第8話 王都までの道中、1人の美女と遭遇する

 優しい住民が多いと言われていた人里(悪人もいる)を離れ、俺たちは王都に向かっていた。

 ちなみに俺たちとは、俺とメイの2人である。


「結構歩いたし、一旦休憩しますか?」

「そうですね。ちょっと疲れてきましたし」


 北東にある王都。それまでの道中は、端的に言えば森だった。四方八方には緑しか見えない。いつ王都に着くのかすらも分からない状況である。

 迷う可能性だって十分にある。そのため、迷わないようにと歩いた場所には等間隔で木に印をつけていた。


 そんな感じで、しばらく歩いた俺たちは腰を下ろし、少し休憩することに決めた。草が柔らかくて、ソファーみたいで心地よい。


「……これ、どうぞ」


 ふぅ、と一息ついたところで、メイがパンパンなリュックから取り出した何かを差し出してくる。


「川でんできたお水です。一応持ってきました」

「嬉しいです! ありがとうございます!」


 メイが持つには重いであろうパンパンなリュックには、非常食がたくさん入っていた。当然俺が持つと言ってここまで来たが、まさか全部非常食だったとは思わなかった。


 とりあえず俺たちは水を飲んで休憩を終え、再び歩き始める。かなり歩いたし、そろそろ着いてもおかしくないと思うんだけど……。


 ――ガサガサ。


「…………ん?」


 今ではもう慣れてきた木に印をつける行為をすると、突然目の前で何かが動く時に鳴る音がした。


 ――ガサガサ。


「虫……でしょうか?」


 そう言って俺の腕を震えた手で掴み、後ろに隠れるメイ。

 か、可愛い〜〜!! もうずっとこのままがいいんですけど〜!


「そうだと思いますけど、虫苦手なんですか?」

「あ、当たり前です! 私、虫だけは本当にダメなんです……」


 ――ガサガサガサ。


「アアアアアアレン君! は、早く王都に行きませんか……?」

「か、かわ……じゃなくて! そうですね。行きましょうか」


 あっぶねぇー! 危うく心の声が漏れるところだった……。


「……って…………ん……?」


 メイに手を引っ張られながら森を歩いていると一瞬、草木の間では見ることのないであろう色が目に入った。その色は――――


「あの! 1回止まってください!」

「い、嫌です! 一刻も早くこの森を抜けたいので!!」


 メイは必死だ。それほど虫が苦手なのだろう。

 ……でも。


「さっきの音は虫じゃなくて、んです!」

「…………人?」


 虫の出現(?)により冷静さを欠いていたメイだが、俺の一言によって冷静さを取り戻せたようだ。


「……それ、本当ですか?」

「確証はないですけど、一瞬肌色が見えたんです。草木の間で肌色なんて、普通なら見ないので」

「確かに……」


 そんなわけで、俺たちは恐る恐るさっきの場所まで戻ることに決める。

 人だと断定は出来ていないし、虫が出てくるのが嫌なのか、メイはずっと俺の後ろで隠れている。


「…………やっぱり」


 案の定、音を鳴らしたのは虫ではなく、1人の美女だった。そして倒れるようにうつ伏せになっている美女は、スヤスヤと可愛らしい寝息を立てている。


「……寝てるんでしょうか?」

「そうだと思います」


 さっきの音を鳴らした犯人が虫でなかったと分かり、安心するかのように胸を撫で下ろすメイ。

 でも、どうしてこんなところで寝てるんだ……?


「…………ふにゃふにゃ。美味しい……けどもう食べられないよぉ……」

「「……」」


 幸せそうな寝言と寝顔を見せる美女に、俺たちは一斉に黙り込んでしまう。そして問題ないと判断し、放っておいて王都に向かおうと歩を進める。


 ――パキッ!


「…………ん? ふわぁぁぁあああ…………誰?」


 落ちている木の枝を踏んでしまい、体を起こした美女がこちらに目を向けた。すると、俺はとんでもない物を目にすることになる。


「な……な……な!」


 なんて大きいお胸なんだぁぁぁあああ!!

 メイを虐めていた巨乳美少女よりも大きいんじゃないか!?

 例えるならば……そう! スイカだ! こんなにも大きいお胸、初めて見た。…………ゴクリ。


「い、いつまで見てるんですか! ハレンチです! アレン君は私のだけ見てればいいんですっ!」

「…………」


 謎にメイが対抗してくる……が。

 メイに視線を向け、少しずつ目を落としていく。すると、お見事と言ってもいい程のぺったんこなお胸があった。


「あ……はい。立派ですね。すごくいいと思います」

「絶対思ってない!!」


 そう言いながらムッと頬を膨らませる天使……めっちゃ可愛いです。世界一可愛いです。だから許して?


「えーっと……本当にどちら様?」


 俺たちの会話を聞きながら、様子を見計らって口を開く美女。完全に存在を忘れていたため、反応に少し遅れてしまった。


「……あ、すいません。俺はアレンです。それでこっちが――」

「メイです」


 俺たちが自己紹介を終えると、美女は目にかかっていたパールブルーの綺麗な髪を払う。そして髪色に合った綺麗な瞳で俺たちを見てから口を開く。


「私はハルカ。王都から南西にある人里を目指して歩いてる途中だったの」


 王都から南西――つまりは俺たちの出発点に向かっているということだ。それに加えてメイの故郷でもある。


「どうして王都から……? それになんでここで寝てたんですか?」

「私は王都で教師をやってるの。だから生徒集めに周辺の子どもたちを集めてるのよ。まぁ、そんなわけで朝早くから南西に向かってた。けど眠くなっちゃってね」

「なるほど……」


 学校か。本で読んだことあるけど、楽しそうだからずっと憧れてるんだよなぁ……。

 それにしても眠くなったからって、こんな森の中で寝るか……?


 そんな俺の心の声がまるで聞いたかのように、ハルカさんはニヤリと口角を上げた。


「あなたたちも学園、通ってみる気はある?」

「い、いや……そこまでお金も持ってないですし、さすがに無理です」


 恐らく王都で生きていくだけで精一杯。そんな俺たちが学園に通えるわけがない。悔しいが、我慢するしかないのだ。


「ふふっ。お金がないから無理、ねぇ」

「……はい」

「でも大丈夫!!」

「へ?」


 普通学園に通うなら、お金は絶対に必要だ。それなのに、何が大丈夫だと言うのだろうか。


「お金が必要なのは昔だけ! 今は要らないのよ!」


 えっへん! と胸を張るハルカさん。

 その影響で、2つのスイカがたゆんたゆんと揺れた……ゴクリ。


「『衣食住』の『食・住』も学園内ならタダよ! どう? いい話だと思わない?」


 既に俺の出す答えが分かっているのか、ハルカさんは勝ちを確信した様子だ。


「確かにすごく嬉しいですが、後から高額なお金を請求されませんよね?」

「しないわよ。そんなことしたら牢獄行きだもの」


 そう言って、はははっと笑うハルカさん。

 裏はなさそうだし、学園には元々興味がある。俺なら断らない以外に選択肢がない。


「どうします?」

「アレン君が行きたいなら、私も一緒に行きたいです」

「ふふふっ。なら話は早いわ。早速学園に向かって、しゅっぱーつ!」


 ハルカさんは言い終えると同時に、グーにした片手を上げる。言わずもがなだがその瞬間、2つのスイカがたゆんたゆんと揺れた。


 ……保ってくれよ。俺の平常心。


 斯くしてメイに睨めつけられながらも、俺たちは3人で王都に向かうことになったのだった。

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