第5話 誓います! 俺は彼女を――。

「……実は私、皆から脅されてたんです」


 メイからその言葉を聞いた時、俺は何を言ったらいいのか一瞬分からなくなった。

 脅されてた……? さすがに大袈裟なのでは? と思ってしまう。

 しかし、メイはそんな俺の疑問に気づくことはなく、過去にあったことをゆっくりと話し始めた。


「――――――ということがありました」


 メイには以前、恋人がいた。その恋人は人里の中でも1番のモテ男だったらしい。

 クソ……羨ましい! しかもメイみたいな可愛くて優しい天使を恋人にしておいて、浮気をするなんて! 不埒な! 絶対に有り得ん!!


 そして1番のモテ男を射止めたメイは反感を買い、彼を好きだった女子から虐められるようになった。浮気相手が人里の中でも目立つ存在、一軍女子だったこともあって、すごく大変だったという。


 無視や暴力。冬に思い切り冷水をかけられたこともある。今は恋人と別れて何も無いらしい。だが、俺がメイの家に泊まらせてもらっていることがキッカケとなり、脅されるようになった。


 ――また虐められたくなかったら、黙って私たちの言うことを聞け。アレン君にちょっかいをかけたら許さない、と。


「……ごめんなさい。ということは、全部俺のせいなんですよね」

「ち、違います! アレン君のせいじゃ、ないです……!」

「でも……」


 今のメイの話を聞いた限り、俺がこの人里に来なければメイは脅されずに済んだということだ。父さんにきっとよくしてもらえると聞き、甘えようとした俺の浅はかな行動によってメイを傷つけてしまった。


 最低な人間だな。俺は。


「クソ……! こんなことだったら、地下室で監禁されたままでよかった!!」

「地下、室……? 監禁……?」


 思わず心の中の声が漏れてしまう。聞き慣れない単語を聞いたメイの頭の上には、ちょこんとクエスチョンマークが浮かんでいる。可愛い……じゃなくて!!

 正体を隠さないといけないのに……まずい!


「い、いや、なんでもないです。忘れてください」

「はぁ……?」


 あっぶねぇ! ギリギリセーフだな!


「それにしても、どうしようかな……。今話したこと、お母さんは知ってるんですか?」

「多分知らないと、思います」

「だよなぁ……」


 子どもが虐められていることを親に話すのは、相当勇気がいるだろう。そのため、現状虐められていても親に隠して知られないようにしているケースが多い。


「私が虐められたりするのは、人気がない場所が多かったので……」


 優しい住民が多いと聞いていたこの人里では、当然虐めを目撃したら止めに入って注意をするだろう。だからこそ人気がない場所で……か。


「…………分かりました。俺がなんとかしてみせます」

「え?」


 今すぐにでも泣き出しそうな顔で見つめてくるメイ。

 この人里に来てから、メイにはすごくお世話になった。その恩返しとして、助けるくらいはお安い御用だ。


「俺がメイを助けるから」


 メイの両肩に手を置き、目を合わせてから優しく、そして強い口調で誓う。

 助けるのは容易ではないかもしれない。でも、必ず彼女を助けると決めたんだ。絶対に。何があっても。




 川でメイと話をしていると、思ったよりも遅くなってしまい、急いで家に戻る。

 作戦決行はお昼過ぎ。メイに詳しいことは教えていないが、同行して欲しいとだけ言ってある。


 謝らせる……ことは出来ないかもしれない。だが今後メイに手出しをさせないくらいなら、いくらでもようがある。


「メイ、朝ご飯は〜?」

「今から作るから待っててね」

「……ん」


 起きたばかりなのか、何も知らないであろうメイの母親は通常運転だ。

 そしてメイの母親は、メイには聞こえないくらいの小さな声で話しかけてくる。


「……あとアレン君、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

「え? あ、はい」


 同時に手招きをされて、俺は何かと思いながら外に出る。すると玄関から少し離れた場所で、メイの母親は立っていた。


「えっと……なんですか? 急に呼び出して」


 もしかして、昨晩のことだろうか?

 それとも……。


「メイのことさ」


 メイの母親は心配そうに口を開いた。


「メイは……きっと皆から虐められている。直接現場を見たわけではないが、最近夜な夜なうめき声が聞こえてくるんだよ」


 気づいていたのか……。でもそれなら親として助けてあげないと……!


「何度も助けようと思った。可愛い子どもが虐められているなんて、たまったもんじゃないからねぇ」

「それなら――ッ!」

「証拠がないんだよ。私が出ればきっと『虐めてないですよ?』と言われて終わりにされてしまう。でもあんたなら、証拠などなくてもメイを助けてあげることが出来ると考えた」


 だから、とメイの母親は続ける。


「厚かましいお願いだということは重々承知の上だ。どうか……どうか娘を助けてあげてほしい」


 メイの母親はそう言って深々と頭を下げた。

 こんなお願いをされなくても、別に助けるつもりだったんだけどな。


「誓います」


 スっと息を吸う。そして俺は川で彼女に誓ったように、彼女の母親にも優しく、強い口調で誓った。


「俺はメイを必ず救ってみせます」


 どうなるかは、誰にも分からない。

 だが俺は絶対に彼女を救うと決めた。何があっても絶対に。



 そして運命の時間、お昼過ぎになった――――。

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