【KAC2022】 推し活は推し活を生む。

東苑

そこに愛はあるのか? そこに愛があるのなら




 教室にて。


 わたしはクラスメイトのあやちゃんのバックに飾られた缶バッチに気づいた。見覚えのあるアニメのキャラクターだ。


あやちゃん、その缶バッチって!」


「今やってるアニメのだよね」


 と、クラスメイトで幼馴染みでもある育美いくみも続いた。

 中学の部活を引退してから伸ばし始めた黒髪ロングが今日もよく映えてる。


「……もしかしてお二人ともご存知でしたか?」


 あやちゃんの目がキランと光った。

 そしてどこからかメガネ(伊達)を取り出し、すちゃっと装着。

 興奮した様子でバックをバシバシ叩く。


「そうなのです! 今大人気のアニメ「悪鬼の剣」なのです!」


あやちゃんの喋り方がいつもと違う!?」


「ゾーンに入ったのかもしれないわ」


 あやちゃんは「すぅ」と大きく息を吸い込んだ――く、来る!


「実は私アニメとか漫画とかが大好きでグッズとかも買ってるんですけどバックとかにつけるのはちょっと照れがあって部屋に飾って眺めててそれはそれで一つの楽しみ方ですし幸せなんですけどやっぱり外でつけてる方々を見ると我慢できなくなってつい声をかけてしまったりその度にくぅっ! 私もやりたい! ってなるんですよ最近は一般の人もアニメを観るようになって「悪鬼の剣」は映画がスマッシュヒットしたじゃないですか普段はアニメを観ない人にも認知されてて世間的にも生存権を得たというかもう我慢はやめだやってやんよどうにでもなれ! って振り切れましてそういうわけで晴れて缶バッチをつけてみたのです鬼丸様に傷がついたらいけないのでしっかりデコりました以上小心者の私の推し活デビューです感謝!」


 はぁはぁと息苦しそうなあやちゃん。

 でも満足げに汗をぬぐう姿はすごく輝いてみえる。


「わたしも育美いくみと映画観に行ったよ~」


「満席だったね。画も音もすごい迫力だったし、お話も……悲しい結末だったけどよかった」


「わかります! 本編で泣いて、エンディングのときの演出でまた泣かされました!」


「……童子切さんの?」


「まさしく!」


「だよね、だよね! あれはずるいよね!」


育美いくみちゃん、もしや童子切さん推し!?」


「うん、童子切さん大好き!」


「映画で身をていして数珠丸たちを守るところカッコいいですよね!」


「そうなの! 普段は子どもっぽいのにピンチになるとすごく頼りになって……」


 育美いくみあやちゃんが指を絡ませながら両手を合わせる。


「そう言えば育美いくみ、映画観に行ったときちょっと泣いてたよね?」


「え、気づいてたの!? あ……」


 かあっと顔が赤くなる育美いくみ

 じろりと睨まれる。


「で、でもうららだって泣いてたでしょ?」


「だって育美いくみが泣いたらわたしも泣いちゃうよ!」


「どういう理屈!?」


「二回目も三回目も四回目も何回観ても泣いたね~、わたしたち」


「ちょちょちょ! ばらすな~!」


うららちゃんたちそんなに一緒に行ったんですね……素晴らしいです、感動しました」


 顔の前で手を合わせ、涙ぐむあやちゃん。


「あ、あの……」


 あやちゃんはそれまでと打って変わって身体を縮こまらせ、ぼそぼそと続ける。


「今度アニメの映画があったら一緒に行きませんか?」


「うん、一緒に行こ!」


「楽しみだね」


「あ、ああ、ありがとうございます! ……うぅ、今日缶バッチつけてきて、推しと登校してよかったです。変な目で見られたらどうしようって不安で昨日はなかなか寝つけなくって。朝も玄関で鬼丸様をつけたり外したりしてて……でも、ここで鬼丸様を外したら一生顔向けできない! って思って」


「全然変じゃないよ、あやちゃん! あやちゃんの好きなもの教えてくれて嬉しい!」


「私も。あやと悪鬼の剣の話できて嬉しかったよ」


うららちゃん、育美いくみちゃん……」


 あやちゃんが祈りを捧げるように手を合わせる。


「お二人は天使ですか?」


「いいえ人間です」


「幼馴染みです!」


「あ、そうだ。映画行く前にさ」


 育美いくみあやちゃんのバックにそっと触れる。視線の先には缶バッチがあった。


あやの見てたら私も童子切さんの欲しくなっちゃった。よかったら今日の放課後、一緒に買いに行かない?」


「ふぁあ!? い、育美いくみちゃんの推し活デビュー……うぅ……是非、お供させていただきます」


 あやちゃんはメガネ(伊達)を外し、ハンケチで涙を拭く。


「ちょっとちょっと~! なにか忘れてないかね君たち? 今日は我らが散歩同好会の活動日だよ?」


「あ、すっかり忘れてた」


「ひど~い!」


うららはいいの? 数珠丸の缶バッチとか」


「え!? 数珠丸ちゃんのもあるの!?」


「あるでしょ」「ありますよ~」


「じゃあわたしも行く~!」


 その日は強化合宿という名目で、地元のオタロードを散歩するのであった。





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