第13話 ボッチの真菜ちゃんは情報通

放課後、私は芸術科の教室に来ていた。西山 真菜さんと一緒に帰る約束していたからだ。教室を見渡して私は真菜ちゃんを見つけた。


「お~い。真菜ちゃ~ん。」大きな声で呼んでいた。


 ところが、彼女は返事してくれない。

(恥ずかしがりやなんだな?しょうがないな~。)


「真菜ちゃん!捕まえた!」私は彼女を羽交い締めにした。

「きゃ!」彼女はまさかの対応に固まってしまった。


「真菜ちゃんが返事してくれないから私は強行策に出ちゃうよ?」

(必殺、慶介くんのマネだ~。)


「分かった。ちゃんと返事するから離して、朝日。」

24歳の私は軽く10代の女子の行動や思考をコントロールしてしまう。


「分かったなら、帰ろ?真菜ちゃん。」

「うん。朝日。」そして二人で教室を出ていった。


「モテる女子は男子でもボッチ女子でも虜にしてコントロールできるか。」


「野々宮語録とは別に活動記も書かないとな…。」

 帰っていく私を見ながら瑞希ちゃんは別の伝記を書こうと決意した。


校門を出た私たち、すると真菜ちゃんが話し掛けてきた。

「朝日はなんで私になんかに関わろうとしてるの?」


「特に考えた事ないかな。誰かを?ではなく、私がどうしたいか?だから。」


「ふ~ん。私で無くてもよかったんだね。」真菜ちゃん、ちょっと凹んでる?


「それは自分を卑下し過ぎだよ。真菜ちゃんは私に選ばれたんだよ?あんなにたくさんいる女子生徒の中から一番に選ばれたんだよ?」


「そう聞くと凄い事なんだね。朝日に私は選ばれたのか…。」

 今までこう言う経験をしてこなかった真菜ちゃんは戸惑っているのだろう。


「だから、仲良くしてね?真菜ちゃん。」

「分かったわ。ありがとう。朝日。」


 私と真菜ちゃんは本当の意味でこの瞬間、友人になれたんだろう。よく考えたら今まで、私がこんなに活躍できる場があるとは思わなかったよ。


二人でしばらく歩いていると、

「朝日さ~ん。」(来たな変態の方の慶介くん。)


「朝日さん!なんでいつもいつも、僕をおいて帰っちゃうの?」

 慶介くんは少し不機嫌だ。


「ごめんね。慶介くん。今日は真菜ちゃんと帰りかったから。あとでたっぷりと、私を独り占めしてもいいから、今は真菜ちゃんと話をさせてね?」


言葉で巧みに慶介くんを操る。

「朝日さんをたっぷりと…独り占め!僕に、そんな、そんな、幸せな時間が存在するのか!」慶介くんはかなり興奮している。


私は畳み掛ける。

「それに…少し離れた位置から私の姿を見るのも、慶介くんは好きなはずだよ?だって…慶介くんが大好きな私の姿はもちろん、友達と話して笑ったり、怒ったりする私を見れるんだよ?」


(これで私も慶介くんもただの変態カップルに成り下がったね。)


「大好きな朝日さんを見放題…あんなことやこんなことをしている朝日さんが…近くで見放題!」


(だいぶ、ヤバい発言になっているね。慶介くん。)


すると突然、

「真菜さんと言ったよね、君。」慶介くんが真菜ちゃんに話し掛ける。

「はい。それが?」真菜ちゃんはびっくりしている。


「お願いだ。もっと僕は色々な朝日さんが見たい。さあ、真菜さん!朝日さんの楽しく喋りながら下校する姿を僕に見せて欲しい。」


(ダメだよ。慶介くん…その発言、ただの変態だよ。)


真菜ちゃんは私を見ながら、

「あなたの彼、大丈夫?」真菜ちゃんは慶介くんを見る目が変わっている。


(慶介くん。真菜ちゃんからも変態人間呼ばわり、確定だね。)


「慶介くんは学園の外ではこんな感じだから大丈夫だよ。害は無いから。」


「気にしないで帰ろっか。」


「あ。うん。分かったわ。」


 私と真菜ちゃんは慶介くんの存在を消すことにした。


「ところで、朝日。」

「どうしたの?真菜ちゃん。」


「朝日はウチのクラスの加藤さんを知ってる?」

「加藤 茉莉花さんだよね。少し話したよ。加藤さんが、どうしたの?」


「あんまりいい噂を聞かないからさ~。気を付けなよ?」

(突然、何を言っているの?真菜ちゃん。)


「なんで加藤さんの事を知ってるの?」

 人と話さない真菜ちゃんがなぜ?そんな事知ってるのだろう…。


彼女は理由を話してくれた。

「長いこと一人でいると、私はクラスで空気的な存在なんだ~。だから、私がいてもみんな個々でお構いなしに色々と暴露話を始めちゃうの。」


「中でも、加藤さんの噂が断トツに多いの。加藤さんが居ないと他の子達が話を始めるの。」


「変な大人の人と歩いていたとか、別人のようなメイクをして複数の男の人とデートしているとか、本人には直接、聞けないんだろうね。学校では成績トップクラスの優等生で明るくてみんなに優しい存在だから…。」


クラスで一人ボッチで過ごしている真菜ちゃんが一番みんなに詳しいことにびっくりしていた。


(意外な所から重要証言が…、私はラッキーなのかな。)


二人で話している少し後ろにいた慶介くんが、

「楽しそうな朝日さん。びっくりしている朝日さん。考え込む朝日さん。僕の前に色々な朝日さんがいっぱいいる。どの朝日さんもかわいくて好きだ。」

と呟いていた。


(慶介くん…。相手が私でなければ、ストーカーと言う立派な犯罪だよ。)

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