王子様の我が儘

 夢を、見ているのだと分かった。


 リーフェとヴォルトと……兄の声。少し離れた所から聞こえてくるのは、多分兄の従者の物だろう。


 今の自分に聞こえるはずもない声だ。だって自分は、絶対の危機に立たされていたのだから。


 こんな呑気な会話が聞こえるはずがない。イーゼのことをリーフェとヴォルトが責め倒すという、どこか漫才じみた会話が。


 ──もしかして俺、死んだのか……?


 走馬燈が走る代わりに、懐かしい声が聞こえているのかもしれない。ボルカヴィラ王太子に殺されたのはかんに障るが、こんな風に穏やかな声が聞こえるならば、死も悪くない。


 自分が死んでもアクアエリアにはイーゼがいる。しばらくは混乱するだろうが、ハイトが抜けた穴はリーフェとヴォルトが埋めてくれるはずだ。普段はちゃらんぽらんでも、政務に関しては優秀な二人だ。何とかしてくれると信じている。


 ──そういえば、俺が死んだって事は、サラはどうなったんだ?


 カティスに囚われてしまったサラを、二人は助けてくれただろうか。


 一時的とはいえ許婚いいなずけの関係にあったのだから、自分を助けてくれるように助けてやって欲しい。あの様子を見るに、カティスと結ばれる事はサラの望みではないようだから。


 ──死んだとしたら、やっぱりサラの事だけが心残りだな……


 そんな事を思っている内に、ハイトの意識はまた混沌とした闇に呑み込まれていった。

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