王子様の珍しい反抗

「ねぇ、ハイト。結婚するって聞いたけど、本当?」

「ブッ!?」


 自分の執務室で優雅に一服していたハイトは、リーフェののほほんとした言葉に思わず飲み掛けの緑茶を噴き出した。その拍子に緑茶が気管支に流れ込み、激しくき込んでしまう。


「ちょっとハイト、大丈夫?」

「だい、じょっ……ない………っ!」

「え? 本当? お医者さん呼んでこようか?」

「そっちじゃないっ!」


 ハイトはガバッと顔を上げると、ずれた発言ばかりする従者に指を突き付けた。


「俺が何だってっ!?」

「何だって……君の名前はハイトリーリン・ミスト・フレイシス・リヴェルト・アクアエリアだけど?」

「そうじゃなくて……俺が何するってっ!?」

「結婚」

「聞いてないぞっ!?」

「え? まさか。だって陛下は『もう許可は取った』っておっしゃっていらしたよ?」


 おかしいね、とリーフェは首をかしげる。分厚い丸眼鏡で瞳が見えないせいか、妙にその動きがコミカルに見えた。


 ボサボサに伸ばしたままの髪といい、気の抜けすぎた格好といい、リーフェも一応王族であるはずなのだがこれでいいのだろうか。


「何でそんな事になってんだよ……っ!?」


 ハイトは思わずガリガリと頭をかきむしった。頭頂で一つにくくられた黒髪が一気に乱れていく。


「まぁ、ハイトだって今年で二十歳だしね。結婚するにはいい頃合いじゃない?」


 頭を抱えたまま高速で何事かをぼやき始めるハイトに、リーフェはほけほけと笑いかけた。


 主人にして幼馴染のはとこが人生の一大事を迎えるかもしれないというのに、全く重大さを感じていなさそうに見えるのはなぜだろうか。


「何でそんなに冷静でいられんだよリーフェッ! これはれっきとした結婚詐欺だぞっ!? 俺だって結婚相手くらい自分で選びたいに決まってんだろっ!」

「え? そうなの? ハイトの事だから政略結婚くらいあきらめてるかと思ってた」

「諦められる訳ないだろっ! お前だってそうだろっ!?」

「え? 僕の所まで政略結婚のお鉢が回ってくるとは思えないし」

「まぁそりゃそうかもしんねぇけどっ!!」


 そこまで叫んでから、はたとハイトは気付いた。


 お鉢と言えば……


「何で俺なんだ?」

「え?」

「だって、まだ兄上だって結婚してないじゃないか。なのに、何でいきなり第二王子が……」


 ハイトには三歳年上の兄がいる。第一王子である兄だって独身で、女の影なんて一寸イチミリもない。


順当にいけば、兄の結婚の方が先に決まりそうなものなのに。


「ハイトッ! いるかっ!? いるよなっ!? 入るぞっ!」


 その事にハイトは首を傾げる。


 その瞬間、いきなり執務室の扉が開かれた。ハイトとリーフェがそちらへ首を向けた時には本人がすでに入室しているという素早さだ。


「何で俺がここにいるって決め付けてるんだ、お前は」

「いるに決まってんだろ。鍛練場にも謁見室にもいなかったんだから」

「俺はそこにしか出没しないのかっ!?」

「まぁヴォルト。そんな所に突っ立ってないで座りなよ」

「何でお前が席を勧めてるんだリーフェッ!」


 部屋の主を放置して勝手にくつろぎ始める従者二人を見たハイトは、痛み始めた頭を抱えてうらめしそうに闖入者ちんにゅうしゃを見上げた。


「で? ヴォルト。何が大変なんだ?」


 その言葉に、乱入してきたハイトのもう一人の従者であるヴォルトはシパシパと目をしばたたかせた。


 右手には緑茶が入った湯呑み。左手はリーフェが差し出す菓子皿の方へ伸ばされたまま固まっている。


 ハイトは無駄に女受けの良いその顔に『あれ? 俺、何しに来たんだっけ?』という文字が書かれているさまをはっきりと見た。


