第2話 複雑


『お前、明日の終業後からこの部屋へ住め。』



 そう月城が言い放った。京極は固まり、月城の発言が理解できず、言葉を詰まらせていた。

 すると、月城はジャケットを脱ぎながら、続けた。


 『聞いているか。明日からこの部屋で暮らせ。わかったな』


 月城はそう言い放ち、リビングの扉を開ける。ようやく言葉の意味だけを理解した京極は慌てて、「さすがに会長のご指示であっても困ります」と反論し、続けて、月城を説得する。


「なぜ、突然このマンションで暮らせとおっしゃるのですか‥。私にも私の生活がありますので、その命令は聞きかねます。」


『私の言葉が聞けないのか・・。まぁいい。お前に選択肢はない。明日荷物を移動しろ。もう今日は下がれ』


 そういい残してリビングの扉を閉めて、奥の部屋へと消えていってしまった。

「会長!月城会長!」と玄関から呼んでも、応答する気配がない。しばらく待って、反応がないため、とりあえず外に止めたままにしていた車へ戻る。


 京極は運転席へ座り、脱力したように俯く。


 会長は何をお考えなのだろうか。自分に気があるか聞いたり、しまいには先ほどの発言。自分の気持ちが漏れてしまっていたのだろうか。それなら、なぜ、会長のマンションへの引っ越しの提案を?多くの疑問が残る・・。


 とりあえず、明日、会長の部屋への引っ越しは再度会長を説得しよう。しっかり話し合えば理解していただけるはずだ。


 正直、会長との共同生活なんて、夢にも思っていなかった。しかし、会長と一つ屋根の下なんて考えただけで、気持ちを抑えられる自信がない。理性も正気ではいられないだろう。仕事にも身が入らない。何としても阻止しなければいけない。







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