第6話 週末の予定は?


「さて、ハルくん。さっさと白状して楽になっちゃおうか?」


そう言って、携帯のライトをこれでもかというほど、顔面に当てられる俺。


「いや、白状って言っても、特に何も」


「嘘おっしゃい!ネタは上がってるんだよハルくん!?」


そう言って、携帯を操作しだしたと思ったら、あるツイッターのアカウントを見せられた。


あ、うん。俺のだわ。


「なんでツイッターを始めたのかなぁ?」


え、笑顔が怖いっす、香織さん。

俺はとりあえず、先日のことを話すことにした。


「まず、暇になったから買い物にいって」


「そうだよね、それはしょうがないよ。私も悪かったよ」


何故かすごい後悔している香織。

今日の香織は表情豊かだなぁ。


「服を買おうとしたんだけど、そこでこの人につかまって」


そう言って名刺を見せた。


「どれどれ、安藤恵美。うわ、結構大きい会社じゃん。なんで買い物行っただけで捕まるのよ、もう」


「よくわからんけど、服くれるって言うからとりあえずバイトして、今後も来てくれって言われて」


「まぁ、そうだよね。ハルくんが宣伝すればそりゃ売れるでしょうよ。服も雑誌も」


そして、最後に本題のツイッターの件。


「それで、宣伝するのにSNSでって言われて、教えてもらって作ったんだよ」


スマホなんて連絡でしか使ってないから、アカウント一つ作るだけでも一時間以上使ったんだ。本当に頑張った、俺。


「なるほど、経緯はわかったよ。でも、なんで昨日の今日でフォロワー3000人超えてんの!?しかも、1人だけちゃっかり相互フォローじゃん!!あっ、安藤ってこいつか!!」


「うん、なんかフォロー?してって言われて」


「むむむ、なんて手の早い泥棒猫だ。綾乃ちゃんと作戦会議だよ」


よくわからないが、とりあえず納得してくれたのかな?

SNSはさっぱりだから、フォロワー3000人と言われてもピンとこない。そんなにすごいのか?


「ハルくん、私はちょっと大事なようがあるから、昼休みはちょっと席外すけどごめんね」


「うん、わかったよ。じゃあ屋上で寝てようかな」


香織はどうやら大塚さんと用があるようで、廊下に出ると2人で何やら話し込んでいる。お互いにすごい表情で、尋常じゃないオーラが出ている。大丈夫なのだろうか?


その時、親と香織でしか鳴らないはずの携帯が鳴った。

お、安藤さんだ。なんだろう?


