第4話 嫉妬

『今日は夜食事の予定があるから、あけておいてくれ』


 月城会長がそう伝えてきた。すぐタブレットを開き、スケジュールを入力しながら、前後の予定を確認する。


「会食ですか」

『いや、プライベートの予定だ』

「かしこまりました」


 「誰とのお食事ですか」そう聞けたらどれくらいいいか。友人かそれとも恋人か…。このケースだけではない、月城会長はやはり男女ともに人気がある。先日、取引先の商談に行った際にも先方の社長から口説かれていた。


「月城くん、今度2人で食事でもどうかな。君の会社のビル近くで美味しいフレンチのお店を見つけたんだ」


『フレンチいいですね。でも、残念ですが、その日は先約が・・』


「そうか、それは残念だな。月城くんには、いつも先約がはいっているって断られちゃうな。どうしたら、デートに誘えるのかな」


『たまたまですよ。でも、今進めているプロジェクトに関わる商談などあれば、お時間を空けて、じっくり2人でお話きかせていただきたいところなんですが・・』


「そうか。それなら、君のために一肌脱ごうかな。次は期待していてくれ」


 『楽しみにしています。』と月城会長が微笑み営業スマイルを向ける。こうした仕事の場でも、口説かれていることは日常茶飯事なのだ。


 月城会長自身も営業トークは多少必要だし、適当にあしらってその場が保たれるなら、多少のリップサービスも仕方ないだろうと言っていた。


 実際にこうした場合に誰かと2人で食事に行くこともある。が、自分には止める権利もなく、月城会長へ送迎の申し入れをしても、タクシーで帰るからと、送迎も断られ、付き添うこともできない。


 もしかしたら、タクシーで帰らず、相手と一晩過ごしているから、送迎が必要ないのではないかと、悪い想像をしてしまっている。


 こうした日常があり、自分の感情をこらえながらも、切なく、苦しい感情を日々感じながら、過ごしていた。



 京極は月城のマンションをあとにし、自分のマンションの部屋へ着くと月城へ明日の会合の資料を送付し、その足でシャワーを浴びた。

 

『『お前、私のこと好きなのか?』』


 この問に、YESと答えていたら、月城会長はどんな反応をしただろう。あの時、「そうです」と白状すれば、この関係は変わっていたのだろうかという考えが頭をよぎる。


 頭を冷やさなければ・・。どこまで都合のいい妄想をすればいいのか。現実は違う10年の間、何もなかった。これからも何もなく、彼の部下として働ければそれでいい。

 明日、引っ越しの件については断りをいれよう。


 シャワーが終わり、社用携帯を確認すると、先ほど明日の会合資料を送付したメールへ『ありがとう』と一言だけ、月城から返信が来ていた。明日に備えて、京極は寝床へ入り、眠りについた。



「な、なにをいっているのですか」

『だから、お前が住んでいる部屋は解約した』


「荷物は・!」

『全て私のマンションへ運び込むように手配している』


「そんな・・!いくらなんでも、強引すぎます」


 説得するはずが・・朝からなぜこんなことに・・・。

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