第28話 六条 浅斗と言う男

玲奈ちゃんは不思議ちゃんっぷりを発揮したあと、亜里沙ちゃんの護衛依頼などは気にせず、普通に帰って行った。


(お陰で亜里沙ちゃんとお出掛けできたよ、ありがとう、玲奈ちゃん。)

今までの場合、護衛依頼の朝日は送り届ける事のみを優先にしていたため、出掛けるなんてことを考えなかった。真面目な朝日には玲奈みたいな発想が思い付かないし、それを実行してくれた彼女に感謝していた。


私は繋いでいた彼女の手を離して、

「さあ、着いたよ、亜里沙ちゃん。またね、バイバイ。」


「朝日ちゃん、慶介くん!今日はありがとう!楽しかった。」

 彼女はそう答えて、私に手を振りながら玄関に向かって行った。


私たちを監視していた人は途中でいなくなっていた。

「慶介くん、あの人は六条さんの所の人、みたいだね。」と言うと、


「はぁ~、可愛いのに頭も良いなんて…朝日さん。好き。」と彼は答えた。

(分かりづらいけど、合っている?って事かな?)


 監視を途中で解いたのは家の近くだからだ。恐らく私たちと亜里沙ちゃんを狙う奴の両方を見るために派遣されている。警備会社の人みたい。


「慶介くん、六条さんの所に行こうと思うの、いいかな?」

 彼なら先に帰れと言っても付いてくるだろうし。


「えっ?二人きりのデートに行くの?」(慶介くん…違うよ、仕事だよ?)

 彼には私と一緒に歩く=デートなのかもね。



六条さんの警備会社に着いた。普通の企業のビルに見えるけど、

入るためには、あれが、守衛室かな。近づこうとしたときに、

「すみません、学生の方はご遠慮ください。」と止められた。


「私はこう言うものです。」侑香里さんに作って貰った名刺を見せた。


「確認してまいります。お待ち下さい。」警備担当の方が連絡をしていた。

 しかし、なんだよ、この名刺は!

(JK探偵、野々宮 朝日…って、いかがわしい店のキャッチコピーかよ!)

 どうせ、あの社長発想の代物だろうな。


心の中で、名刺に文句を言っていると、

「社長がお会いになるそうです。どうぞ。」

 六条さん、会社にいて良かったよ。


しかし、こんな出来の良い会社が何でうちに…、あっ、JK探偵だから…か。

この会社…建物自体がとても新しい。すべてがピカピカなのだ。

(会社が出来て、間もないのか。)


社長室に通されて、入ってみると、

「失礼します。」私は深々と頭を下げて入る、


 慶介くんは…返事もせず、普通に入っている。

 面接も社会人経験も無いもんね…慶介くんは。


「頭を上げてくれよ。社長だけど名ばかりだから…。」

 六条さんは優しく出迎えてくれた。


社長室は彼の言うとおり、本当に質素なものだった。

置いてあるものも高級そうな物はなく、社員目線と言う、感じが出ていた。


「どうぞ。お掛けください。」と言われたので、

 私、慶介くん、六条さんの三人、応接椅子に座り話をすることになった。


「何か聞きたい事があって来たんだよね?」じゃないと来ないからね。


「この会社は最近、立ち上げたのですか?」

 廊下、部屋などの綺麗さが気になった。


「ああ、つい最近に立ち上げたんだ。物騒な事件も多いからね。」


「では、なぜ我々にも社員の方が尾行しているんですか?」


「すまないな、亜里沙があんな目に遭ったので警備を強化した。」

 彼は私の質問にまったく間髪を入れず流暢に話す。

(恐らく、相当、頭が良いんだ。切れ者って奴か…。)


ここが一番の本題だ、

「亜里沙ちゃんは記憶喪失では、無くて。記憶を持たないままあの年齢まで育ったんですね。あと、亜里沙ちゃんの仮の戸籍はどう入手したんですか?」


この人は怪しすぎるよ。ちゃんと本人の口から、真実を聞かないと…。

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