「……おい」


 お決まりの展開にハイトは額に青筋を浮かべる。半眼になった目からは、『ジトーッ』という効果音を伴う視線が放出されていることだろう。


「あ~……ああっ! 大変なんだぜハイトッ!」


 その視線にいたたまれなくなったのか、ヴォルトは必死に記憶の中から自分が持ってきた情報を引っ張り出す。


 それからやっとこんな事をしている場合ではないと思い立ったのか、慌てて湯呑みを机に戻すとハイトに向き直った。


「イーゼ様が家出なされたんだっ!」

「はぁっ!?」


 ハイトは思わず椅子を蹴って立ち上がる。


 イーゼことイゼルセラン・ハイズ・イシュハルト・ルゼラン・アクアエリアは、今まさに話題に出ていたハイトの実の兄である。


 王位継承権第一位の王子が家出。そんなことがあっても良いのか。そんな重大なことをコロッと忘れていたヴォルトの記憶力は大丈夫なのか。さらに言えばイーゼはいつもなんだかんだ言ってフラフラ出掛けているのだが、あれは家出とは言わないのか。いつもの放浪癖と今回は一体何が違うと言うのか。


「あらら。また何でさ?」


 一人マイペースなリーフェが、醤油煎餅をパリポリ言わせながら問い掛ける。次代の王が行方不明になったというのに、そこにあせりは全くない。


 ……まあ、考え様によってはいつも通りなのだから、焦れという方が難しいのかもしれないが。


「これがイーゼ様の書置きだ」


 ヴォルトが長衣の懐から紙を取り出す。


 上半身の衣は東方風、下半身の衣は西方風というのがアクアエリアの基本的な服装なのだが、こういう風にひっそり物を持ち歩きたい時に東方風の上衣は便利だよなとハイトは思わず思った。


 ちなみに指摘されずともこれが現実逃避であることは分かっている。


「そんな重大な状況証拠みたい物、勝手に持ち出してきて良かったの?」

「いーんだよ、気にすんなっ!」


 ──この物言い、絶対大丈夫じゃないな……


 どうせまた勝手に拝借してきたのだろう。まあそこはどうでもいいのだが。


 後でどうにかしておこう、と考えながら、ハイトはヴォルトの手からイーゼの書置きを奪い取った。そんなハイトの隣からリーフェも身を乗り出し、二人揃って書置きに目を走らせる。


「……『新規開店グランドオープン 癒しの空間 水月ムーン・オブ・サファ宿イア 日々お仕事に忙しく走り回っていらっしゃる方々、最新整体マッサージで日頃の疲れを癒しませんか?』」

「そっちじゃねぇよっ! その裏だっ!」


 紙質がやけに悪いと思ったら、書置きは広告の裏に書かれていた。ハイトが読み上げていたのは、その広告文の方だったらしい。


「……兄上、そう言えば重度の肩こり持ちだったからな」

「ハイトが一生懸命叩いてあげるのに、ちっともほぐれてくれないんだよねぇ」

「あんなの揉ませたら、整体師の指の方が死ぬぞ」


 なぜだろう、国の一大事であるはずなのにちっとも焦る気が起きない。『案外このまま放置しておいても大丈夫なんじゃね?』という空気が場を満たしていく。


「とにかく読むだけ読んでくれよ。お前の結婚話にだって関係してるんだぜ?」


 恐らく書置きに視線を落とすハイトの目が死んでいたのだろう。それを察したヴォルトがハイトをせっつく。


 その言葉に我に返ったハイトは改めてイーゼの書置きに視線を落とした。


 広告の裏紙に書かれていようが、少女達の間で流行はやっている鮮色カラフルな色インクが使われていようが、そこに躍る筆跡は間違いなくイーゼの物だった。無意味に優雅で逆に読み辛いこの書体を、他の人間がそう簡単に扱えるとは思えない。


