終幕のための幕間

 煌びやかに飾り立てられた部屋。豪華な調度類。金と赤に溢れたその部屋に、美しくない物など存在しない。


 だがそのすべての美が陳腐に思えてしてしまうくらい、少女は美しかった。


 金の髪は華やかに結い上げられ、ルビーがふんだんにあしらわれた豪華な髪飾りに彩られている。漆黒のレースを差し色に使った深紅のドレスは、まるでバラのようだ。だが目を伏せて静かに座している姿はどこか儚げで、深紅のバラと形容するにはいささか覇気が足りない。


「女の支度は、随分と時間がかかるものだな」


 カティスはサラの前で足を止めると、指を伸ばした。


「だがその支度が自分のためにされていると思うと、待たされるのも悪くない」


 サラのあごにかかった指が、無遠慮にサラの顔をあおのかせる。サラはそれにあらがうことなく顔を上げた。


 だがその琥珀の瞳に意志の光はない。瞳そのものはカティスに向けられているのに、サラはその向こうに何か違うものを見ているようだった。


 カティスはうっそりと残虐に微笑むとサラの耳元に唇を寄せ、睦言むつごとささやくように言葉を紡ぐ。


「あの男は死んだ」


 ここに連れて来られてから今まで何をされても反応を示さなかったサラが、その一言でピクリと体を震わせた。


「力を持たないあの男が、あの炎をしのげるはずもない。あの男は死んだ。この世界にはもういない。誰もお前を迎えになんか来ない。……諦めろ」


 カティスは体を離すと、そっとサラの顔を覗き込んだ。


 サラの瞳はやはりカティスのことを見ていない。だがその琥珀の瞳から一粒、透明な雫がこぼれ落ちていく。


 その様にカティスは満足そうに笑みを深めた。


「さあ、来い。婚礼の儀式が始まる」


 腕を掴んで強引に引き上げれば、サラは逆らうことなく腰を上げてカティスに従う。


 ──神が不在の儀式など、茶番以外の何物でもないと思っていたが……


「茶番に乗るのも、また一興」


 獰猛な笑みを深めたカティスは、引きずるようにサラを連行しながら扉を開けた。

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