第5話 説得

「なにをいっているのですか」


 信じられないといった顔の京極が玄関でそうつぶやいた。


『だから、お前が住んでいる部屋は解約した』


「突然、ほんとにどうなさったのですか・・部屋にある荷物は・!」


『全て私のマンションへ運び込むように手配している』


 ネクタイを締めながら、月城は京極の方を見向きもせず、家を出る準備をしている。普段寡黙で冷静な京極もこの状況には、動揺してしまい、玄関に立ち尽くす。


「そんな・・。いくらなんでも、強引すぎます・・」


『すでに手配済みだ。あきらめろ。もう時間だ。会合へ行くから車を出してくれ』


「っ・・かしこまりました」


 会合の時間へ遅れるため、とりあえず月城のマンションから車を出し、先方と待ち合わせの場所へと車を走らせる。


 京極は昨日、月城をマンションへ送る道中と同じく、バックミラーから月城の表情を確認する。すると、窓の外を眺めていた月城が振り向き、目が合った。


『お前、さっきから私を見すぎだ』


「っ・・申し訳ありません」


 月城会長は何をお考えなのだろうか。今日は、この会合のあとは本社で打ち合わせ、先方との会食と夜遅くまで予定が詰まっている。仕事に集中しなければならない。



「お疲れ様でした会長。本日の予定は以上になります。マンションへお送りしてよろしいでしょうか」


『あぁ、今日はこのまま帰宅する』


 スケジュール最後の会食が行われた料亭をあとにし、月城のマンションへと向かう。


 料亭での会食では新プロジェクトの展開案について、先方と打ち合わせを行っていた。月城会長は最近、まともに休みも取れておらず、働き続けている。


 私自身は休みはしっかりといただいており、自分がいないときは同僚の佐倉というものが会長の付き添いを行ってくれている。


 しばらく車を走らせ、月城のマンションへと到着し、荷物を持つと月城とともに

月城の部屋のあるフロアに移動する。部屋に到着し、扉を開け、荷物を下ろす。


「会長、明日は午前中は建築現場周辺への下見と、パートナー会社との月次報告会、そのあとは雑誌の取材対応となっております。明日は10時前にはお迎えに上がります」と京極が明日のスケジュールを説明する。


 すると、月城が玄関からみて、入って左側手前から2番目の扉を指すと


『お前の部屋そこだから、荷物も運んである』


 「っ・・ほんとに運びこんでしまったのですか・・!」と恐る恐ると靴を脱ぎ、部屋の中を見ると、夜景が一望できる綺麗な寝室スペースへ、京極の私物である本や服が綺麗に収納されていた。


「ほんとに運びこまれてしまうだなんて・・勝手にもほどがあります・・」


『もうすでにお前のマンションは解約しているし、今ここを出ていくと野宿になるぞ。

それに外に泊まるにしても荷物は全てこちらへ移動しているから、そんな生活も長くは続けれないだろう。大切な持ち物を全て運び込んでいるしな』


「会長、何が目的なのですか、、」



『お前は私と暮らすのはいやか』

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