第4話 バイトは突然に


学校へ向かういつもの道。

決して何かが変わったわけではないが、彼女が出来たというだけで見えていた景色が変わる。


昔、何かの本で読んだことがあったけど、まさか本当の話だったとは。馬鹿にできないぜ。


「ハルくん」


「ん?どうした」


「ううん、なんでもない」


そういうと、ニコニコとしながら前を向いて再び歩き出す香織。あぁ、いつみても可愛い俺の彼女。幸せを噛みしめながら登校する。


学校に着くと、なんだか色んな人に見られている気がする。

俺たちが二人で登校するなんて、毎日のことだ。それこそ、一年以上続けている恒例行事。今更騒ぐことではない。他に変わったことは・・・。


そんなことを考えていると、前のほうからすごい勢いでこちらに近づいてくる人物がいる。


「おはよう、西城さん、齋藤くん。2人とも、ちょっといい」


あいさつも程々に、またしても大塚さんに拉致られる俺、いや俺たちか。今回は、校舎裏ではなく屋上だった。てか、屋上って入れるんだ。良いとこ見つけたな。


「西城さん、ツイッターやってたっけ?」


「やってるよ、大塚さん。それがどうしたの?」


香織がツイッターをやっているのは俺も知っている。前に勧められたが、俺はやっていない。面倒くさいし、誰も俺のことを知りたがらないだろう。


「じゃあ、この状況は理解してるってことか」


「もちろん」


え、何の話?

もしかしてツイッターやれば理由がわかるのかな?


「それならいいけど、齋藤は・・・知らなそうだね」


「ハルくんは知らなくていいの」


「らしいよ」


とりあえず香織のいう通りにしておこう。

その後、俺たちはすぐに解放され、いつも通りの日常に戻った。



----------


今日も無事に終わり、放課後となった。

なんと、今日の放課後は一人なのである。珍しいこともある。

香織は用事があるらしく先に帰宅した。最後まで帰りたくなさそうだったが、親の車に乗せられドナドナされていった。


さて、かなり久しぶりの一人時間だ。有効に使おう。

そうだ、ショッピングモールに行って何か買うか。服とか雑貨とか色々揃えたいしな。


俺はさっそくショッピングモールに向かった。

そして、俺が一番最初に向かったのは、トイレである。


陰キャの俺が一人でいていいことは皆無だ。であれば、俺であると気づかれなければいいのだ。俺は、トイレへ行くと髪を整えた。正直これで変装になるのか疑わしいのだが、香織以外は誰も気づかないところを見ると完璧なのだろう。


変装を終えると早速、洋服を買いに行くことにした。


しかし・・・。


これは、まずいぞ。

何を買っていいか、全然わからねぇ。


いつもは香織が選んでくれていたから、うっかりしていた。

困り果てている俺に、救いの手が差し伸べられた。


「き、君!ちょっと時間いい!?」


「ん?俺ですか?」



---------



私の名前は安藤恵美あんどう めぐみ、大手ファッション会社に勤めている。

今日は、このショッピングモールでファッション誌の撮影をする予定だったのだが、なんとモデルの男性がまだ来ていないのだ。


あの人、顔は良いんだけどあんまり良い噂聞かないのよねぇ。

仕事の遅刻は当たりまえ、私生活でも女にだらしないとか。はぁ、早く来ないかしら。


開始予定を1時間過ぎても、彼はやってこなかった。


「ねぇ、あいつとは連絡とれたの!?」


「すいません、留守電で繋がりません」


ったく、もう!!

どうすんのよ、撮影。今日の相手は大口なのよ?早く来なさいよぉぉぉぉぉぉ。私は辺りをキョロキョロと見渡した。


すると、ちょうど今日の撮影で使用する、ブランド店で買い物中の若者を発見した。

なかなか良いわね。背も高いし、スタイルもめっちゃ良い。これで顔がよければ代役頼みたいくらいなんだけどなぁ。


おっ、振り返る。

えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!


めっっっっっっちゃイケメン発見!!


「き、君!ちょっと時間いい!?」



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「ん?俺ですか?」


振り向くと、そこには凄い笑顔で息を切らせた女性がいた。やべぇ奴に捕まってしまった。


「君は高校生?今日は一人?時間はある?彼女いるの????」


「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい」


「もし時間あれば協力してくれないかしら?」


「協力?」


俺は、返事をする間もなく女性に連れていかれた。特に説明されることなく、どんどんことは進んでいき、今カメラの前にいた。


「なんでカメラ。てかこの服なに?」


「ちょっとそこに立っててくれればいいからね!」


その後、よくわからないが服をプレゼントしてくれるとのことなので、言われるままポーズをとることにした。一体これは何をやっているのだろうか。


ここのスタッフ?の人たちは女性ばかりで、みんな息が荒く怖かった。恐怖に苛まれながら、この状況は1時間程度続いた。



「いやー、今日は助かったよー晴翔君!」


はいこれ、お礼だよと言いながら今日着ていた服を大量にもらった。

お金の出費も抑えられたし、無事選ぶことができてよかった。


「すいません、こんなに頂いてしまって」


「いいのよ。今日は急だったからお金が渡せなくてごめんね。もしよかったらうちでバイトしない?」


「いえ、ちょうど服欲しかったんで。えっと、バイトですか?」


「そうそう、これ私の名刺ね。あと連絡先交換してもいいかな?」


名刺をもらった後、安藤さんと連絡先を交換した。俺にモデルが務まるのか心配だったが、スタッフ達から太鼓判を押され渋々了承した。


「それじゃ、また連絡するね晴翔くん。あ、ちなみに今日の雑誌は後で届けに行くからね」


「わかりました」


特に雑誌に興味はなかったが、報酬が良さそうだったので次のバイトを待つことにした俺は、大量の荷物を抱えて、自宅へと向かった。


一方そのころ。


「安藤さん、あの子イケメンでしたね!」


「早く次の撮影呼びましょうよ!」


「まぁまぁ、少し落ち着いて。すぐに会えるわよ」


今時ツイッターをやってない高校生がいるとは思わなかったけど、やり方教えたからきっとアカウント作ってくれるだろう。そしたら早速フォローしないと。


この後、俺はツイッターのアカウントを作るのだが、作るまでに1時間以上かかったとか、かからなかったとか。まじ大変だった。

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