第6話 恩人を助けるためなら

 メイを助けると誓った日の昼過ぎ。

 俺はメイと一緒に外に出ると、案の定たくさんの女子が集まってきた。その中にはメイを睨めつける者がいたり、「またあいつと一緒かよ」と呟く者もいる。


 脅されている、虐められている、というのはどうやら本当らしい。


 メイや母親の話を聞いて、嘘をついていると疑っていたわけではない。ただ確認はしておいた方がいいと思っただけだ。


「……どこで作戦を決行するんですか?」


 心配そうに、誰にも気づかれないくらい小さな声で聞いてくる。


「なるべく誰にも見られない場所がいいです。あまり目立ちたくはないので」

「アレン君ならもう十分目立ってると思いますけど……」

「嘘……!? なんで!?」

「だ、だって――」


 メイがあまりにも予想外の言葉を発したため、ついつい話を広げてしまう。しかし、1番気になるところで邪魔が入った。


「アレン君。メイとじゃなくて、私たちと遊ぼうよ〜」


 ニコリと笑ってそう言う亜麻色のボブが似合う美少女。そして…………お胸が大きい。1回だけでいいから触ってみたい……じゃなくて!!


「俺は構わないけど、その前に少し話がある。いいかな?」

「……っ! もちろん!!」


 巨乳美少女は何かを期待したのか、さっきよりも乗り気だ。……なんで?


「その後ろで見ている子たちも。一緒に話を聞いて欲しい」

「「「はい!」」」


 後ろで見ている美少女3人にも声をかけると、違和感を覚えたのかその前に立っている巨乳美少女の口が開いた。


「どうして皆も……? ……あ、そうゆうことね!」


 え、なんでそんなに乗り気なの?

 俺は今から注意脅しをかけるだけなんだけど?



 そして俺たちは人気がない場所に向かった。

 メイに教えられてやって来たこの場所は、民家が集まっている場所から少し離れた茂みだった。確かにここなら誰にも見られずに注意脅しができる。


 …………しかし。どうして、あの巨乳美少女はずっとソワソワしているんだ?

 チラッと後ろを歩いている当人に視線を向ける。すると視線に気づいたのか、赤面しながらニコリと笑って俺に手を振ってくる。え、なにそれ可愛い!


 ……ちょっと待て。なんで可愛いって思ってるんだよ俺! 今から注意脅しをかけるのに!


「ふぅ……」


 注意脅しなんて1度もしたことないし、うまくいくかは分からない。それでも俺は誓ったんだ。絶対に彼女を助ける、と。

 いくら相手が可愛くても、動揺をしている暇なんてない。


「よし。この辺でいいだろ」


 俺は足を止め、後ろを向く。同時に隣を歩いていたメイも後ろを向いた。


「いきなりだけど、本題に入りたい。いいかな?」


 コクコクと頷く巨乳美少女。

 すごい……めっちゃ揺れてる。何がとは言わないが、服の上からでも大きいって分かるからな。何がとは言わないが(大事だから2回言いました)。


「俺が君たちを呼び出したのは――」

「告白!!」

「……は?」

「愛の告白でしょ? 私に公開告白!」


 嬉しそうに大きな声で言う巨乳美少女。

 うん、何を言ってるのこの子?


「まさかナタ君と同じことをしてくるなんてね。正直驚いた!」


 ナタ君――それはメイの元彼。つまりは……。


「ふっ……何か勘違いしてないか?」

「へ?」


 巨乳美少女から笑顔が一瞬で消えた。その後ろで俺たちを見ている女子3人は動転しているのが分かる。


。どうして恋人がいるのに、別の子に告白をしなくちゃいけないんだ?」

「……っ!?」

「……は?」


 ここでずっと俯いて黙っていたメイが、顔を上げて驚いた顔で俺の方を見ている。視線で「黙って見ていてほしい」と伝えると、伝わったかは分からないがメイはコクリと頷いた。

