第7話 旅立ち
昨日で虐め問題は無事解決。
そして今日で俺は、ここを離れる。
「本当にお世話になりました。この御恩は一生忘れません」
そう言って、メイとメイの母親に深々と頭を下げた。同時に、また会った時にはいっぱいお礼をしようと決める。
「気にしなくていいよ。こちらも楽しかったしね」
「……はい。私も、すごく楽しかったです」
メイとの別れはすごく寂しい。でも、彼女の前では泣かないようにと精一杯笑顔を作る。
「よかったです。ずっと邪魔なのではないかと心配だったので……」
「そ、そんなことは……!」
メイが大きな声で否定をしてくれる。
邪魔だと思われていなかったようで、少しホッとした。
「あと、早朝なのにわざわざ見送りもしていただけるなんて、思ってもいませんでした」
「当然だろう? あんたたちがいないと寂しくなるからねぇ」
…………ん? あんた、たち……?
「それってどういう――」
「なんだメイ、まだ話してなかったのかい?」
「う……」
メイは気まずそうにそっぽを向いている。
え、待ってどゆこと? 理解が追いつかないんだけど?
「はぁ……昨日はあんなに騒々しかったのに」
メイの母親は「ほら」と言ってメイの背中を押し、俺の目の前に立たせた。当のメイは顔を真っ赤にして、俯きながら両手の指先を合わせている。
何を言われるのか見当もつかないため、メイが喋り始めるまで黙って待つ。すると、意を決したのかようやくメイの口が開いた。
「あの! 私、アレン君に付いて行ってもいいですか!?」
「……へ?」
一瞬にして思考が停止した。
ちょっと待て……。今、なんて言ったんだ? 聞き間違いかもしれない。だって、普通に考えておかしいもんね。
「だから! アレン君に付いて行きたいんです!」
あー、うん。やっぱり聞き間違いじゃなかったわ。俺に付いて行きたい…………って、ふぁ!?
「え……? それ、
「はい!
「お母さんが許さないんじゃ……?」
恐る恐るメイの母親に視線を向けると、なぜかニヤリと笑われた。
「大丈夫です! 昨日許可をもらいました!」
「お母さぁぁああん!!」
「だからお願いします! どうしても付いて行きたいんです!」
「……理由を聞いてもいいですか?」
俺みたいなどこの馬の骨とも分からない奴に付いて行きたいなんて、明らかにおかしい。
それに親も親で普通は許さないと思うんだけどなぁ。
「そ、それは――――内緒です」
俺の顔をチラチラ見ながら恥ずかしそうに言うメイ。可愛すぎて、悶え死にそう……。
「あ……分かりました。でも、本当にいいんですか?」
メイに最後の確認を取ると、満面の笑みでコクリと頷いた。はぁ……天使みたいで可愛い。
「お母さんも本当にいいんですか?」
「私は昨日許可したと言ったじゃないか」
「う……」
メイがここを離れる。ということは、家に残るのはメイの母親ただ1人。まだ15歳の娘がいなくなってしまったら、絶対に寂しいと感じるはずだ。
「大丈夫さ。メイが自分で決めたんなら、私がとやかく言う筋合いはない。親としては少し寂しいけどね」
そう言って苦笑し、ポリポリと頬を掻くメイの母親。そして、「でも……」と続ける。
「あんたになら任せられる。ずっと悩んでいた虐めからメイを助けたあんたになら、ね」
「俺は初めて王都に行きます。だからどんな危険が潜んでいるかも分からないです。絶対に守ると断言出来ないですよ?」
敢えて何度も本当にいいのか問う。返ってくる答えは変わらないかもしれない。だが、それでも考え直してほしいのだ。
無能だと言われて監禁されていた俺に付いてくるなんて、普通に考えて有り得ない。勇者たちが住まう人里出身なことは知っているからこそ、許してくれているのかもしれないな。
「構わないさ。あんたはそう言うが、絶対に守ってくれると信じてるからね〜」
俺への信頼、いくらなんでも厚すぎませんかねぇ!?
「あ、あと俺、実は勇者の力なんて持ってないですし……」
「そうなのかい!? ま、まぁ関係ないさ。信頼に足る人だと判断したのだから、もういいだろう! さっさと行きな。早くしないと皆が起きてきちゃうよ」
そしてかなり強い力で押されながら、後ろに向かって進んでいく。メイは今までの俺たちのやり取りを見ている間、終始可愛らしい笑みを浮かべていた。
「えーっと、じゃあ今までお世話になりました」
追い出される形で人里の外に出てしまったが、最後は深々と頭を下げてお礼の気持ちを伝える。メイは「また近いうちに会いに来るね」と言って、母親を抱きしめている。
あの無邪気な姿……一生見ていられる気がする。
「……あんたもいつかはメイと一緒に顔を見せに来てくれないかい?」
「はい。喜んで」
近いうちに必ず恩を返しにくる。そう決意し、ようやく王都に向かおうと北東に体を向ける。
王都。それは勇者たちが住まう人里の東。そして、今いる人里の北東に位置する。あまり距離はないため、今日の昼前には王都に着くだろう。
しかし、王都で何が起こるかは分からない。
それでも。何があっても。自分の命を犠牲にしてでも。
――絶対にメイだけは守ってみせる。
メイの母親の信頼に応えるというわけではない。自分が守りたいと思うから、彼女を守る。
そう心の中で誓い、俺たちは王都に向かったのだった。
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