第04話 無責任報道の罪
マスゴミの過剰な取材、近隣住民とのトラブル、噂、特異な人物像が事件の真相を闇に引き摺り込んでいく。森益美が犯人でなければ誰が犯人なのか。人々の関心は無責任にも犯人探しを愉しむ。子供がいたずらでやったとする推察が浮上する。当時、自治会内でヒ素を扱っていた家は、6件あった。森家のヒ素保管場所には施錠されておらず、比較的手に入れ易い状況にあった。カレー鍋を洗ったのは、子供の悪戯を知った親ではないかとの憶測もあった。カレーにヒ素を入れる行為は、誰にでも容易に行える。問題は、ヒ素の入っていた鍋がいつ、誰の手によって洗われたのか、表面だけにヒ素が付着していたのか混ぜられていたのか、今となっては迷宮入りだ。
初動捜査で現場保存や状況を詳細に行っていれば、別の事実もあったに違いない。
森益美が取り調べで黙秘したのは、夫・進次郎を先に出すためだった。裁判で自分が10年位掛かると聞かされ、色々話すと長くなるので、子供たちの面倒を進次郎に見て貰うためにとった行動だった。
益美は女検事から、あんたが認めなければ次女を逮捕してやると言われ、動揺を隠せないでいた。保険金詐欺に関わった者たちとは、替え玉を用いて搾取しており、殺害が目的でなく、被害者とされる者たちとの共謀である事も明らかにされていた。これによって、保険金殺人の容疑は消え去った。検察は、益美を追い込めないでいた。
朝毎新聞が益美が事件数日前に新たな保険を掛けていたという報道を流すが、後日、誤報だと明らかになる。しかし、世間の目は、やっぱりと誤報を鵜呑みにしてしまう。新聞社はその責任を取れないし、取らない。獄中の益美は、無抵抗なまま追い込まれていく。噂話と印象操作で、裏付けはどんどん疎かになっていく。新聞社は、噂話に火をつけると他の新聞社が憶測で我先に裏付けを曖昧にし、憶測記事や有識者の意見を事件に関連付けて、あたかも本事件のように報道していった。世間からの益美への印象は毒婦として定着していく。
益美に愛人説が浮上し、それによって夫・進次郎の殺害を企てているとの報道が。愛人とされた男性は、借金苦で益美夫婦に助けられた人物。アパーとを借りてやっていた。報道は、そこへ益美が訪れ、ベランダで上半身裸になっている姿を目撃されていると報道。しかし、そのアパートにはベランダがなかった。これが報道の実態だ。
この話は、取材記者が飲み屋で交わした内容をあたかものように報じた結果、週刊誌4誌が誤報を流す嵌めに。そのアパートは、益美宅から徒歩・3分の所に有ったにも関わらず誰も見に行きもしなかったことが露呈した。益美がカレーの蓋を開けるのを見たとう女子高生の証言も可笑しい。事実は、ガレージに二つのカレー鍋が置かれていてその内、ヒ素が入っていたとされる鍋は一個。その鍋は、女子高生からは死角になる場所にあった。裁判ではカレー鍋の蓋を開けたのが不自然だと決めつけられている。週刊ボンドに至っては、少女は混入現場を見ていた、と報じている。そのニュースを他のメディアが引用し、世間には益美があたかも混入したと印象付けるものとなった。購買数、視聴率が伸びれば、アフターフォローはいらない。それが報道だ。
このメディア、マスゴミも益美が冤罪だと騒がれれば、自分たちの汚点を忘れ去り、一斉に警察・検察や裁判そのものの在り方・手法を非難するに違いない。
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