第12話

 ミルン城の最上階には、王の間と会議室しかない。

 広く天井が高い会議室は何十本もの太くて丸い石柱に支えられ、さながら神殿のような雰囲気を漂わせている。

 そんな広い会議室に、人影は三つ。彼等を護衛する第一部隊も外で控えている。

「何としても、特等のプラムは生け捕りだ。空軍を早く復旧させろ。十三など、たかが五人だ」

「陛下、現状における我が国の最大戦力は十三です。連中に任せる以外に選択肢はありません」

 「最大戦力」の単語が出たとき、クルーニーとイギンはチラとエレンに視線を走らせる。

 そんな男達の視線など微塵も気にかけることなく、女将軍はただ妖艶な笑みを浮かべている。

 クルーニーは王衣を、イギンは宮廷服で身を包んでいるが、女将軍は漆黒のドレス姿。

「仮に十三がしくじっても、プラムの居場所は特定するはずです。そこに空軍を投入します」

 イギンの策を聞いたクルーニーは腕を組み、深く息を吐く。

「最前線で魔女狩りを行っている連中は、事の真相に気付いていないだろうな?」

「十三といえど、ミルンの民。自立して考えることもなく、権力に盾突くこともありません」

 自身もミルンの民であることを棚に上げ、イギンが堂々と答える。官僚独特の選民思想。

「フフフ」

女将軍のエレンが口に手を当てて笑う。

「十三とは、かくも愉快な連中か」

 イギンのみならず、クルーニーまで黙ってエレンの言葉を待つ。まるで傅(かしず)くように。

「連中の中に勇者がいる」

「何だと!?」

「……まさか」

 驚く男二人をよそに、エレンは心底楽しそうだ。

 勇者。十年に一人しか生まれないとされ、それに見合った人外の能力を持つ者。

 唯一の光魔法の術者でもある。大戦で魔王と戦った「最後の六将」は全員が勇者だった。

中央大陸東部のマテウス、西部のドラガンの王でさえ、四大賢者“どまり”だった。

勇者には、二種類のパターンがある。生まれながらの先天性勇者。そして何かがキッカケとなって覚醒する後天性勇者だ。

「最後の六将」以降、勇者の発見は確認されていない。最後の六将にして勇者が統治する国は、四つある。その一つは、東大陸のアナス。世界最大の迷宮を抱え、魔物が溢れ出している。だが王たる勇者が指揮を、時には戦闘に加わり、ブラムスの手に落ちるのを防いでいる。

そして、北大陸のグラース。雪と氷で覆われた国。長く厚い氷壁が国を北と南に分け、北側には最後の六将と四大賢者が最高機密を隠したと言われている。その機密を、勇者たる女王は未だに守り続けている。

中央大陸中央部のブルーム――エルフの国を統治するハイエルフの女王、リヴ・ブランシェットも、その一人。また、中央大陸南部のグリム――ドワーフの国王も該当する。

勇者は全ての種族の希望であり、悪にとっては最大の脅威。

「(貴様にとって、勇者は最悪の存在ではないのか?)」

浮かんだ疑問をしかし、クルーニーは口に出さない。出せない。マテウス歴戦の戦士でさえ。

「さらに愉快なのは、奴等六人の中に潜入がいることだ」

 雪のような白い肌と真紅の唇。美しき女将軍は、妖艶に笑う。

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