『偉大で頑固で最近ハゲを気にしている我が父上へ

 俺は政略結婚なんて御免です。結婚くらい、お互い熱烈に愛を語り合った相手と結ばれたいなぁ、という夢くらい見たい物ではありませんか! そりゃあ政略結婚は王族の一種の宿命かもしれませんよ? でも幸い、我が家族には俺よりも余程出来が良くて常識人な我が自慢の弟、ハイトがいるではありませんかっ! 相手の姫君だって、変人な俺と結婚させられるよりも、常識人で苦労性なハイトと結ばれた方が幸せでしょう。という訳で俺は政略結婚反対の手持看板プラカードを掲げて家出をしたいと思います。今度帰る時には運命のフィア恋人ンセを連れてきます。

 俺に持てるだけの愛をこめて

  イゼルセラン・ハイズ・イシュハルト・ルゼラン・アクアエリア』


 ──理解出来ない……


 ハイトは思わず頭を抱えた。


 兄が変人で、その変人性ゆえに突拍子もないことをやらかすのはいつものことなのだが、今回は今までやらかしてきた事以上に突拍子もない上に、全くもって意味が理解できない。


「ハイト」


 もはや何と言って良いかも分からないハイトの肩をチョイチョイとリーフェがつつく。嫌々ながらも顔を上げてリーフェが指差す先を見れば、何やらまだ手紙には続きがあった。


『追伸

 もし政略結婚の手札として王位継承権が必要となるのならば、どうぞ遠慮なくハイトに付けてやってください。俺は別に王位継承権なんていらないし、王という立場以外でも国の役に立てる人間であるはずですから。勿論もちろん王位継承権がなくなっても、アクアエリアを愛する気持ちに変わりはありません。その辺りの事、きちんとよろしく』


 ──……全く以て! 理解出来ない……!!


 フツフツと何かが胸の辺りにあふれてくるのを感じながら、ハイトはノロノロと頭の中を整理し始めた。


 つまり、イーゼは政略結婚に反対して家出した。イーゼが家出したから、いきなり自分が結婚することになった。


 なぜならばこれは本来イーゼに回るはずの結婚話だったから。イーゼが理解不能な書置きを残して失踪したから自分が代わりにこの話を受けることになったとさ、まる。


「つまり俺は、ただのとばっちりの代打として結婚させられるのかっ!?」


 数秒かかって結論に達したハイトは頭を抱えて大絶叫した。


 これは王族の体面やら何やらをかなぐり捨てて絶叫したって許されるはずだ。許されないなんて理不尽があるはずがない。


「イーゼ様、自分が変人だっていう自覚があったんだね」

「常識人で苦労性……。ハイト、お前やっぱり大変な星のもとに生まれてきちまったみたいだな」


 天をあおいで兄への罵詈雑言を並べ立てるハイトの横で、リーフェとヴォルトは別のことに感心していた。ハイトのことは完全に放置している。本当にハイトの両腕と呼ばれる忠臣なのだろうかと第三者が見ていたら首を傾げる構図だろう。


「ところでヴォルト。ハイトの結婚相手って、どこの国のお姫様なの?」

「フローライトだよ。リーヴェクロイツ挟んだお隣さん」


 フローライト。


 それに反応したハイトは、口をつぐむと二人の方へ向き直った。グリンッとすごい音と勢いだったが、二人が突っ込むことはない。


「フローライトだと?」


 それよりも重大な情報が、目の前に転がってきたからだ。


「そ。フローライトだ」


 真剣な表情になったハイトに、ヴォルトはニヤリと笑い掛ける。不敵な笑みはまさに『アクアエリアの雷刃らいじん』と呼ばれる武勇名高い将軍が浮かべるに相応ふさわしい代物だ。


