第3話 1人目の彼女は幼馴染


「おいおい、なんであいつらが居るんだよ」


「面倒くさいけど、パフェ食べたいから静かにやり過ごそうか」


俺達は目的地に着いたが、そこで思わぬ人物に遭遇した。つい先日、トラブルのあった大塚さんと町田ガールズ達だ。


「お客様、2名様ですね。ご案内致します」


店員さんの案内で席へと向かう。

人気の店というだけあって、残りひと席だけだった。

空いてたのはいいのだが、何故この席なんだ。



俺達が案内されたのは、大塚さん達の横の席だった。

思わずため息が出たが、気を取り直しいつも通りの手筈で行くことにする。


俺は何故だか、髪を整えるだけで誰も気付かないのだ。香織はそれでいいと言うのだが、俺としてはクラスメイトにも気付かれないのは少し寂しい。


さらに、気付かれないのをいいことに、香織は俺の事を聞かれたとき、いつも彼氏だと紹介し、名前も適当に呼ばれている。



パフェを注文し、なるべく気配を消して居たのだが、周りがざわついている気がする。


『ねぇ、あの人芸能人かな?』


『一緒にいる女の人も綺麗ね』


『美男美女カップルは目の保養になるわ』


そんな声がチラホラと聞こえてくる。

さらに、隣の席もどうやら香織に気が付いたようだ。


「ねぇ、隣の席。西城さんじゃない?」


「あっ、本当だ。一緒に居るひとすっごいイケメンじゃない!?」


「ちょっと聞いてみようよ」


ヤバいな、完全に気付かれたぞ。頼むからこっちに突っかかってくんなよ?


しかし、俺のそんな願いは聞き届けられることはなかった。


「こんにちは、西城さん。こんなとこで会うなんて奇遇だね」


「こんにちは、みなみさん、鳥居とりいさん。そして、大塚さん」


香織が返事をすると、南さん、鳥居さんとは違い大塚さんはピクッと反応する。なんだか2人の後ろに、龍と虎の姿が見えるような・・・。気のせいか。


「こんにちは、西城さん。隣の人はお友達?」


大塚さんの目つきがいつにも増して厳しいような気がする。頼むぞ、香織。変なこと言うなよ?


「お友達・・・。いいえ、私の彼氏ですよ大塚さん。かっこいいでしょ?」


すんごいドヤ顔でそう言い放つ香織と、より一層機嫌が悪くなる大塚さん。なんだかヤバい雰囲気になってきたぞ。


「へぇ、彼氏・・・ね」


ふーん、と言いながら大塚さんが俺に近づいてくる。


「本当に付き合ってんの、齋藤?」


「へっ?」


い、今、齋藤って言いませんでした?

あのー、バレてるんじゃないでしょうか、香織さん。


「あっ、パフェがきた。大塚さんごめんね。パフェが来たからまた後でお話ししましょ?・・・色々と」


「そう、それじゃしょうがないわね。また後で聞かせてね。色々と」


良くわからないが、パフェに救われる形になった。

危なかった。サンキュー香織。


その後、パフェを食べた俺達は、最後の目的地へと向かった。今日こそは、俺の気持ちを伝えるんだ。俺は密かに決心を固め、目的地へと向かった。



ーーーーーーーーーー



「へぇ、海かぁ。久しぶりに来たね」


「そうだな」


少しベタだと思ったが、告白の場所に選んだのは、電車で1時間圏内の海辺だ。昔から何かあるとここによく来ていた。


そして、今回も俺にとって特別なとき。

しかし、人生初めての告白。今までずっと一緒に過ごして来た幼馴染へ、俺の特別な存在になって欲しいと願うことは、今までの関係には戻れない事を意味している。


それがどうしても怖かった。

もしものことばかり考えてしまう。


「なぁ、香織」


「なに、ハルくん」


俺は意を決して、香織に向き直る。


「香織、俺と・・・」


続く言葉が出てこない。

だが、香織は俺から目を離さず真剣な表情。

その顔を見た瞬間、胸のつかえはとれ、すっと言葉が紡がれた。


「俺と、付き合ってくれ」


「うん、もちろん」


「答えはすぐじゃなくてもいいから・・・」


・・・。


「えっ、今なんて?」


「だから」


そう言って、香織は俺に近づき、そっとそっと唇を重ねた。人生初めての告白。初めてのキス。頭が真っ白になった。


「全くもう。何年待たせる気なのよハルくんは」


頬を赤く染め、イタズラっぽく言う彼女は本当に綺麗だった。そして、その彼氏になれた事を喜んだ。


「ごめん、ごめん。お待たせ」


「本当に」


俺達の関係は、幼馴染のから、恋人へと変わった。

だからといって、なにかが変わるわけではなく、いつも通り一緒に居ることだろう。


「そういえば、ハルくんは何人くらい奥さんもらう気なの?」


「えっ?俺は香織がいればそれだけで」


香織はおそらく一夫多妻に抵抗感があるはずだ、今までの言動から言ってそれは明白。この話をするということは、他の女性に振り向くなということだろうか?


「別に何人でもいいんだけどさ。増やす時は相談してよね」


「相談もなにも、増えないと思うぞ?」


「ううん、すぐに増えるよ。・・・大塚さんだったら許してあげてもいいんだけどね」


「ごめん、後半聴こえなかった。なんだって?」


「なんでもない。帰ろうか彼氏くん」


この時は、自分がモテると思っていない俺は、香織の心配は杞憂だと思っていた。しかし、俺の生活を一変する出来事が待ち受けているとは、思ってもみなかった。

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