第14話 学園生活、始まる!

 俺とメイが学園に来てから、数ヶ月が経ったある日。ついに待ちに待った学園生活が始まろうとしていた。


「アレン君! 今日から初登校、楽しみですね!」

「ああ! すごく楽しみだよ!」


 部屋の中から聞こえてくる声。その声の持ち主はメイだ。というわけで、今は俺がメイの身支度を待っている状況である。

 俺とメイは寮での部屋が隣なため、一緒に登校しようと決めていた。まぁ、隣の部屋でなくても一緒に登校していたと思うけど。


「お待たせしました! 行きましょ!」

「……おう」


 部屋から出てきたのは、この学園指定の制服を着たメイ。ちなみに制服は、紺色ベースで男子なら赤色のネクタイ、女子なら赤色のリボンを付ける。

 そんな制服を着こなしたメイを見て、思わず可愛いと思ってしまう。だって本当に可愛いんだもん。


 初登校。今日頑張れば、間違いなくたくさんの友達を作れる。

 この学園に来てからたくさんの男子に睨まれるようになったが、同じクラスになればきっと仲良くなれるはずだ。


 男子の友達は今のところユウキしかいない。今日でユウキ以外にもたくさんの友達を作ってみせる!!

 そう心の中で誓うと同時に、隣を歩いている天使から名前を呼ばれる。


「アレン君アレン君」

「ん?」

「なんか……視線感じません?」

「……え?」


 俺たちは寮を出て、今は学園に向かっている最中だ。その上で視線を感じる、というのは他の生徒たちから見られているということだろう。

 メイから指摘されてすぐに周りを見渡す。すると視線を感じるどころか、俺たちの周りにいる全ての生徒がこちらに目を向けていた。


「……え、俺たちどうしてこんなに見られてるの?」

「アレン君が見られている理由なら分かりますけど、私にまで視線を向けられている理由が分かりません」

「なんで俺のことだけ分かるの!?」


 こちらに目を向けている人たちはたくさんの男女。

 男子は俺を見て怒りの表情を浮かべている人や、メイを見て今にでも召されそうな人もいる。対して女子はメイを見て怒りの表情を浮かべている人や、俺(?)を見てキャーキャー叫んでいる人もいる。


 ……なんか、学園生活早々目立ってるんですけど? 楽しい楽しい学園生活にしようと思っていたはずが、早々厳しくなりそうで泣きそうですよ。


「と、とにかく学園生活はまだ始まったばかりだ。きっとこれから楽しくなるはずだよ!」

「そうですね! 頑張りましょう!」


 一旦会話が終了し、俺たちはたくさんの男女に見られながらも学園内へと向かったのだった。



 クラス分け。人数を均等に分け、違う教室で授業を受ける。

 その概念を知ったのは、学園内に入ってすぐの頃だった。


 確かに今日から学園に通う新入生は多い。約80人と聞いていたが、クラスは1つだけだと思っていた。

 クラスが2つに分かれた場合、どうなるのか。言わずもがなだが、知り合いのいないクラスになる可能性があるのだ。


 現時点での俺の知り合いはメイとユウキ、エリカの3人だ。確率は低いがこの3人と分かれてしまった場合、俺は確実にボッチになる。

 ボッチだけは絶対に嫌なんだぁぁぁあああ!!


「クラス分け……アレン君と同じクラスになりたいです」

「俺もメイと同じクラスにならないと死ぬかも」

「そこまで!?」


 クラスの名簿は学園内に入ってすぐの場所にある掲示板に貼り出されている。俺たちは今、その掲示板から少し離れた場所に立っていた。

 掲示板を見ようと思えば、すぐに見れる。だが怖いのだ。もしメイたちと違うクラスだった場合、ボッチが確定する。ボッチやだ。ボッチやだ。ボッチやだ。


「私……見てきます」


 隣に立っているメイは意を決して、そう呟いた。

 緊張しているのか、喉をゴクリと鳴らしゆっくりとした足取りで掲示板に近づいていく。


「頼む……! 同じクラスになっててくれ!!」


 心の中の声が思わず漏れてしまう。

 そして結果は――――。


「同じ! 同じクラスですよ!」

「マジか!! よかったぁ……」


 満面の笑みで近づいてきたメイを見て安心したのは言うまでもない。

 本当によかった。これでボッチは回避したぞ!!


「ユウキとエリカはどうだったんだ?」

「2人も同じクラスです!」

「本当か!? まさか皆一緒になれるとは思わなかったよ!」


 これで学園生活は無事に好スタートを切れそうだ。

 でもまさか4人全員が一緒のクラスになるとは思わなかっただけに、俺たちは驚きを隠せない。そして同時に嬉しくてたまらなかった。


「私もです! けど……」

「?」

「……いえ、なんでもないです」

「???」


 謎が深まる一方だが、メイの現状から察するに相当深刻なことなのだろう。

 現在メイは一言で言えば憎悪を抱いているかのようで、体全体からは紫色のオーラを放っている。何があったのかは分からないが、すごく怖い。


 そんなわけでメイが紫色のオーラを放っていると、近くから何人かの女子の声が聞こえてきた。


「やった〜! アレン君と同じクラスだ!!」

「私もだ! 仲良くなれるといいな〜!」

「後で話しかけに行こっ!」


 どうやら俺のことを話しているらしい。注目を浴びるのはあまり好きじゃないが、女の子たちが自分のことを話していると思うと素直に嬉しい。

 …………だが。


「ゴニョゴニョゴニョゴニョ――――」


 隣に立っている紫色のオーラを放っている少女から何かが聞こえてくる。そして心做しか、先程よりも紫色濃くなっている気がするんだけど……。


「ゴニョゴニョゴニョゴニョ――――」


 耳をすまして聞いてみるが、やはり何を言っているのか分からない。本当に怖くなってきたよ……。


「あのー……メイさん? どうしたの?」

「なんでもありませんけど、何か?」


 かつてないほどに早口でそう言ったメイは、体に纏った紫色のオーラをどんどん濃くしていく。

 どうしてだよ……俺何か気に触ること言ったかな?


「……いえ、なんでもありません」


 それからも俺が手に負えるわけがなく、メイは深紫のオーラをまといながら教室に入っていったのだった。

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