第10話 王都散策

「まじか……!」

「ここが私だけの部屋……!?」


 俺たちは学園のすぐ側にある生徒専用の寮に来ていた。そして今、2人して部屋の中を見て驚いている。

 それぞれの部屋にはシングルベッドと勉強机、本棚が置いてある。そして部屋は真っ白の壁で包まれていた。まさにシンプルイズベスト。


「えっと……本当にいいんですか? ただで住んでも」


 恐る恐る後ろに立っているハルカさんに聞いてみる。すると、ハルカさんは笑顔でこう答えた。


「当たり前でしょ。その質問、何回も聞いたわよ」


  当たり前、なのかなぁ……?

 普通なら家賃とか払わないといけないだろうし、さすがに怖い。うまい話には裏があるっていうし。


「でも……」

「信じられないなら、この学園に通っている子たちにでも聞いてみたら? 皆揃って『絶対に大丈夫』って言うわよ」

「マジすか」


 結局俺たちはハルカさんを信じて、自分たちの部屋に荷物を置くことに決める。そして寮の外で待っているという案内役の人たちのもとへ向かった。



「初めまして。僕はユウキ。この学園の新1年生になる予定で、同い歳だろうから話す時はタメでよろしく」

「私はエリカ! ユウキと同じ新1年生になる予定だから、仲良くしてね〜! 一緒に楽しも〜!」


 寮の外に出ると、案内役のユウキとエリカが笑顔で自己紹介を始めた。


 ユウキは爽やか系イケメンだ。男子にしては長めの茶髪で、俺よりは少し背が低い。

 クソ……めっちゃイケメンじゃん! あの爽やかすぎる笑顔、破壊力やば! 俺が女子だったら間違いなく惚れてるんですけど!?


 そしてエリカは明るくて、元気な美少女だ。チェリーピンクのショートヘアーに、髪色に合う綺麗な瞳。胸はメイよりかはあるが、大きいと言えるほどではない。


「俺はアレン。よろしく」

「…………私はメイです。今日はよろしくお願いします」


 メイはなぜかエリカを見ながら、悲しげな表情を浮かべて自己紹介をした。恐らく、自分より大きいのを察したのだろう。何がとは言わないけど。


「うん! よろしくね! じゃあ早速行こっか!」


 このようにエリカが先導し、俺たちは4人で王都を散策することになったのだった。



 学園に向かう最中でも分かったことだが、王都は活気が満ち溢れている。どんなに人が少ない場所でも賑やかだし、静かな場所なんて見たところどこにもない。


「今日は私たちがオススメする場所を紹介するね!」

「オススメな場所?」

「うん! 私たちは王都に長い間住んでるから、分からないところとかあれば何でも聞いてね!」


 俺を見て無邪気な笑顔を向けてくるエリカに、一瞬……本当に一瞬だけ心を奪われてしまう。

 やっぱり明るい子はいいなぁ……と、天を仰ぎながら心の中で呟く。すると、なぜか隣を歩いているメイがこちらをじっと睨めつけてきた。怖い。


「えっと……どうかしましたか?」

「別に?」


 メイはプクっと頬を膨らませて、明後日の方向を向いた。うわぁ……絶対怒ってるやつだこれ。


「怒ってます?」

「別に?」

「俺……何かしましたかね?」

「別に?」


 あ……やばい。めちゃくちゃ怒ってる。

 さっきから『別に?』としか言ってないし。


「……ごめんなさい。許してください。なんでも言うこと聞くので」

「だから怒ってませんってば」

「…………」


 どうすればいいのさ……この状況。誰か解決策を教えてくれよ……。


「2人とも……痴話喧嘩しないでよ。仲良いのはいいことだけど、私たちの存在忘れないでほしいなぁ」

「「痴話喧嘩じゃない!!」」


 俺とメイは同時に叫んで否定する。


「アレンとメイ、さすがにそれは無理があると思うけど……」

「「ユウキ(くん)まで!?」」

「ハモリすぎ」

「「うぅ……」」


 ユウキの言う通り、いくらなんでもハモる頻度が高すぎる。意図的にハモらせてるわけじゃないんだけど。

 ハルカさんと話した時にも『痴話喧嘩?』と聞かれたくらいだ。さすがにここまでハモれば、恋人同士に間違われてもおかしくないと苦笑する。


「はははっ。アレン君もメイちゃんも面白すぎ!」

「「恥ずかしい……」」

「いや、まだハモるのかよ」


 ユウキのナイス突っ込みで一旦会話は終了し、俺たちはエリカがオススメする場所へと向かったのだった。



「ここは……?」

「居酒屋!」


 居酒屋か! ……って、は!?


「俺たちって、年齢的にまだお酒は飲めないんじゃ?」

「うん。でもね、ここの居酒屋はノンアルコールの飲み物もあるの! それが美味しくて美味しくて!」


 俺たちがやって来たのは、王都の中心部(らしい)にある居酒屋。窓から店内を覗いてみるが、あまり客はいないみたいだ。

 本当に美味しいのかな……不安でしかない。


「さ! 早く入ろ!」

「あ、ああ……」


 俺とメイは店内を見て不安になってしまい、中々お店に入る気になれないでいた。しかし、エリカとユウキは颯爽とお店の中に入っていってしまう。

 そして取り残された俺とメイは、お互いの顔を見てどうしようか悩む。


「あの……お金って……」


 メイは金銭面の心配をしているようだ。だが俺は地下室から出た時に、父さんから少しばかりお金を貰っていた。本当に少しだけど……。


「俺が払うので大丈夫ですよ。5日間くらい何とかなる程度は持ってるので」

「いえ……私もお小遣いは貯めていたので、それを使います。ただアレン君が持っていないかと思っていただけです」


 …………俺、貧乏人だと思われてたのか?

 まぁ、仕方がないか。お金を持ってるとは言ってなかったし。


「さすがに無一文で旅に出ようとは思いませんよ。とりあえず今日は俺が出すので、恩返しだと思ってください。あ、遠慮はしないでいいですよ」

「じゃ……じゃあお言葉に甘えて」


 そうして、俺たちはエリカとユウキを待たせる形で居酒屋に入っていった。

 すると椅子が並んだカウンター席で、2人は並んで座りながらこちらを見ている。


「こっちこっち! 遅いよ!」

「ごめんごめん。ちょっと話してた」

「お? 恋人同士で秘密話かな?」

「「違うわ!」」


 俺とメイは付き合ってはいない……が、周りから見たら恋人同士に見えるのだろうか。


「いいっていいって。早く注文しな? どれも美味しいから損はしないよ」


 エリカの言うことを信じて、俺はカシスオレンジ。メイはカシスウーロンを頼んだ。エリカとユウキは既に頼んであるようで、2人とも頬杖をついて待っている状態だ。


 そしてこの後、俺にとって予想外の展開が起こることになる。だが、この時の俺はまだそのことに気付くことはなかった。

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