第20話

 グランを含め、十三は全員、戦闘服姿だった。マギヌン側は私服だった。

「お前、一日以上寝てたからよ。その間に、マギヌン側と色々相談してな。結論を言うと、残って、ドンパチをもう一回だ」

 くわえ煙草のセゾンが頭の後ろで手を組み、宙に紫煙を吐く。

「ドンパチ? 俺達は弾切れだろう。それより、誰とやり合うんだ?」

「銃弾を含め、銃火器はこちらで準備する。魔女がいなくなったので、警戒していた野盗どもが復讐に来る。イーグル達を襲っていた連中だ。助力してほしい」

 グランは、ジッとレジオの目を見詰める。見据える。

「なあ、大先輩。せめて後輩には、真実を全て話してくれ」

 他のマギヌンの民は驚いたが、レジオだけは静かな目で見返してくる。ケイトは俯いている。

 十三側は黙って、マギヌン側を見ている。仲間達も気付いているのだ、野盗にしては戦闘に特化した集団だと。何より、マギヌンの異常さに。

「そうだな。協力を申し出ておいて、隠し事はできんな。全て話そう」

「レジオ!」

「ソーニャ、ワシも十三にいたから分かる。相手はこの国の最精鋭部隊だ。隠し事は通用せん」

 リーダーに制され、長身の女副リーダーは黙るしかない。

「野盗と表現した連中は、デュリックスだ」

「なっ……!」「参ったな、歴史上の化け物が出てきたぞ」「都市伝説だと思っていたがな」

 十三側の衝撃は大きく、アンリとセリーンは声すら出ない。

 デュリックスは第一次世界大戦中、後に統一王となる男のため、本人にすら極秘で創設・運用された暗殺者アサシン集団だ。その暗躍ぶりは、当時の世界を恐怖のどん底に叩き落した。しかし世界統一後、真相を知った統一王の怒りを買い、全員が死罪となった。だが、世界最強の秘密結社が座して死罪を受け入れるはずもなく、世界中に逃げた。散った。今はその子ども達「第二世代」が暗躍しているという。半世紀も昔の話なので、存在自体が霞がかっている。

「ミルンが魔法禁止になった際、多数のデュリックスがミルン入りしたらしい。奴等はミルンに溶け込んだ。政権中枢部まで浸透しているそうだ。排他領域にも、多数存在している」

 国が捨てた排他領域は、非合法な連中にとって格好の隠れ場。

「なぜ、あんたはそれを知っている?」

「それは後で話そう」

 尋ねるグラン。マグカップでコーヒーを啜るレジオ。

「近辺のデュリックスは、残り約三十名。数ではマギヌンが勝るが、数で勝てる相手ではない」

「相手の土俵で勝負すればな」

 グランの返答に、レジオが目を細める。

「どういう意味だ?」

「伝説の暗殺者集団とはいえ、通常戦闘やアジトを奇襲すれば、勝てない相手じゃない」

「奴等のアジトなど、どうやって探す?」

「現場に行けば、遺体から何か分かる。奴等が遺体を回収していたとしても、痕跡を追う」

「なるほど。その案はいいな」

 取り合えず、目先の戦闘の目途は立った。しかし。まだグランには、追究すべき点がある。

「レジオ。あんたは……あんた等は何者だ? 排他領域で、これだけの銃火器を準備できる。環境もおかしい。ケイトの精霊魔法を五年使っても、この水準にはならないはずだ」

「ケイトについてはともかく。ワシ等の正体には、気付いているんだろう?」

「……テロリストか」

「そう呼ばれても仕方ない。ミルン国滅亡を目指しているのは確かだ」

 予想通りだが、いざ聞かされたグランは多少、動揺した。ミルン国滅亡……。

「たった四十名でクーデターか? ケイトがいるとはいえ、不可能だ」

「だから、正直に話した。今すぐ、ミルン滅亡を行える状態ではないからな。それと、ワシ等の任務にケイトを巻き込む気はない」

 グランはケイトを見る。一瞬だけ目が合ったが、ケイトはすぐ俯く。

「ワシ等がミルン滅亡を狙っていると堂々と言っても、国軍から見れば吹けば飛ぶような人数と兵站だ。誰も、本気にせん。空域及び海上戦力はゼロだしな」

 その通りだ。四十名の民兵なら、首都ロペスに侵入する前に、皆殺しにされる。

「なぜあんたは、この国を潰す気なんだ?」

「プラムの最後の言葉を、ケイトから聞いた。やはりここで、ハーフエルフの大虐殺が行われていた。無念に死んでいった者達の血が染み込んだ土壌で暮らす民は、命への尊厳が薄い。そんな国民性だからこそ、お前達の知らない悲劇があちこちで起こっている」

「悲劇? 政権幹部を援護する気はサラサラ無いが、クーデターを起こす程、暴政でもない」

「グラン。お前はまだ若い。これから嫌でも、この国の暗部を――真相を知ることになる」

 グランは黙るしかなかった。レジオは嘘を言っていない。自分が知らない企みが、密かに進められている……。

「グランよ、マギヌンについても教えよう。お前は四大賢者の名と居場所を言えるか?」

 嫌な予感を覚えつつ。グランは記憶を辿る。

「ドラガン国王のロック、マテウス国王のエリザ、クラウディオは戦死したし……」

「あと一人はどうした? 『慧眼の高鷲』の二つ名を持つ、ヘラー・ドットは?」

「彼は大戦後……姿を消した」

「そう、姿を消した。そして今、この近くにいる」

 四大賢者が近くに! 幾多の修羅場をくぐった十三の隊員達も、言葉がない。

「兵站については、闇の武器商人から買った代物もあるが……大多数は、彼から譲り受けた」

「ヘラーがマギヌンに協力していたのか……どうりで、生活が豊かにはずだ」

 グランは溜め息しか出ない。そんなグランを、ケイトな複雑な気持ちで見ていた。

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