第02話 目撃よりシナリオを重視

 事件当日を振り返る。

 1998年7月25日。午前8時30分。自治会主催の夏祭りで住民に提供するカレーを民家のガレージで作り始める。自治会は六つの班に分かれており、森益美は第一班の班長だった。午前中は病院で検査があったため昼からカレー鍋の見張りに行くと同じ班の女性に伝えていた。12時頃カレーが完成。アルミホイールと段ボールで蓋をした。

夏祭りが始まる午後6時まで各班の者が一時間交代で見張りをすることに。森益美がガレージに姿を現したのは12時05分頃だった。アルバイト店員が益美を見たのはこの時のものだった。森益美がガレージに現れた頃、当時四歳だった三女がガレージに現れたと他の主婦は証言していた。重ねた紙コップの証言は主婦からは得られなかった。森益美がガレージに現れる直前、主婦たちは丁度、森益美の悪口・噂話をしていた。その会話の声は、ガレージへの道中の森益美にも十分に聞こえる大きさだったので益美が現れ、主婦たちは胸がドキッとし、笑っていた主婦も黙ってしまい、ガレージ内が一転して沈黙に覆われた。これが後に森益美が主婦らに激高し、疎外感から激高し犯行に及んだと、検察や裁判官が犯行動機としたものだった。

 森益美は声を聴いていたかは定かではない。罰が悪かったのか氷担当の確認をしたのかを聞き、まだであることを知ると自らが確認に出向いた。ガレージに滞在していたのは5分、精々10分ほどだった。アルバイト店員は、益美がガレージ内で主婦たちと会話を交わしている間に帰っており、出て行く姿を見ていなかった。

 この事実は、主婦に疎外され、氷の件で近隣を回されるなどしたことに対する腹立ち紛れから犯行に及んだとみるのが最も自然であるが、被告が真実を語ろうとしない状況において、そう断定することまでは困難である、としている。

 検察や裁判官の思惑に反し、主婦たちは、益美の激高の事実を否定しているのがマスゴミによって明らかにされる。

 益美が近所を回って戻って来たのが12時20分頃。その間、鍋の見張りをしていたのは、笠井良子だった。益美が戻ってくると夫の昼食を作るため、益美の同意を得て家に戻る。間もなくして益美の当時中二の次女が訪れ会話を交わし、直ぐにガレージを離れた。それからは、ガレージには益美ひとりになる。

 12時30~13時前、ガレージの向かいの家に住む女子高生が、二階から鍋の奥の方から道路脇までを行ったり来たりし、幾度も道路の方を見ていた益美の姿を目撃している。それからカレー鍋に被せてあった段ボールを外し、暫くすると鍋から湯気が上がり、益美はその湯気を浴びて仰け反った、と証言している。

 裁判所・検察はこの時、益美は毒物をカレー鍋に入れたとしている。さらに12時20分頃から13時頃までに少なくとも1度ガレージを留守にしてタオルを持ってきた。その時、ヒ素を持って来たとしている。

 アルバイト店員の証言では益美はガレージ来る際、既にタオルを持っていた。12時30~13時前に目撃した女子高生も首にかけたタオルで何度も顔や首を拭いていたという証言と裁判所の取りに帰ったとう認識は符合していない。実際に取りに戻り、どうやって持ち込んだのか、どうやっていれたのか。万が一入れたとして、当然、入れたことを気づかれまいとして混ぜる行為を行うだろう。その目撃を女子高生はしていない。裁判所の判断は、森益美がガレージを訪れた際、Tシャツで顔の汗を拭いていたと主婦らが証言したものを採用し、この時点でタオルはなく、アルバイト店員の証言を無効にした。その後、女子高生の益美はタオルを掛けていたと証言。これによって検察・裁判所の言うタオルを取りに帰った際、ヒ素を持ち込んだという。状況証拠、道筋が崩れる。アルバイト店員と女子高生の目撃を見間違いと判断し、裁判所・検察はそれを無視し、憶測を採用した事実が生じる。さらに益美の次女も同じことを証言しているが身内の証言として黙殺されている。

 益美が最初からタオルを首に巻いていたとするならば、益美が見張りを始めてから一度、ガレージを離れたという状況証拠は成り立たなくなる。アルバイト店員は、目撃後、店長に話していた。しかし、その店長は事件後、心労と酒で入退院を繰り返し、61歳で他界していおり、証言が取れないでいた。

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