「はい、もしもし」


「あ、もしもし晴翔くん?雑誌なんだけど、みんなやる気満々でさー、もう出来ちゃったんだよね。今週の土曜日に一度会いたいんだけど」


「えぇ、もう出来たんですか?早いですね。今週の土曜日ですか?多分大丈夫ですけど、一応確認したら連絡入れますよ」


「ほいほい、わかったよー。それからツイッターの宣伝ありがとうね。めっちゃ反響あってさぁ、上司からも褒められちった。てへへ」


「いえいえ、SNSはよくわからないんで、たまにしかやらないと思いますけど、手助けになったのならよかったです」


その後、二、三会話した後、電話を切った。

ここで勝手に予定を入れると、また香織が怖いからな。一応知らせておくか。


俺は同じ轍を踏まないように、香織に相談することに決めた。



ーーーーーーーーーー


「あ、いいところに、綾乃ちゃん」


「おっ、香織。私も探してたんだ。で、どうだったの?」


どうやら綾乃ちゃんも、私と同じ話のようだ。

話が早くて助かるわ。


「うん、それがねーーー」


とりあえず、ハルくんから聞いたことを順番に話していった。


リアクションは概ね私と同じで、やっぱりこんな反応になるだなとちょっと安心した。


「そんなことあるのか。それにしても、私がデートする前になんで変な虫が付いてんのよ」


「うぅ、それはもうどうしようもないからさ。早く綾乃ちゃんにもハルくん親衛隊として活動してもらわないと」


「なんだよそのダサい組織は。もっといい名前あるだろ?」


「例えば?」


「うぅ・・・。そう言われるとすぐ出ないが」


「てか、名前なんてどうでもいいの。綾乃ちゃんも早く自分の気持ちに正直になるべきよ。今度の土日のどっちかでどう?」


「土日か。特に用事はないが、早くないか?」


若干の焦りを覚えた私は、自分の気持ちに正直になれるよう綾乃ちゃんの背中を押すことにした。


「ううん、むしろ遅いよ。初恋が実らないなんてよくある話なの。なのに初恋かどうかもわからないなんて論外なの!」


「そ、そうか、そうだよな。わかった、週末で頼むよ」


「よし、じゃあハルくんには言っておくから」


綾乃ちゃんとの話し合いが終わり、私は早速ハルくんの元へと向かう。学校とはいえ、ちょっと目を離すとすぐ問題を引き寄せるからなぁ。



ーーーーーーーーーー


「暇だなぁ」


俺は久々に1人の昼休みを満喫?いや、退屈な時間を過ごしていた。香織が居るのが当たり前になってたなぁ。


しみじみと、物思いに耽っていると、屋上の扉が開いた。

お、香織かな?屋上にいるって言っといたし。


俺は入口の方に振り返るが、予想外の人物だった。

予想外すぎて変な声が出てしまった。


「へっ?せ、先生、どうしたんですか?」


振り返った先には、俺のクラスの担任、田沢紘子たざわ ひろこ先生。容姿端麗で学校一人気な先生だ。出るとこは出る魅力的な体型で、芸能人と比べても負けていない。


「あのねぇ、何でも何も、屋上は立ち入り禁止よ?」


「えっ、そうなんですか!?」


空いてたし、大塚さんも使ってたからいいのかと思ってた。


やばいな、田沢先生は生徒の間で怖いことでも有名だ。説教されたら放課後は一時間以上返してもらえない。


「はぁ、まあ今回は見逃してあげるわ。早く行きなさい」


「い、いいんですか?」


「なに?そんなに私にお説教されたいの?ほら行くわよ」


「は、はい、すみません!」


とりあえず、怒られる前に帰ろう。俺はそそくさと出入り口へ向かった。香織が来る前にと思ったのだが、扉を開けるとそこには香織が立っていた。突然の登場にびっくりしたが、このままだと香織まで怒られてしまう。どうするか。


「なんで田沢先生がハルくんと2人で屋上にいるんですか?」


「なんだ西城か。先生と生徒が2人で居るのは不思議なことではないだろう?」


「まぁ、そうですね。そういうことにしておきます。いこっ、ハルくん」


「お、おう。じゃあ先生、失礼します」


先生に軽く頭を下げると、先生は『またな』と手をあげた。


それを見た香織は余計に不機嫌になり、俺の腕を引っぱる力がより一層強くなる。


俺はそのまま、引っ張られる形で教室まで向かった。教室の前まで行くとやっと解放された。


「な・ん・で、先生と2人だったの?」


「いや、1人で時間潰してたんだけど、先生が来てさ、屋上入っちゃダメだって」


「はぁ、先生が屋上なんてわざわざ来るわけないし、怪しい。ていうか、田沢先生には気をつけてって言ったでしょ?」


「そんなこと言われても、不可抗力だよ」


確かに以前、田沢先生と喋った後、香織からそんな話をされた気がする。何に気を付ければいいというのか。


「とりあえず、私か綾乃ちゃん、どっちかの近くに必ず居ること、わかった?」


「香織はわかるけど、なんで大塚さん?」


「いいから!わかった!?」


「は、はい!」


あまりの迫力に、思わず返事してしまったが、どうして大塚さんなんだろうか?後で聞いてみるか。


「そうだ、今度の土日のどっちかで、綾乃ちゃんの買い物に付き合ってあげてよ」


「えっ、なんで?」


「いいからいいから。よろしくね」


「うーん、まぁいいか。じゃあ日曜日でいい?土曜日に安藤さんに呼ばれてて」


「はぁ!?安藤って、なんであの女が!?」


「さっき電話あって、雑誌が出来たから一回会いたいって」


「ぬわぁぁぁぁぁぁあ」


「だ、大丈夫か、香織?」


「・・・も、いく」


「え、ごめん、なんて?」


「わ・た・し・も・い・く!!」


覚えてろよー、泥棒猫ー!!と窓から叫ぶ香織。今日の香織は情緒不安定だな。アイスでも奢ってやるか。


香織と付き合いだしてから、何かと女性と関わることが増えてきた晴翔だが、自分が周りの人達を振り回して居るとは、全く気付いて居なかった。

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