第9話 自虐ネタ披露

放課後に瑞希ちゃんと会う約束をした私は瑞希ちゃんの教室に行ってみることにした。


芸術科の教室と言っても校舎が違うだけで建物は変わらないので同じような教室だった。


瑞希ちゃんはクラスメートと話ながら教室を出る所だった。

「あっ。野々宮さん。迎えに来てくれたの?」


「うん。こっちの校舎にも来てみたかったから。」

 さりげなくきた感じを装う。


「あなたが、有名な野々宮さん?」隣にいた女子生徒から話し掛けられた。


「そんなに有名なのかな?」私の話題は学園中に広まっているのかな。


「私は加藤 茉莉花(かとう まりか)って言うのよろしくね。」


「あっ。ご丁寧に、野々宮 朝日です。」


「じゃあ瑞希、有名人の朝日ちゃん。またね。」(なぜ、ちゃん付け?)

 そう言うと加藤さんは走って行ってしまった。


「行っちゃったよ、瑞希ちゃん。」私が尋ねると、

「茉莉花は部活があるから…。」と答えてくれた。


私たちは歩きながら話をしていた。


「芸術科の授業ってどんな感じなの。」私は学校の授業の事から聞いてみる。


「ほとんど変わらないよ。普通科の授業と特別に美術か工芸かウェブデザインなんかがあるくらいだし。」


「私は芸術家になりたい訳では無くて携わる仕事をしたいだけだから、茉莉花みたいに部活はしていないんだ。」


「へぇ~そうなんだ。ちゃんと将来の目標があるんだね。流れに任せて何となく生きてる私とは違うんだね。」


「野々宮さんはなりたい職業とかは無いの?」


「私には無かったな~。あの頃は。」(本当に偉いな瑞希ちゃんは。)


「あの頃は?」(はっ。つい、昔の頃みたいな感じに言ってしまった。)


「えっと…。お姉ちゃん、お姉ちゃんが言ってたの。」

(ヤバいなんとか誤魔化さないと。)


「野々宮さん。お姉さんがいるの?」姉話題に話を反らそう。


「私そっくりの社会人のお姉ちゃんがいるの。」


「へぇ~。会いたいな~。」瑞希ちゃん、それは困るな~。


「あっ、アメリカに行っちゃったの。私と交代で。」


「交代?会社員やっていたんじゃないの?」ぐいぐい来るなぁ…。


「実は会社で不倫してクビになっちゃったらしくて、アメリカにある私の家に来て、日本から逃げちゃったの。」(不倫したのは本当だから…。)


「へぇ~、ダメなお姉さんがいるから妹がしっかり者なんだね。」

(うっ~。私、瑞希ちゃんにダメ人間扱いだよ。確かにダメだけど。)


「うん。本当にダメなお姉ちゃんだよね。アハハ。」(うっ!自虐だよ。)


楽しそうに話していた瑞希ちゃんだったけど、少し考え込んで、


「私も同じようなモノかも…。」あれ?瑞希ちゃん?


「どうしたの?」(何か悩み事かな?)


「私は両親みたいな才能が無いから、芸術家なんて無理なんだ。」

(できる親を持つと子供は大変なんだね。)


「でも、瑞希ちゃんは目標が出来たんだよね?じゃあ全然ダメじゃないよ。違う事で頑張ろうとしてるじゃない。凄いよ。えらい、えらい。」

 瑞希ちゃんの頭を右手で撫でた。


「その癒し方、ハンパないです。野々宮さん。」


「元気になったかな?瑞希ちゃん。」


「うん。そんな考え方があるんだね。ありがとう。」

 その後も二人で楽しく話し込んでいたのだが、



「朝日さ~ん!」(来たな。慶介くん!)

 慶介くんが走って追い掛けてきた。


「なんで僕を置いて帰るの?僕は朝日さんの恋人だよね。」

(発言だけ聞くとヤバい人だから、慶介くん。)


「慶介くんはヤバいくらいキモいね。」

 瑞希ちゃんが冷ややかな目をしている。


「どういうつもりなの!瑞希さん。僕から朝日さんを奪うなんて!」

(だから!慶介くん!ヤバいってその発言は。)


慶介くんに白い目を向けながら、瑞希ちゃんが、

「野々宮さん。警察行かない?」(ダメ!それだけは!)


「ごめんね。慶介くん。私が、悪かったから落ち着いて。」

(警察を呼ばれたら終わるよ、私も慶介くんも。)


「分かってくれればいいんだよ。デートしよ?朝日さん。」


「するから、ちょっと待っててね。慶介くん。」


「野々宮さん…。何か、弱味でも握られてるの?」瑞希ちゃんの疑いの目が、


「大丈夫だよ。これ以上騒がれると嫌だから、また今度ね。瑞希ちゃん。」


「分かった。その変態に何かされたらいつでも言ってね。…バイバイ。」

 そう言うと瑞希ちゃんは帰っていった。


「朝日さん。かわいい。好き。」慶介くんはいつも通り、引っ付いてきた。

(慶介くん…。慶介くんのせいで、私は仕事にならないよ。)


う~ん、相棒に邪魔されてるよ、私。

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