第06話 因果

 当時、中学三年生の長女は壮絶な人生を送る事になる。事件発生後、児童自立支援施設へ。施設時代は、上級生による壮絶なイジメを受けながら兄弟の面倒を見ていた。高校時代には、落書きや嫌がらせの末、家は放火され住む場所をなくす。程なくして高校を中退して就職。21歳に結婚して出産。25歳の時に母の最高裁死刑判決が確定する。それを機に強大と縁を切り、名前も変更する。29歳で離婚。親権は父親側に。32歳で再婚し、その二年後に親権を取り戻す。37歳に関西国際空港連絡橋下で遺体として発見される。


 2021年6月9日、森益美の長女37歳が関西国際空港連絡橋下で、長女の4歳の娘ともに遺体として発見される。和歌山の自宅では、暴力を受けた痕跡のある16歳の女性が亡くなっていた。彼女は森益美の長女であり、前の男性との子供だった。翌年2月16日に長女が再婚した40歳の男性が逮捕される。亡くなった女性は、長女と長女の再婚した男に暴行を加えられ放置されたものだった。

 益美の長女と再婚相手の男は、連れ子の16歳の娘に暴行を加えていた。ぐったりした娘を放置し外出。戻ってくると娘は死んでおり119番に連絡。救急隊が到着した時には益美の長女と4歳の娘はいなくなっていた。搬送に同行したのは再婚相手の男性だった。病院で連れ子の死亡が確認された頃、森益美の長女37歳が関西国際空港連絡橋から4歳の娘ともに自ら身を投げ、遺体として発見される。再婚相手の男性も入水自殺を図るも救出され一命を取り止め、回復を待って、保護者責任遺棄致死容疑で逮捕される。


 森益美が犯した事件かはさておき、犯したとされたことから加害者本人の人生だけでは償いきれないものを子や孫の代まで背負わせてしまう。益美の長女は中学で球技のクラブに入るも暫くして学校にも行かなくなる。その後、働くも職場や周りの好奇な目と冷たさを被害妄想も踏まえて、常に感じざるを得ない。その苦痛は、娘への虐待や引き寄せる人間関係も荒んでいく。本人には記憶さへ乏しい出来事でも世間の目は容赦なく非業の仕打ちとして責め立ててくる。拭えない苦痛から苛立ち、逃げ場を常に探す。その過程で弱い者を痛めつける事で辛うじて精神を保つ。心底の飽くまでなければ自分の悪行に苦悩を感じ、生きる活力を削がれていく。因果応報。行き場を失った被害者の無念がターゲットを見つけ付き纏うような恐怖の迷路に誘い込む。

 益美が逮捕された時と同じ年に長女が自殺。長女と一緒に亡くなった次女が逮捕された時の三女と同じ年齢。再審請求された日と同じ日に自殺。刑務所という時間が止まったような場所で唯々日々を送る益美は娘たちに起きている悲劇をどう感じているのか。長男が面会に行ったとき、15分のやり取りがあった。長男は、長女が亡くなったという情報を伝えると「そんな暗い話はいらん」と一蹴される。拘束されている益美にはそれを知った処で何もできない。それが嫌と言う程身に沁みつけている益美は、自分でどうにもできないことは考えないようになっていた。自分の娘が自分の子を虐待し、それを憂いて自殺したとは長男は言えなかった。

 益美自身、自分が冤罪で拘束されていると思っている。益美の関心は、一刻も早く拘束を解かれ、世間を見返したい一心で再審請求に望みを繋いでいる。

 マスゴミは騒ぐだけ騒いで自分たちの都合の悪い事実には見向きもしない。そして新たな事件や出来事の津波に飲み込まれるように忘れ去る無責任さが常だ。申請して三か月から数年、結果は出ない。それを何度も繰り返す。気が遠くなるような闇に益美は覆い被さられている。



 

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