第3話 たくさんの女子に囲まれて

 俺がメイの家に泊まるようになってから数日が経ち、この人里にも少しずつ慣れてきていた。今ではメイがやっている家事を手伝ったり、他の住民と交流して仲良くなってきている。


 でも、どうしてだろう。

 仲良くなれたとは思ってるけど、少し思ってたのと違う。


「アレン君って、すごくカッコイイよね!」

「北の方から来た旅人らしいけど、私たちと同じ歳なのにすごく立派だし!」

「メイの家なんかじゃなくて、私の家に来なよ!」


 ……本当に理解ができない。

 俺が仲良くなってる(?)の、全員女子なんですけど!? それも全員がとびっきりの美少女!

 やっぱりここは天国だ!!


「あははは……」


 外に出ればずっとこんな状況なため、俺は苦笑せざるを得ない。地下室で孤独だった頃よりも、断然こっちの方がいい! かもしれない。

 でも女子とばっかりじゃなくて、男子と仲良くなりたいんだよなぁ。話が合う同性で仲の良い友達が欲しいし。


 そんなわけで、帰ってメイにこの人里の男女比率を聞いてみることにした。こっちに来てから女子しか見てないし。

 もし女子しかいないなんて言われたらどうしよう……。ハーレムなのは嬉しいけど、同性がいないというのはさすがにキツすぎる。


「あの、この人里の男女比率ってどれくらいか分かりますか?」

「そうですね……詳しくは分かりませんけど、女性の方が多いですよ。でも、あまり大差はないはずです」


 メイは数日が経って、ようやくおどおどせずに接してくれるようになった。すごく嬉しい!


「あまり大差ないんですか……。じゃあなんで俺のもとに寄ってくるのは女の子ばっかりなんだ!」

「本当ですよ! 私の家に泊まってるのに、どうして他の女の子とイチャイチャしてるんですか!?」


 …………んんん!?

 なんかあらぬ誤解をされてる気がするんだが!?


「……え? イチャイチャなんてしてませんけど……」

「してますよ!!」


 マジですか……。イチャイチャしているつもりはなくても、メイがそう言うならば間違いないだろう。本当にしてないと思うんだけどな?


「……ごめんなさい」

「私だって……したいのに」

「え?」

「……っ! なんでもないです!!」


 メイがなんて言ったのか、声が小さくて全然聞き取れなかった。もしかして……嫉妬してたのか?

 これからはもうメイ以外の女子と関われないな。あんな可愛い子を嫉妬させたくないし。



 …………と、思っていたのだが。


「アレン君、今日もカッコイイね〜!」

「私と付き合って〜!」

「私とも〜!」


 次の日、なぜか状況が悪化した。


 俺はメイをこれ以上困らせない(嫉妬させない)ためにも、他の女子とは関わらないようにしようと思ったんだ。嘘じゃないからね? 本当にそう思ってたんだからね?


 そんなわけで、外に出たら集まってきた女子たちに俺は開口一番こう言ってやった。


「迷惑だから、これ以上話しかけないで欲しい」


 我ながらすごく酷いことを言ったと思う。

 でも、集まってきた女子たちは何も聞こえなかったかのように、辛辣だった俺の言葉を無視したのだ。何度言っても無視をし続ける。普通に考えて有り得ない。


 そんな最悪な状況をメイは遠くからじっと見てるし。俺、この後また怒られる(嫉妬される)んだろうなぁ……。

 結局、怒られた挙句めっちゃ嫉妬されました。




 ***




 アレン君がたくさんの女子に囲まれて鼻の下を伸ばしている時、私――メイはずっと我慢をしていた。

 アレン君はすごくカッコイイ。だからたくさんの女子に囲まれるのは当然だ。


 でも、それがすごく嫌だった。



 ――あの時と同じ感覚だ。



 私には以前、かっこよくて優しい恋人がいた。この人里の中で1番カッコイイと言われていた人。それが私の恋人だった。


 しかし、ある日事件は起きた。




『今日も夕ご飯作るから一緒に食べよ?』

『本当に!? メイの作るご飯は美味しいから嬉しいよ!』


 私たちは2人で並んで外を歩いていた。周りからはバカップルと思われていたかもしれない。そんな私たちに近づいてきたのは、最近アレン君にくっついてる女子たちだった。


『ナタ君じゃん! こんなところで何してるの?』

『あぁ、実はこれからメイの家に行く予定なんだ』

『へぇ! 私も行きたいな〜』

『『私も私も!』』


 正直、意味が分からない。

 私たちが恋人同士なのは知っているはずなのに、邪魔をしようとしてくる。恋って、そういうものなのかな?


 そして可愛い女子たちに上目遣いでお願いされた私の恋人――ナタは予想外の言葉を発したのだ。


『いいんじゃない? 皆で食べた方が美味しいだろうし』


 ……は? こいつ、何言ってんの?

 私はさすがに有り得ないと思い、この直後にナタを振った。なんて言って振ったのかは、覚えていない。


 普通に考えておかしいよね?

 それとも、私がおかしいのかな?


 恋人が自分以外の異性と仲良くするのは、絶対に嫌だ。束縛とかはする気ないけど、せめて一線は引いてほしい。


 この人里には優しい住民がたくさんいる。そんな噂を耳にしたことがある。

 確かにそうだろう。だって住民のほとんどが優しい人だし。でもたくさんいるだけであって、悪人だって少数いるのは間違いないのだ。


 そしてナタは――――紛れもない悪人の1人だった。



『メイ』

『……はい?』


 これはナタと付き合い始めてすぐの時の話だ。

 私は川にお水を取りに行く途中で、1人の女子に話しかけられた。


『あなた、ナタと付き合い始めたって聞いたけど、本当なの?』


 私に話しかけてきた女子は、明らかに怒っていた。この時はどうしてかは分からなかったけど、もしかしたらこの子はナタのことが好きだったのかもしれない。


『本当だけど、それがどうかしたの?』


 この日からだ。

 無視や暴力。冬に思い切り冷水をかけられたことだってある。あの時は本当に辛かった。


 ナタはこの人里の人気者だったということもあって、私とナタが付き合っているという噂はすぐに広まった。そして同時に、たくさんの女子から目の敵にされるようになった。

 だからこの人里に仲間だと思えたのは、家族とナタだけ……だったんだけど。


『メイちゃんが付き合ってるナタ君、他の子とも恋人関係らしいわよ』


 突然近くに住んでいたおばちゃんに聞かされた衝撃の事実。善意で言ってくれたんだろうけど、本当かは分からないため本人に確認を取った。


『僕が他の女子とも付き合ってるだって? そんなわけないだろ。僕が好きなのはメイ1人だよ』


 私は単純だから、ナタのその一言を信じてしまった。しかし、振った後に私以外の子とも恋人関係だったと白状した。

 まぁ、もうナタのことなんてどうでもいいし。今では全く気にしてないんだけどね。


 そして今、私はアレン君と出会った。もしかしたらナタよりもかっこよくて、ナタよりも優しい人だ。そして私の……。

 だから、アレン君が他の女子と楽しそうに会話をしていると、すごく不安になる。ナタの時と同じようになるのではないか、と。


 もしかしたら、一目惚れをしたのかもしれない。でもアレン君とはそういう関係になってはいけない。



 ――だって、私はもうあの時みたいに虐められたくないから。

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