赤のラナンキュラス

Anemone

第1話 突然

 いつも彼への花には赤色のラナンキュラスを添えて、贈る。

赤色のラナンキュラスの花言葉は「あなたは魅力に満ちている」。



 私は10年の間、愛している人がいる。


 この気持ちを伝えることや、ましては悟られることも許されない。それでもただ、あの人のことを、思い続けてしまう。それでよかった。

 気持ちを悟られないよう、10年の間、この思いを押し殺し、隠してきた。それなのに今の状況はなんだ・・・・!?


 ◆


『お前、私のことが好きなのか?』


 突然のことだった、自身が勤めている口からこの言葉が放たれた。

 今日は新設予定の大型マンションの企画公開パーティーに参加し、この言葉を聞いたのは、その帰りの車を運転しているときだった。動揺を必死に隠し、後部座席に座る月城の表情をバックミラー越しに、少し確認しながら、問い返した。


「なんのことです?」


 秘書の京極は後部座先に座る月城に動揺が悟られないよう、冷静に返答した。月島は後部座席の窓から、外を眺めており、表情が見えなかった。窓の外を眺める月城の横顔が綺麗で見とれていた。長いまつ毛が動き、こちらをみる。そして、続けてこう言ってきた。


『お前、私に気があるだろ』


 驚いた。驚きから時間が止まり、自分の鼓動だけが聞こえる。動揺を隠しながら、ウインカーを出して、信号を曲がる。


「急に・・どうしてそのようなことを・・。仕事面では、尊敬はしておりますが、そのような邪な気持ちは、あいにく持ち合わせておりません」

 

 落ち着いた振りをし、何を言っているんだという様子を装う。

 会長への気持ちが知られてしまったら、今まで築き上げてきた信頼や秘書としての立場を失うかもしれない。現在の関係が壊れてしまうのが一番恐ろしい。自分以外が秘書として、そばにいることを考えると冷静に我に戻ってきた。


 しかし、恋愛にも開放的で、他人の恋愛にも関心がなかった会長がなぜ。突然、こんな話を?動揺を落ち着かせるため、運転席の窓を少し開けて、風を社内へ送る。


『まぁいい。それより、明日の会合の資料、差し替え後のものを送っておいてくれ』


「かしこまりました。帰宅後、メールにて送付させていただきます」



 会長のさっきの発言はなんだったんだ・・・。とりあえずひとまず、回避できたみたいだ。胸の高鳴りが止まらないが、必死に抑え、静かな表情を浮かべる。

 そうしていると、月城のマンションの下へ到着した。マンションの前でハザードをたき、車を泊める。


 京極は後部座席のドアを開け、月城をおろし、今日のパーティーの荷物をトランクから、おろす。月城とマンションのエントランスへ向かい、エレベーターで月城の住むフロアへ上がっていった。

 

 会長は昔も今も変わらず、男らしく艶やかな雰囲気を放っている。誰もほっておくわけもなく、男女共に人気があり、引く手あまたである。


 もしかしたら、特定の相手もいるかもしれない。普段はなるべく、恋愛関係などプライベートな部分は避けて、会話をしており、マンションの部屋にも入ったことはない。

 これは自分の中で会長との距離を保つためだ。エレベータが月城の部屋のフロアへ到着した。部屋の入口へと向かい、部屋の鍵を開ける。


 「こちらにお荷物置かせていただきます。本日はお疲れ様でした。」といい、京極が玄関へと荷物を下ろす。


「それでは、私はこれで失礼させていただきます。明日、10時頃にお迎えに・・」


 と、言い、京極が頭を下げ玄関を出ようとしたとき、月城が突然驚く提案をしてきた。



『お前、明日の終業後からこの部屋へ住め。』




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