第12話 再びたくさんの女子に囲まれて

 俺とメイが王都に来てから、2日目の朝になった。


 部屋にある1つの窓から差し込む太陽の光が、部屋全体を照らしている。そして外からは鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 俺は新しくなったベッドから立ち上がり、両手を挙げて伸びをする。枕が違うと寝ることができないと言うが、全くその通りで全然寝れなかったのは言うまでもない。


「今日はどうするかな〜……」


 昨日はエリカとユウキに王都を案内してもらった。と言っても、居酒屋に入ってメイが空気で酔ってしまい、途中で案内は終わってしまった。


「昨日に続いて、今日もあの2人に王都を案内してもらうわけにはいかないしなぁ……」


 あの2人だって、用事くらいはあるだろう。聞いてみなきゃ分からないが、2日間連続で拘束するわけにもいかない。


「散歩でもしようかな。ずっと部屋にこもってるのも退屈だし」


 メイも一緒に……と思ったが、昨日あんなにも酔っていたし連れ出すのは彼女にとっても厳しいだろう。


「1人で行くか……」


 散歩をするには時間的にはまだ早い。そのため、朝食を食べてから散歩に行くことに決めた。




 朝食や昼食、夕食の提供時間は決まっている。朝食は7時から8時で、昼食は学園内で提供され、夕食は20時から21時だ。


 そして朝食が提供される時間となり、俺はメイを起こして食堂に向かっていた。

 メイは体調が回復しているらしく、昨日には何も無かったかのように元気になっている。


「アレン君! 朝食楽しみですね!」

「そうですね」


 昨日の夕食はカレーライスだった。その時のカレーライスはスパイスが効いていて、辛い上にすごく美味しかった。

 もちろんメイが作る料理の方が10倍。いや、1000倍くらい美味しいが、寮で出される料理も中々美味しい。


 そんなわけで、俺もメイも毎日3度の食事を楽しみにしているのである。


「それより……体大丈夫ですか?」

「体ですか? んー……ちょっとダルいかな、ってくらいです。どうしてかは分かりませんけど」


 昨日のこと、覚えてないのか?


「今日は安静にしててくださいね」

「はい、そのつもりです」


 そう言ってメイはでも、と続ける。


「昨日のこと、全く思い出せないんですよね。居酒屋さんに行った、ということは覚えてるんですけどその後のことが……」

「ななななな何もなかったですよ!? 本当に!」


 明らかに動揺してしまったが、仕方がないだろう。メイが昨日酔ってしまい、俺にしたことを教えたら絶対にやばい。

 なぜなら、愧死きししてしまう可能性が高い。というより、絶対に愧死してしまうからだ。


「……怪しい」

「――ギクッ!」


 メイが詮索をしようと口を開けた瞬間だった。俺たちのもとに駆け寄ってきた人たちの叫び声に、思いもよらぬ形で助けられることになる。


「あなたがアレン君だよね! キャー! すごくかっこいいんだけど!!」

「アレン君! アレン君! 今日暇かな!? 私と遊んでほしいんだけど!」


「メイさん……! あなたに一目惚れしました! 僕と付き合ってくださいッ――!」

「天使だ! とうとうこの学園に天使が舞い降りたぞッ!!」

「可愛い! 可愛すぎる!!」


 俺たちを囲む同じ制服を着た男女たち。

 助かったよ! 助かったけどさ!


 メイに悪い虫が付いてるのは気のせいかな?

 てか、なぜか告白してるヤツいたよね? 今は俺も女子たちに囲まれてるから助けにいけないけど、次その顔見せたら半殺しにするからね?


「えーっと……俺とメイはこれから朝食なんだよね。だから、また後ででいいかな?」

「あの子じゃなくて、私と一緒に食べよ?」

「どうしてあんたなの!? 私でしょ!?」

「私よ!」


 …………なんでやねん。


 メイの方をちらりと見るが、色々な男子たちに囲まれておどおどしているのが見て分かる。

 ユウキとは普通に喋ってたし、男の耐性がないわけではないのだろう。たくさんの男子に、一斉に話しかけられるのが慣れていないだけだ。多分。


 ……俺がメイと初めて話した時。というか、それから数日はおどおどしていた。

 ユウキ(爽やかイケメン)とは普通に話してたのに、どうして俺の時はおどおどしていたんだろうなぁ……。


 まさか……! 『ただしイケメンに限る』ってやつか!?

 イケメン許すまじ。イケメン許すまじ。イケメン許すまじ。


「ま、また今度ってことで!」


 負の感情が止まらないが、まずはこの状況をなんとかしないといけない。そう思い、集まってきたたくさんの女子たちに早口で言い残して、俺を中心に形成されている円から脱出する。

 そして今にでも死にそうなメイのもとに向かい、なんとか助け出すことに成功した。


「た、助かったぁ……」

「大丈夫ですか? 体調、悪化してないですか?」

「なんとか大丈夫です。たくさんの男の子に囲まれてびっくりしましたけど」

「ならよかったです」


 大丈夫だとは言っているが、心做しか先程よりも顔色が悪くなっている気がする。やはり今日は何があってもメイを外に出さないようにしよう、と再度心に決めた。

 そんな俺を見て、少し頬を赤らめているメイが口を開く。


「……朝ご飯食べた後、部屋に行ってもいいですか?」

「…………え?」


 元々今日の予定は、メイを寝かせて俺は散歩に行く予定だった。

 でもこんな可愛い天使に、上目遣いでお願いされたら断れるわけがない。


「いいですけど、安静にしてないと……」

「アレン君の部屋で安静にしてれば、問題はないはずです!」

「そう、ですね……」


 メイは指切りをしようと言いたげに、左小指をこちらに突き出してくる。


「約束ですよ!」

「もちろんです」


 そうして俺たちは指切りをした後、食堂に向かったのだった。

 朝食をとった後にはメイと部屋でイチャイチャ……じゃなくて、2人きりで話すことが決まった。そのせいで、いつまでもニヤケが止まらなかったのは言うまでもない。

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