第8話
グランがプラムを狙撃できるよう、また魔女達の逃亡を許さぬように、他の隊員達も戦っていた。土壁の位置はすでに把握しており、連携に問題は無い。問題は、残弾だ。
すでにセゾン達三人はグランと同じく、自動拳銃で戦っている。視界の隅に武器庫があるが、銃火器を取りに行く余裕など、魔女があたえてくれるわけがない。
墜落しかけたプラムを、残った魔女三人が支える。
「全く。あの女を殺すどころか、城にすら入れやしない」
プラムは気丈に振る舞るまうが、脇腹を押さえた手から血が滲み出ている。
魔女達が体勢を整えようとしたとき。
「またまたおっ待ったせぇ!」
場違いに明るい声。明るい笑顔。
セリーンが立っていた。両手でヘリ専用の重機関銃を構えながら。
「これが重いの何の! ま、でもその分、威力は……あるわよっ、魔女の皆さん!」
セリーンが魔女達に抱えられたプラムを狙い、引き金を引く。回転式の重機関銃がジジジジッと地味な音を立てながら回る。
「魔女はヘリも破壊したが、備え付けの重機関銃は使えるはずだ。探して持ってこい」とセリーンに指示したのは、セゾンだ。交信は苦手だが、戦術の布石を打つのは得意らしい。
「危ない!」「フリス無茶だ!」
フリスと呼ばれた魔女が、プラムの前に躍り出る。その全身に、毎秒百発の弾がめり込む。
「やっばーい! 魔女は生け捕りにしないと、なのにぃ!」
フリスは血まみれになりながら、墜落していく。
その光景に、魔女達の意識が向く。隙ができる。それを見逃すようなら、十三の隊員にはなれない。その隙に精密射撃を行えないなら、グランは狙撃手として、その名を轟かせることはない。
「ウグッ」
プラムは右大腿部に被弾した。墜落する仲間に気を取られ、グランは意識の外にあった。
そのグランは震える右手を左腕で押さえ、ライフル弾で開けた穴から弾を通した。
「撤退だ! 人間ども食らえ!」
額に青筋を立てて、プラムが吠える。その右手に炎。左手に水。
「相反する物質を化合すると、大爆発が起きる、か……魔法“爆砕”だ! 総員伏せろ!」
セゾンの指示に、『オヤッサン、もう伏せてる!』全隊員からの応答。
セゾンも慌てて他の隊員と同じく頭を抱えて、身を投げ出す。
一瞬後、鉄筋造りの武器庫がミシミシッと鳴る程の、大爆発。地に体を伏せていても、爆風の熱量は充分過ぎるほど伝わり、吹き飛ばされそうになる。
爆風が収まって十数えてから、セゾンが立ち上がる。
「副長! 被害状況ほうこ」
「……オヤサン、周りを見てみ?」
副長アンリの呆れ声に嫌な予感がしながら、周囲を見渡すと。グランを除く隊員達が立っていて、白い目でセゾンを見ている。どうやら、立ち上がるのはセゾンが最も遅かったらしい。
「うむ。全員、無事で良かった」
「オヤッサン、今さら虚勢張っても無駄だから」
アンリに突っ込まれながら、セゾンが空を見渡す。すでに魔女達は、逃亡した。
「おい。さっさとうずくまっているグランを連れて、城に入るぞ。お偉方への報告が山積みだ」
バウアーが生意気な口をきいていると、物陰から九名の兵士が恐る恐る現れた。
「……なあ、おい。俺達は魔女を追わなくていいのか?」
その中の一名が意を決して、十三に問う。
その姿は見たことあれど、その心は見たことがない――十三。第十三部隊。
陸軍でも浮いた存在であり、畏敬の念で見られることが多い。
「飛翔魔法で飛ぶ魔女を追うには、戦闘機、少なくともヘリは必要だ。その空域戦力は今、どうなってる?」
アンリに言い返され、生き残りの代表は返答に窮する。
「心配するな。奴等は地の果てまで俺達が追って、必ず討伐する」
そう言ったバウアーの肩に、セゾンが軽く手を置く。
「今、こいつが言ったとおりだ。だから今、お前達にできることをやれ」
「俺達に今……できること?」
「仲間の認識票を回収しろ。もうすぐ、応援の部隊も来る。お前達も加わって、殉職した仲間達が静かに眠れるようにしろ」
セゾンが言い終わると、十三はグランに向かった。
左耳のピアスにつけた真紅と純白の羽根を揺らせながら。
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