 そして、天使の皮を被った悪魔が本性を現わし始める。


「メイ、私言ったわよね? アレン君にちょっかいを出さないでって」

「……っ!」


 メイは身体を震わせた。


「メイは何もしていない。俺から告白をしたしな」

「はぁ? ちょっとあんたは黙っててくれる?」


 さっきとは別人のようだ。

 この巨乳美少女を少しでも可愛いと思ってしまった自分がバカバカしいな。


「それにお前らはメイを虐め、脅していたらしいな」

「だから黙れって言ってるでしょ!」


 声を荒らげる巨乳美少女。

 だが、俺は黙る気なんて毛頭ない。


「俺は北方の人里からやってきた。この意味が分かるか?」

「あんたはただの旅人でしょ? どこから来たって関係ないわ」

「ああ、確かに俺は旅人だ。でも旅は始めたばかりさ」

「そんなの……」


 またしても「関係ない」と言おうとしていたのだろうが、いくら待ってもその言葉は聞こえてこない。

 気づいてしまったのだろう。俺が何者なのかを。

 この事実に隣に立っているメイですら驚きを隠せていない。


「もしかしてあんた……」

「そう。俺は勇者が住まう人里出身だ」


 ただ出身なだけで、俺は勇者じゃないんだけどね。

 まぁ、勇者の力を持っていない子のほとんどは、誰にも知られないようにと存在を消されている。今回はそれを上手く利用した、という感じだ。


「そ、そんな……信じられないわ! 証拠もないし、デタラメを言ってるんじゃないの!?」


 想定内の返答。この程度なら、答えはあらかじめ用意してあるから問題ない。


「デタラメ? じゃあ、試してみるか?」

「試す?」

「お前たち4人の中で1人、俺の前に立て。勇者の力を使って殺してやる」

「……は!? 冗談じゃないわよ! その辺の木を使いなさいよ!」


 周りに立っている大樹を指さして言う巨乳美少女。

 残念ながら、それも想定内だ。


「木を倒してしまったら他の人にバレちゃうだろ。いいのか? 他の人にバレても」

「くっ……! 分かったわ。じゃあこの子を殺りなさい」


 そう言って後ろに立っていた女子の腕を掴み、俺の目の前に突き飛ばした。

 突き飛ばされた当の女子は「え? え?」と言いながら泣きそうになっている。そして他の2人は関係ないと言わんばかりに静観している。


「ち、違うんです……! 私がメイの虐めに加担したのは、やれって命令されたからで……」

「ほう? 誰に?」


 突き飛ばされた女子が指差しているのは巨乳美少女だ。やはり主犯はあいつなのか。


「はぁ? あんた、何様のつもりよ」

「…………ぅ」

「あんたが先に言ったんでしょう? 『メイが調子に乗ってるから腹立つ』って」

「……私言ってない! 全部指示通りに動いただけだもん!」


 愚の骨頂にも程がある。

 悪いのは自分ではない。あいつが全部悪い。自分は関係ない。

 どうしてこんな悪魔共に、善良な天使が虐められなきゃいけないんだ。


「ふざけんな――ッ!! お前らのせいで、メイがどれだけ辛い思いをしたと思ってるんだ!!」

「「「「……っ」」」」


 目の前に立つ女子4人は一斉に黙り込む。そして、深々と頭を下げた。


「「「「……ごめんなさい」」」」


 4人がメイに謝ったことを確認し、メイの方に視線を向ける。するとメイは謝られたことが予想外だったのか、俺と初めて話した時のようにおどおどしていた。


「許せないなら許さなければいい。それだけこいつらが犯した罪は重いんだから」

「許しますよ」


 即答だった。

 すごく辛い思いをしたはずなのに。許せなくて当然なはずなのに。


「皆、顔を上げてください。私は許すので、安心していいですよ」

「「「「メイ……」」」」


 メイが許すなら、俺が口出しをする必要はないだろう。

 ……でも。また同じようなことになって、メイが虐めの対象になってしまう可能性がないわけではない。


 考え過ぎだ、と言われてもおかしくはない。それでも可能性があるのは確かだ。


「俺は明日にはこの人里を離れようと思っている。だからこそ問いたい。お前らは今後、絶対にメイを。いや、誰も虐めないと誓うか?」

「「「「……はい」」」」


 もう大丈夫なのかもしれない。

 だが油断は出来ない。口では謝っていても、俺がいなくなった後に虐めを再開するかもしれない。

 だから。


「もし今後お前らが虐めに加担した場合、俺はまたここに戻ってきてお前らを殺す。そして今の状況についてや俺の正体を他言した時も、だ。勇者の力があれば簡単に分かるからな」


 目の前で反省した顔を見せて、コクコクと頷く女子4人。

 これにて一件落着だ。恩人のメイにこれ以上辛い思いをしてほしくない。


 ――だからどうか、この優しくて可愛い天使の未来に幸あれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る