ててさ。結構業界では有名人になってるよ晴翔くん」


「うへぇ、そうなんですか?あんまり注目されるの嫌なんですよね」


「そうなんだ。でもこの容姿じゃ、諦めないといけない時もあるかもね。何社か芸能事務所もDM送ったみたいだよ?」


「DMってなんですか?」


初めて聞く単語に、素直に聞き返すと、これまたびっくりされた。どうやら俺は世間の流行に全く乗れていないようだ。今後は少しずつ学んでいこう。


「本当に晴翔くんは、高校生なのか疑っちゃうわ。後で彼女さんにでも教えてもらって」


「ははは、よく言われます。そうですね、少しずつ教えてもらうことにします」


「うん、それがいいね。それで次の仕事なんだけど、ちゃんとしたスタジオで撮りたいから後で住所送るね」


「わかりました。連絡待ってますね」


一通り仕事の話も終えると、安藤さんはこれから職場に戻るそうなので、カフェの入口まで一緒に行き、見送った。


席に戻ってみたが、まだ香織はくねくねしていた。そろそろ正気に戻さないとな。


俺は香織に近づくと、耳元で名前を呼んだ。


「香織、終わったよ」


「ひゃえ!?」


よし、一発で戻ったぞ。なんだか、周りの人達の視線が気になるから早く出たかった。なので、覚醒した香織の手を引っ張りカフェを出る。


とりあえず、俺達はそのままデートへとくりだした。だが、デートとは名ばかりで、いつも通りウインドウショッピングを楽しんだ。


そういえば、そろそろ中間テストの時期だったな。テストが近くなると、決まって香織との勉強週間が始まる。特に約束したわけではないのだが、いつからかこれが当たり前だった。


2年生になってからは、順位も張り出されるようになるって先生も言っていたから頑張らないとな。


そうだ、明日大塚さんに会ったら、勉強会誘ってみるか。そういえば、なんで明日行くんだっけ?


俺は、肝心なことを聞かされないまま、彼女にとって大切な一日を迎えようとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る