第10話

 ミルン城に謁見の間はいくつかあるが、隊員達が通されたのは最も高級な造りだった。

 隊員達は今、黒の制服と制帽を身に着けている。

上座に向かって横一列に並び、姿勢を正している。一向の正面には、ミルンの国旗が掲揚されている。その色合いは、隊員達のピアスと同色だった。

「国王直々とはなぁ。二日酔いが一気に飛んだぜ」

「えぇ、バウアーさー、酒くっさ! 王様に怒られちゃうかもねー」

「ウィスキーの芳香さも分からん奴なら、命令を受ける気はない」

「おい、そこまでだ。お偉方がお見えになるようだ」

 グランがそれに気付けたのは、高官警護隊である第一部隊の紋章をつけた兵士達が入室してきたからだ。続いて、ミルン国最高幹部達が姿を現す。

 三巨頭。

 十三の前に現れた三人は、そう呼ばれている。就いた権力の座がそう呼ばれているわけではない。この三人が実質、魔法を禁じられたミルンを統治しているからだ。

「休め」

 女将軍の命令で、十三の隊員達は直立不動から肩幅に脚を開き、手を後ろで組む。

 ミルンは国王だけでなく、軍の最高指揮官である将軍の椅子もまた、各国の持ち回り制だ。

 現在の将軍は、エレン・リットン。北大陸を治めるグラース国から派遣された。

 年齢は四十を超えているはずだが、二十代前半にしか見えない。銀髪にレッドアイ。妖艶な美しさは毒を感じさせる。

「諸君。王より勅命がある。心して耳を傾け、命と引き換えてでも勅命を果たしたまえ」

 三十歳という異例の若さで宰相に抜擢されたイギン・ジェレネーフ。今年で三十五歳になる天才は、三巨頭で唯一、ミルン国の生え抜きだ。ミルン国民の特徴である黒髪に黒目。長身瘦躯で、銀縁眼鏡が知的な顔付きによく似合う。

「貴様等の国家への貢献は、賞賛に値する」

 低く威厳のある声。ミルン国王、ゼニーニャ・クルーニー。

 彼は祖国マテウスで武勲を上げ、国家中枢へ駆け上がった。そして勇敢にして強き兵士は戦場を政治へと移し、実力を存分に奮った。

 王の任期は三年から長くて五年だが、クルーニーは十年、王座の主であり続ける。

 母国マテウスが女王派と将軍派に分かれて政争争いの真っ只中であり、何より世界一の超大国・ドラガンと開戦したこともクルーニーの長期政権に繋がっている。

 二大国家による戦争は、世界から余裕を奪った。つまり極東の島国の政(まつりごと)など、世界にとってはどうでもよくなった。

「貴様等に命じる。ロペス及びミルン城に侵入した魔女を拘束せよ。貴様等が次に我が前に顔を出すときは、千年の悠久を生きた魔女を引き連れたときのみだ」

 「ハッ!」と十三の隊員達が最敬礼する。

「(何かに急かされているように見える。戦闘機どころかヘリも使えない現状、魔女狩りには相応の時間がかかるのに。それを承知で命ずる、か。しかも毎度お馴染みの生け捕りときた)」

 内心は疑問に満ちているが、グランは決して顔には出さない。

 そんなグランの内心を見透かしたかのように、官僚の頂点は口を開く。

「諸君は直ちに陸路にて追跡、特等の魔女を拘束せよ。魔女達は南に逃亡したとの証言が多数ある。本任務は、特等魔女の身柄拘束。諸君にとって悲願であり、国家としても最重要事項である。よって任務達成時には、諸君は一律に昇任する。具体的には、副長以下は佐官へ、隊長は将へ、だ。この人事は国王陛下の厚情であることを肝に命じ、任務を遂行せよ。以上」

 イギンが十三に告げる。その間、女将軍のリットンは微笑を浮かべたまま。

 それで話は終わりとばかりに、三巨頭は振り返ることもなく退室した。

 魔物や魔女は戦闘力で格付けされる。上から、特等、一等、二等、三等に分かれる。

 ――やっとだ。二年戦って、やっと本来の任務を遂行できる機会が回ってきた。

 十三の中に、そう考えた隊員がいた。

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