第11話

 二台の装甲車が、荒野を走る。舗装された道など無い。それでも、十三は進む。

 先頭車両を運転するのは、セゾン。助手席にバウアー、後部座席にグラン。

「何で俺がいつも運転なんだよ」

「俺は斥候で迅速に動く必要がある。グランは狙撃手として前方の警戒。加えて、衛生兵は部隊のかなめだ。何度説明したら理解するんだ」」

 スキットルでウィスキーを飲みながら、相変わらず生意気なバウアー。

 くわえ煙草で運転していたセゾンが、面白くなさそうに瓶ビールを呷る。

「オヤッサン、飲酒運転だぞ」

「取り締まる憲兵がいるように見えるか?」

 注意したグランに、セゾンが瓶を掲げる。

 最南部に位置する村で補給を終えてから、もう四時間が経っている。

 すでに陽は高く、もう昼食の時間だ。

 そしてこの地はもう、排他領域だ。

 ミルンは、魔物がほとんど出ない。王と将軍が各国の持ち回りなので、他国に攻め込まれるリスクも低い。野盗に強盗、何より貧困層が凶悪事件を起こすが、治安の良さは世界一だ。

「オヤッサン、かつてこの国で、ハーフエルフの大虐殺があった話は実話なのか?」

「どうだろうな。語り継がれてるが、何か証拠があるわけじゃない」

 グランに問われたセゾンは、新しい煙草に火を点ける。

 エルフは中央大陸中央部の国、ブルームを統治している。女王のリヴ・ブランシェットはエルフの最高位であるハイエルフにして、大戦で魔王と戦った「最後の六将」の一人だ。

 逆に最下層にして同族のエルフからも嫌悪されるのが、ハーフエルフ。エルフと他種族の間に生まれた者。

「有り得る話だ。ブルームもミルンも、単一民族の純血主義だ。ただしエルフは、個々が自立している。ミルンの民は未だに赤子の如く、理由も問わないまま、権力者の命令に従う」

 自説を披露したグランを、セゾンがルームミラーで見る。

「では今の権力者達が再び軍事独裁化に走ったら、今の民は従うと思うか?」

「従う」

即答。

「政治は全て権力者任せで、自分達が不利益を被ったときだけ、陰で愚痴を言う。その国民性は、二発の隕石召喚メテオですら破壊できなかった。国が一度滅びないと、国民性は変わらない」

「ではグラン。お前はなぜ入隊して、そんな救いようの無い民を守っている?」

 次にルームミラー超しに見てきたのは、バウアーだった。

「国民性がどうあれ、罪なき人々が理不尽に殺傷されるのは間違っているからだ」

 車内に静寂が落ちる。

「何かお前等、難しい話してるな。俺達は十三だ。魔女を狩ったら家に帰って、煙草と酒をノンビリ楽しめばいいんだ。あ、腹減った。昼飯にしよう」

 セゾンがブレーキを踏みかけて。

「オヤッサン、停めてくれ!」

 只ならぬグランの声に、セゾンは慌てて急ブレーキを踏む。

 グランは前方座席に身を乗り出し、後部車両に無線を繋げる。これで、同じ説明を二度せずに済む。

「十一時の方向、八百メートル。複数人……約四十名いる。まだ、こちらには気付いていない」

「俺が偵察に行く。お前等は大人しく待ってろ」

 バウアーは機関銃の弾倉を確認すると、すぐに助手席から外に出る。

 十三の誰もがグランの腹には不信感しかないが、その目は信じている。

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