第16話

 途中で車両を降りた一向は、徒歩で移動する。

 すでに、ホットゾーンに入っている。車両の走行音や土煙は、魔女達にすぐ見つかる。

 プラムを筆頭とする魔女達の住処は、この先にある洞窟だ。ケイトの感知魔法によると、数は四十匹。魔女達も感知魔法で警戒しているが、ケイトが姿隠し(ステルス)を張っている。

「ハーフエルフ一人の姿隠し一つとかぁ、ぜーったい魔女の感知に敵わないっしょ」

「分からねえぞ。精霊魔法はスゲーからな」

 セリーンと話すセゾンは、さすがに喫煙していない。昼間でも陽が差し込まない谷に、夜の帳が下りている。マッチ一本の灯りで発見され、命取りになる。

「慎重に進むべきなのに、ウィスキーを飲む神経に呆れるよ」

「ウィスキーの仕込み水は聖水だ。戦前に身を清めないお前に呆れる」

 擲弾発射機を構えたカフカとスキットルを口に運ぶバウアー。

「レジオに赤外線スコープ無しで戦う訓練を受けたけど、十三は皆そうなの?」

「魔女との戦いは、夜が多いの。昼間にしたって、魔女に視界を潰される可能性がある。だから十三わたしたちは全員、夜目が利くように訓練されてる。実際、真っ暗闇で戦ったこともあるし」

 機関銃を構えたソーニャとアンリ。

マギヌンからの“正面突破組”組は、レジオにソーニャ、リゼロ兄弟にカフカ。

これに十三の隊員を含めた十名全員が赤外線スコープを装備せず、排他領域の闇を進む。

「そのピアス……魔力を感じる。ただのピアスじゃない……のかな?」

「魔法は禁じられたが、魔道具は禁じられてない。屁理屈だがな」

 ケイトに尋ねられたグランは苦笑するしかない。

「このピアスは、十三の真髄だ。披露する機会が無いといいが」

 そんなグランの希望は、すぐに粉砕されることになる。


 魔女の洞窟が見えてきた。十三とマギヌンの混成部隊は、崖を背に入口の左右に分かれて、中を窺う。

「デッケー入口だな、おい」

「特等の魔女に相応ふさわしかろう」

 高さが十メートルを超える洞窟の入り口。闇に覆われて、奥は全く見えない。感心と呆れ半分のセゾンに、レジオは微苦笑する。

 この渓谷には大小の洞窟が無数に存在し、内部で複雑に入り組んでいる。その洞窟群が、今回の作戦のかなめだ。

「さて、俺達が作った魔女への贈り物は、もう届くかな」

「すぐに届く……開戦は近いよ」

 グランに答えるケイトは目を閉じ、土壁の向こうにある洞窟群に集中する。

『グランだ。ケイトによると、贈り物はすぐ届くらしい。総員、戦闘準備』

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