第24話 第三章 排他領域

 ガーズ・トリマン中佐は、見せられた映像が信じられなかった。実績が飛び抜けている「十三」には全軍が畏敬の念を払い、憧れ、また恐れた。その「十三」が魔女と共闘して、野盗を皆殺しにした……。

 ガーズがミルン城最上部の会議室に入るのは、これが初めてだ。軍人にとって、この会議室に入るのは最高の名誉であり、出世を約束されたも同然だ。しかし。

 そんな感情など、吹き飛んだ。映像を二度見返したが、細工した痕跡は無い。

「中佐、信じ難いのは分かる。だが、事実は受け止めねばならない」

 巨大プロジェクターの前に、椅子が一脚。座っているのはガーズだけ。後ろには、今ほど発言したイギン宰相とエレン将軍、さらにはクルーニー王までが立っている。

「……許し難い蛮行です」

 そう言う一方で、ガーズは引っ掛かった。

「(なぜだ、セゾン? お前はフザけた奴だったが、一本筋の通った男だった。俺が唯一認めた軍人がなぜ、魔女側に寝返った?)」

 自問したが、答えは出ない。かくなる上は、本人に直接聞くしかない。力づくでも……。

「裏切り者の討伐部隊は、貴官に率いてもらいたい」

 話しているのはイギンだが、クルーニーからの圧も凄まじい。だが何より、口を開かず、妖艶な笑みを浮かべた女将軍の不気味さに、ガーズは寒気すら覚える。

「ご命令とあらば。自分が討伐にむかいたく」

「任せたぞ、中佐」

「宰相、相手は五十名弱です。ですが、五名は十三です。最低でも」

「一個大隊、つまり千の兵が貴官の指揮下に入る」

ガーズは言葉を失った。五十に満たない敵を、千の兵で攻めると?

「ヘリは六機準備できた。すぐにでも、討伐の準備を始めたまえ」

急かすイギン。けれど、ガーズには確認しておきたい点が一つ。

「なぜ、討伐隊長に私を選ばれたのでしょう?」

「裏切り者の隊長と君は士官学校で同期であり、寮も相部屋だった。奴の思考を読めるだろう?」

……やはり、理由はそれか。

「承知しました」

 今度こそ、ガーズは会議室から出て行った。


「これで満足か?」

 クルーニーがエレンの顔色を窺う。

「満足? ふん、結果を見てからだ。失敗すれば、あの人間も八つ裂きにしてやる。そして次は、万の兵で攻めればよい」

 薄暗い会議室で、耳まで裂けそうに笑う女将軍。その真紅の唇だけが、色を放っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る