第11話 予想外の出来事

 ――予想外の出来事が起きた。


 俺たち4人は居酒屋に来ている。そしてノンアルコールの飲み物を頼んだ。そこまではいい。

 …………だが、どうして。


「アレンくぅ〜ん? きょ〜もかっこい〜ですね〜。私のことを守ってくれたアレン君には〜お礼として〜」


 どうして。


「ちゅ〜をしてあげますね〜?」


 ――ちゅっ。


 隣に座っている美少女の小さな唇が、俺の頬にくっついた。

 この一瞬で頭が真っ白になり、どうして今の状況に至ったのかを考えることもできない。


 でも、どうして。


「な、な……!?」


 どうして、ノンアルコールなのに酔ってるんだよぉぉぉおおお!!


「きゃー。アレン君ったら酔ってる彼女に何をさせてるのかなぁ?」

「ご、誤解だ! 俺は何も指示してないし、そもそもメイは彼女じゃない!」

「……ぐすん。私なんて、どうでもいいんだ……」


 俺の否定を聞いて、なぜかノンアルコールで酔っているメイは過敏に反応する。

 あぁ! もう! どうすればいいんだよ!!


「ち、違うんです! 頼むから泣かないでください!」

「あーあ、彼女を泣かせるなんて、彼氏失格だね」

「だから彼氏じゃな――」

「んーーー!!!」


 もう1度否定しようとするが、隣に座っているメイが頬をプクっと膨らませている。そしてポカポカと俺を叩いてくる。か、可愛い……っ!


「ごめんごめん、俺彼氏。俺が彼氏だったよ」


 嘘でもこう言うしかない。だって可愛いんだもん。

 それにしても、メイが飲んでるのって本当にノンアルコールなのか!?


「ちょっとマスター! 彼女に飲ませたの、アルコールじゃないですよねぇ!?」


 目の前で俺たちを見て笑っている、白髭を生やしたオジサンに問う。ノンアルコールを頼んだが、間違えてアルコールが入った飲み物を出しているかもしれない。


「ノンアルコールですよ。だって君たちは学生さんでしょう?」

「そうですけど……」

「恐らく、気化したアルコールで酔ったんだと思いますよ。とりあえず水を」

「あ、ありがとうございます」


 確かに俺たち以外にも、この居酒屋に来ている人たちはいる。それでお酒に弱いと思われるメイは酔ってるのか……。


 ぐでーっとカウンターに突っ伏しているメイの肩を揺すり、水を飲ませようとするが一向に起きる気配がない。


「あのー! 起きてくださーい!」

「んー……そこはらめぇ……」

「ちょっ……! 俺何もしてないですよねぇ!?」


 そんな俺とメイの会話を聞きながら、エリカとユウキは「うわぁ……」と言いながら俺から距離を取っている。

 本当に何もしてないのに!


「アレン君……顔が良ければ何でも許されるとか思ってる系?」

「そんなわけないだろ!? てか、俺は何もしてない! 冤罪だ!」

「嘘をつくのはよくないと思う」

「ユウキまで!?」


 ダメだ。コイツらと話してると俺が犯罪者になっちまう。


「もう……ほら、早く水を飲んでください」

「……はぁい」


 俺から水を受け取ったメイは、ゴクゴクとすごい勢いで水を飲み始める。


「――ぷはぁ」


 可愛い。


「……じゃ、おやすみなさぁい」


 水を飲み終えたメイは、そう言い残して再びカウンターに突っ伏してしまった。

 お酒を飲んでないのに、空気だけで酔ってしまうとは……。これはアルコール入りお菓子とかも食べたらダメだろうな。


「寝ちゃったね」

「どうする? 今日のところは帰るか?」

「そうだね。じゃあ王都の案内はまた今度するね!」

「ああ。折角時間作ってくれたのに、2人ともごめんな」

「全然大丈夫だよ! 今日もすごく楽しかったし!」


 そんなエリカの一言に、ユウキも激しく同意する。迷惑をかけてしまったこちら側からすれば、すごくありがたい。


「じゃあ、帰ろうか!」


 これから帰るのには、もちろん異論はない。

 だが、1つだけ問題がある。


 それは――メイをどうするか、だ。


 メイを寮に連れて帰る。そのために学園の先生を呼ぶか、俺たち3人の誰かがメイを運ぶ必要がある。

 前者は時間がかかるし、正直面倒くさい。後者だと、女子にはキツいだろうし、ユウキは絶対に俺に押し付ける。だから、消去法で俺が運ぶことになるに違いない。


 別に嫌ではない。むしろ俺からさせてほしいとお願いしたいくらいだ。

 ……でも。おんぶだと背中にアレが当たりそうだし、お姫様だっこをすると周りから視線を集めそうで嫌なんだよなぁ。


「メイちゃんはアレン君がよろしくね!」

「当然だね。その方がメイも喜ぶだろうし」


 こうなることは分かっていたけど、どうしよう……。

 おんぶか? それともお姫様だっこ?



 ………………そうだ!!

 俺が気を付けさえすれば、メイならアレが当たる可能性が低いじゃないか! 小さいとこういう時は便利だな! 本人の前では絶対に言えないけどな!(最低)



 結局、俺はメイをおんぶして学園の寮に帰った。思惑通りアレが背中に当たることもなく、無事に寮に辿り着くことに成功した。


「ふぅ……疲れた」


 メイをベッドに寝かせたところで、俺はようやく一息つく。おんぶしながら結構歩いたからな。


「しっかし本当に天使だな。寝顔も反則級の可愛さだし」


 俺はそう言って、メイの髪を優しく撫でる。起きてないし少しくらい……のつもりだったが、かなり長い時間ずっと撫でている。

 撫で心地が良すぎるんだよ。だから止められないだけ。


「――ぷにっ」


 我慢できずに、さらには反則級の可愛さを誇る天使の頬を優しくつまんでみる。すごく柔らかくて、触り心地が半端ない。


「やっべぇ……なんだこれ」


 それからもしばらくメイの頬や髪を堪能して、名残惜しいが自分の部屋に戻ったのだった。

 しかしこの時の俺は、メイの頬がほんのり赤くなっていることに気づくことはなかった。

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