第23話 謎の多い依頼

私は珍しく事務所に来ていた。依頼の意味が分からなすぎだからだ。


「社長!亜里沙ちゃんの事ですけど、記憶喪失ってヤバい案件じゃないですか!なんでそう言う事を私に言わないんですか?」

 いつも通り社長を責め立てる。


「朝日ちゃんは父さんの事が嫌いなのかい?」社長はとぼける。

(この人はまともに取り合わない気だ。)

(しかも、なんなんだよ~今朝からのお父さんプレイは!)


腹を立てて睨み付けていると、社長はポツリと語りだした、

「人間が記憶喪失になるとどうなると思う?人間らしい事をすべて忘れるんだよ、衣食住すべてだ。」

「体の動かし方や言葉はもちろん、食べる事も、服を着ること、トイレも、お風呂も、みんな忘れるんだ。それを六条夫妻はあそこまで再教育した。まったく知らない女の子なのにだ。」


「そう言うちゃんとしている人が依頼して来たのだから、受けるよね。人情派の朝日ちゃんなら。」社長は私の性格を知っているみたいだ。

(うっ。情に訴えるなんてずるよ~。)


「分かりましたよ!亜里沙ちゃんはまかせてください…。」

(ひどいよ~。私が困った人をほっとけない性格を利用するなんて…。)


「そうか!じゃあ、朝日ちゃん!よろしく!」

 社長はそう言うと話を強引に打ち切った


言い負かされて、社長室を出た私に慶介くんは、

「朝日さん、デートしようよ~。」

 いつものスタンスを変えずに言って来るので、


「行こっか、デート。」といつも断る恒例の行事を受けた。

「やった~。どこに行くの?」ベタベタしてくるイケメンに、


「私は風になりたいよ。」と現実逃避発言をしたら、

「風邪?大丈夫なの、朝日さん?」ボケたの?それとも本気?慶介くん…。


 噛み合わないまま、事務所を出て、慶介くんと一緒に家へ帰った。

 私は制服ではうろつかない。世間的に言うと、変態コスプレ女だからね。


(それに、お家デートの方が慶介くんは喜ぶ。私の私物を嗅いで幸せに浸る、変態彼氏だから…。)


 翌日も亜里沙ちゃんを慶介くんと迎えに行って、送って帰る、登下校で彼女の警備をする。亜里沙ちゃんは本当に知識不足だった。慶介くんと私が恋人と説明しても、友達との違いを聞かれるし、彼女は男子から告白されても

「話したことが無いのになぜ私が好きなんですか?」

 とはっきりと言っちゃう始末だ。


 世の男子よ。なぜお前らは難攻不落の相手に行くのだ。

 大人になれば、妥協で付き合ったり、結婚している大人ばかりだぞ。


その点、慶介くんは幸せだ。催眠術とはいえ、私が好きなのは絶対に変えないスタンスだから…。私のすべてが大好きな、彼の人生は何もかも輝いて見えるだろう。


亜里沙ちゃんが記憶を失う前の、亜里沙ちゃんはどんな名前でどういう生活をしていたんだろう…。その謎が登下校の警備理由になるのかな…。

誰かに命を狙われていたのかな?


それが分かるのはまだまだ、先になりそうだ。

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