「おかしくないか? あそこの王族にとって、俺達アクアエリアは鬼門であるはず。フローライトがアクアエリアとボルカヴィラに近付く事なんて、あるはずがないのに」


 フローライトとアクアエリア両国の仲が特別悪いという訳ではない。


 だがフローライトの王族はその身に宿った力の性質上、アクアエリアの王族に近付こうとはしないはずだ。


 アクアエリアの王族が本能的にボルカヴィラの王族を嫌ってしまうように、フローライトの王族は本能的にアクアエリアとボルカヴィラの王族を避ける。


 ──それに、今のフローライト王家には直系の姫が一人いるだけで、他に現王の血を継ぐ人間はいないはず……


 フローライトは女性に王位継承権がない国ではあるが、だからと言って唯一の直系姫を簡単に国外に放り出すとは思えない。血統を維持するためにより濃い血筋の者は手元に残した方が良いし、もし姫が男児を産めばその子供は次代のフローライト国王最有力候補者になるだろう。


 血統の保存という点から考えても、揉め事の火種云々うんぬんという点から考えても、順当に考えるならば姫の結婚相手はフローライト国内の有力貴族が相応しい。


 だというのになぜ、ハイトの……いや、元を正せばイーゼのなのだが……とにかくアクアエリア王家の政略結婚の相手として、フローライトの姫の名前が挙がっているのだろうか。


「な? 何か裏があると思わねぇか?」


 考え込むハイトを、ヴォルトはニヤニヤ笑ったまま見つめている。


「確かに、なぁ……」


 裏は、あると思う。


 その『裏』を仕掛けたのがフローライトあっちなのかアクアエリアこっちなのかで話も変わってくるだろう。


 ──両方が一枚ずつ噛んでいる、っていう場合が一番厄介だな……


「フローライトかぁ。僕、フローライトの知識と虚像兵きょぞうへいには興味あったんだよね。もしもハイトがそのお姫様と結婚したら、その力をアクアエリアも使えるようになるのかな? でもね……」


 どうしたものかと思案するハイトに、リーフェが言葉を向ける。


 ハイトが顔を上げれば、そこにはいつも通り、分厚い丸眼鏡で瞳を隠したリーフェがほけほけと喰えない笑みを浮かべていた。


「アクアエリアが実際にフローライトと交戦した事ってないでしょう? その知識量と虚像兵の強さについての話は、あくまで噂でしかない。そんなあやふやな情報を信じて、ほいほい異国の物をこの国に入れる訳にはいかないよね」


 リーフェの言いたいことがうっすら分かったハイトは、大きく目を見開いた。


「だがそうなると……」

「いいんじゃねぇの? ハイト。お前、いつでも責任感じすぎなんだよ」


 リーフェと同じ考えであったらしいヴォルトが声を上げる。こちらは先程からニヤニヤと笑いっぱなしだ。



「仕方ないと思うけどねぇ。ハイトの家族構成から考えると」

「でもそんな風に黙ってばっかだから、こんなに苦労するんだろうが。たまに弾けるくらいがちょうどいいんじゃねぇか」


 二人の言葉を受けて、ハイトは再び考え込む。


 どのみち裏を探るならば、フローライトに接触しなければならない。ならばいっそのこと自分で直接見に行けばいいではないか、と二人は言っているのだ。


 だが堂々と理由を告げて城を出る訳にはいかない。ハイトはアクアエリアとフローライト、その両方を疑っているのだから。


 ──出るならば、秘密裏に。


 つまり、簡単に言ってしまえば家出だ。


「それにハイト。お前、このままじゃ本当に勝手に結婚させられて、勝手に王にされちまうぞ」


『だが体面的なものが』とか『家出? 兄上に続いて俺まで?』という言葉がグルグルとハイトの頭の中を飛び交う。


 だがヴォルトが口にした言葉にそれらは全て吹き飛ばされた。


「はぁっ!? 王位継承権第一位は兄上だろっ!?」

「陛下がフローライトのお姫さんと、ハイトリーリン・ミスト・フレイシス・リヴェルト・アクアエリアを結婚させるって言ったんだよ」


 やっと石化が溶けたハイトが金切り声で叫べば、飄々ひょうひょうとした態度を崩さないヴォルトにあっさり言い返されてしまった。


 つまりアクアエリア王は、イーゼの書置きを真に受けて、政略結婚のために王位継承権をハイトに付けたのだ。


 しかも勝手に。本人の了承を得ることもせず。


 ──というよりも、そんな阿呆アホらしい理由で世継ぎを決めるなんてこの国は一体どうなっているんだっ!?


