第13話 2人きりの部屋で
王都に来てから2日目。
朝食をとり終えた俺とメイは、くつろぐために俺の部屋へ向かっていた。
昨日はエリカやユウキがいたせいか、あまりメイとは話せていなかった。彼女だの痴話喧嘩だのでからかってきたし、そっちの方のツッコミで大変だったからな。
メイは気化したアルコールで酔ってしまい、体調が優れていない。そのため、今日は絶対に安静にしていなければならないのだ。
「あ、あの、ありがとうございます。私のわがままを聞いてくれて」
「え? わがまま?」
「はい。アレン君の部屋に行きたい、って」
あれ、わがままだったのか?
「いや、あれはわがままじゃないと思いますけど……」
「え? だって、私の部屋で安静にしてた方がいいって言ってたのに、結局オーケーしてくれたじゃないですか」
「確かにそうだけど…………」
天使のように可愛いメイに、あんな上目遣いでお願いされて断れる奴なんて、多分この世にいないよ。
「私も自分の体調が悪いことくらいは分かります。ですが、今日はどうしてもアレン君と一緒にいたくて」
「……そうですか」
………………っ!?!?
『今日はどうしてもアレン君と一緒にいたくて』と言われた瞬間、体が熱くなるのを感じた。
今の俺、どんな顔をしているんだろう。
もしかしたら今までになったことのないくらい、顔が真っ赤になっているかもしれない。自分では分からないけど、すっげぇ恥ずかしい!!
体が熱くなるほどの恥ずかしい言葉を放った天使に目を向ける。彼女はほんのりと顔を赤らめていたが、いつものようにおどおどしていない。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
初めて女子と2人きりの部屋に行くためかなり緊張しているが、それを悟られないように平静を装う。そしてその後は、一言も話すことなく俺の部屋に向かったのだった。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
2人きりの部屋。そして密室。
何をやっても、誰にもバレない…………ゴクリ。
「適当にベッドにでも腰掛けていいですよ。ベッドなら体調が悪くなってもすぐに寝転がれるので」
「べべべべべべベッド!?!?」
『ベッド』という単語を聞いて、明らかに動揺しているメイ。
確かに意味深ですよね。本当にごめんなさい。
「ベッドが嫌なら床に――」
「ベッドがいいですっ!」
「…………はい」
謎に大きな声で言うメイに若干驚くが、なぜベッドがいいのだろうか。
――――もしかして、誘ってるのか?
ないないないない!! 絶対にそれはない!!
でも、もし誘ってるなら俺は…………。
「早速ですけど、私アレン君にお願いしたいことがあるんです」
「え? お願い?」
「はい」
ベッドのあたりからずっと変なことを考えていたせいか、真面目な顔でお願いしたいと言われて困ってしまう。
でも、お願いってなんだ……?
「私に敬語を使うのをやめてほしいんです」
「……理由を聞いてもいいですか?」
「だって、エリカちゃんとユウキくんには敬語じゃないのに、私にだけ敬語なんて酷いじゃないですか!」
…………確かに。
俺がメイに敬語を使っている理由。それはメイが恩人だからだ。でも俺とメイは同い年だし、敬語を使う必要があるわけではない。だったら。
「そう、ですね……じゃなくて、そうだね」
「はい! これでずっと抱えていた悩みを解決できました!」
ニコリと満面の笑みを見せるメイ。
メイは誰にでも敬語を使っているため、俺にもタメで話してほしいとは言えなかった。言っても、慣れてないから難しいだろうし。
「じゃあ、何を話そ――――」
何を話そうか、と聞こうと思いメイに視線を向けると、メイは満足したのかいつの間にか目を瞑ってベッドに寝転がっていた。そして可愛らしい寝息を立てている。
「寝ちゃったか……」
ようやく2人きりで話せると思っていたのに……でも、可愛いから許す。
「……どうして俺の部屋に来たんだろ」
この疑問は最もだ。
眠いなら自分の部屋で寝ればいいし、わざわざ俺の部屋に来る必要はない。敬語を使うのをやめてほしい、と言うためだけに来たわけでもないだろう。
もしかして…………。
「1人で寝るのが不安なのか……?」
え、待って。
もしそんな理由でここに来たいと言ったのだとしたら、いくらなんでも可愛すぎるんですけど?
でも、どうしてそんな安心した顔で寝れるんだよ。
俺は男。男は狼だ。どんなに優しい男でも、無防備で可愛い女の子を前にすれば狼と化す。
――それなのに。
「スースースー……」
俺なら何もしないと信じているのだろうか。
信じられているのは素直に嬉しいけど、1人の男としては情けない気もする。
「……どうしよ」
当然襲うつもりはない。
だがメイが俺の部屋で寝ている以上、俺はどこにも行けないし誰かにこの状況を見られるわけにはいかない。特にエリカとユウキには。
あの2人にバレたら絶対誤解されるからな。誤解、というか否定しても面白がって、からかってくるのは目に見えている。
今は鍵を閉めているし、訪ねてきてもバレることはないはずだ。きっと、大丈夫……。
――コンコンコン。
「アレン君いる〜?」
これはエリカの声だ。タイミングが悪い!
「……いるけど、どうした?」
「メイちゃんが大丈夫なら、王都の案内してあげようと思ってね。とりあえずドア、開けてもらえる?」
俺は何があっても絶対に開けないぞ。
「すまん。今は無理なんだ」
「へぇ〜? お取り込み中だったかな?」
「そそそそんなわけないだろ!?」
「じゃあ、どうして?」
「それは……」
しばらくの沈黙。
「わかった。王都の案内はいつでもしてあげるから、暇な時は声掛けてね! それじゃ!」
足音が遠ざかっていく。どうやら本当に帰っていったようだ。
「助かったぁ……」
危機一髪。
メイが俺の部屋のベッドで寝ているところを見られたら、否定しても何も聞き入れてくれなかっただろう。
「それより……本当に気持ちよさそうに寝てるなぁ」
自分のベッドで寝ている天使を眺めながら、そう呟く。結局昨日同様、それからはしばらく寝ている天使の頬や髪を堪能したのだった。
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