「そう言えば、ハイトのお相手の名前は? 姫ってだけで実は傍系のお姫様だった、とかない?」


 再び石化するハイトを放置して、リーフェはのんびりとヴォルトに問い掛ける。やはりリーフェはどこまで行ってもマイペースだ。


「アヴァルウォフリージア・サルティ・ヴォ・フローライト姫って言ってたから、現王の娘、唯一の直系姫で間違いないだろ。『フローライトのバロックパール』っていう二つ名を持つ美姫らしいぞ」

「ふーん……。聞いた事はあるんだけど、本人にお目に掛かった事はないなぁ」


 ヴォルトもリーフェの筋金入りのマイペースっぷりには慣れ切っている。特に何を思う訳でもなく、その言葉は紡がれた。


「『歪み真珠バロックパール』……?」


 二人にとって予想外だったのは、ハイトがその言葉に反応を示したことだった。


「美姫な訳ねーだろ、美姫な訳。政略結婚だぞ『歪み真珠バロックパール』だぞ? ただの真珠じゃなくて歪んでるんだぞ? つまりどっか歪んでるから『歪み真珠バロックパール』なんだろうがよ」


 ブツブツ呟くハイトの目が据わっている。心なしか、ほのかな殺気さえもがハイトからかもされているように見えた。


「……あれ? ヴォルト、これ、ちょっと危なくない?」

「珍しいな。お前が空気読んだ発言するなんて」


 ハイトの口からぼやきが駄々漏れているのはいつものことなのだが、これは明らかに放置しておいていいぼやきではない。キレてたがが外れてしまったハイトは、溜まりに溜まった鬱憤うっぷんが解消されるまで止まってくれないのだから。


 顔色を変えた二人は慌ててハイトを止めようと動き出す。


 だが忍耐強いハイトがキレることなど滅多にないせいで、二人とも何をどうしたらいいのかが分からない。


「……色々とざけんなよ」


 二人が意味もなく『あわわあわわ』と腕を踊らせている間に、プッツンという音が響いた。


「世の中何でも俺に押し付けとけば解決するって訳じゃねぇんだよっ!!」


 凍り付いた二人が首をカクカク言わせながら声の発生源に視線を合わせれば、そこには黒い覇気オーラまとったリーフェとヴォルトの主君が立っていた。


「家出したらぁぁぁぁぁああああああっ!!」


 滅多にキレない人間がキレると、普段からプツプツキレる人間の数十倍は怖い。


 そして忍耐強く大抵のことを溜め息一つと大量の愚痴で受け入れてしまうハイトは、ぼやきと愚痴と苦言を常に口にしつつも、本格的にキレることは滅多にない。よって側近二人も、憤怒ガチギレする主君に対する耐性はほとんどない。


 黒い魔王子覇気オーラを爆発させて叫ぶハイトを前に、リーフェとヴォルトは抱き合って震え上がる。


「リーフェッ!! ヴォルトッ!!」


 そんな二人に向かって据わったハイトの目からギンッと視線が飛んだ。


 まさに蛇ににらまれたカエル。メドゥーサに睨まれた徒人ただびと


 眼光だけで十人でも二十人でも射殺してきそうなハイトは、腹の底から響く声で一言命じた。


「行くぞっ!!」

「ぎょ……御意っ!」




 こうしてハイトリーリン・ミスト・フレイシス・リヴェルト・アクアエリアは、怒り狂いながらもひっそりと家出したのであった。

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