第7話
「セリーン、見つかったか!?」
『見つけたけど、起動に時間かかりそう。で、オヤッサン、大声出さなくていいから』
応答したのは、通信兵にして技術兵のセリーン。
「セリーン急げ! こっちは擲弾も手榴弾も使い果たした! 残弾も心許ない!」
『オヤッサン、魔女に丸聞こえだから』
魔女達に機関銃を撃ちながら、アンリは呆れた。セゾンの「何でも大声で発表症候群」は毎度のことだが、免疫などできない。
それでも、セゾンの発言は正しい。隊員達の残弾数が、厳しくなってきた。
ロペスの空を我が物顔で飛ぶ魔女達と対照的に、隊員達は最小の火力で最大の結果が得られるよう、細かくポジションを変えながら戦っている。
「調子に乗るな十三ども! お前達もまた、人間に過ぎん!」
プラムが言った瞬間、隊員達の前で地が唐突に突き上がる。高さ二メートルの壁が、隊員達の動きを阻害する。土属性の魔法、土壁。
「チッ! 視界と動きが効かねえ!」
吠えるセゾンを尻目に、
「アラミル、奴等を凍らせな」
プラムは自身の次に魔力を練り終えた仲間に命じる。
三番目に若いアラミルが、十三を氷結させようとしたとき。
バアウンッ! バアウンッ!
狙撃銃の発砲音が二回。アラミルの肩から先が、血と肉片をバラ撒きながら千切れ飛ぶ。
「グラン! 遅いぞ!」
『ゆっくり来いと言ったのはオヤッサンだろ。それと、大声出さなくていいから』
セゾンに言い返しつつ、戦場から三百メートル離れた位置で、グランは戦況を見る。
至る所に土壁が立ち、隊員の動きは制限されている。これでは、隊としての連携が取れない。
十三とはいえ、人間だ。魔女との個体差は否定できない。それを少数精鋭部隊ならではの連携で補い、圧してきた。
グランが到着しても、十三は弾切れ寸前の隊員が三人。対し、魔力を残した魔女が七匹。
「(これを使うしかないな)」
グランがピアスに触れる。十三の隊員は皆、左耳に真紅と純白の羽根がついたピアスをしている。洒落こんでいるわけではない。十三の真髄は、ピアスにある。
グランがピアスを発動しようとした、その時。
『おっ待たせ! いっくよー!』
イヤホンからセリーンの声。同時に、黒い機体が闇夜に浮かび上がる――無人戦闘機。
魔女達に空域戦闘は無力化されたとの報告は受けた。が、全てが壊滅したとは考えられないとのセゾンの読み、というより勘は当たっていた。「動く科学」と呼ばれるセリーンはその場でパソコンを操り、空軍のネット経由で機体を操っている。
無機質な戦闘機が、その鼻先を魔女達に向ける。両翼にミサイル四つをブラ下げて。
「魔女のみっなさーん、お待たせしましたぁ!」
パソコンを操作しながら、セリーンは笑い――対空ミサイルを発射する。
「全員魔力を防衛に集中しな!」
プラムの怒号がミサイルの発射音、続く着弾音でかき消される。
魔女達はミサイルに正対し、真正面に張った防衛魔法に魔力を注ぎ込む。結果、魔女達は全員無傷だった。逆に、地上にいた十三の隊員達が衝撃で後方に吹き飛ばされる。
それでも。
「セリーン! 全弾ブッ放せ!」
『オヤッサン! 言われなくても、そのつもり! で、大声出さなくていいっつーの!』
セリーンが二発目、三発目を放つ。魔女達が張る防衛魔法が震える。
セリーン以外の隊員は爆風を食らっているが、誰も愚痴などこぼさない。魔女狩りには、豊富な兵站と高度な戦術だけが求められる。十三は、そんな世界で戦い抜いてきた。
『最後の一発、派手に行きまっしょい!』
セリーンが最後の一発を放つ。着弾前から、グラン以外の隊員達は一人の魔女に機関銃の照準を定めていた。防衛魔法はヒビが入っても目視できない。けれど、今にも防衛魔法が破壊されそうで最も震えている魔女は見つけられる。その一匹を三人の隊員が狙う。
防衛魔法に着弾したミサイルが爆発し、昼より空が明るくなる。隊員達は膝立ちの姿勢で、撃つ。
防衛魔法が破壊された――最も脅えていた魔女の四肢を鉛の弾が貫く。
「ミーン!」
墜落していく仲間を、ただ見送るしかなく。そこに、一瞬の隙が生まれる。
バアウンッ! バアウンッ!
ミサイルと逆側に移動したグランに、魔女達は背中を見せている。恐怖への震えが顕著に表れるのが、後ろ姿の肩。魔女達を観察したグランは、二番目に震えている魔女を狙撃した。
その魔女の左右の腕が、先に狙撃された二匹と同じ運命を辿る。
防衛魔法を全方位に張れるのは、プラムだけ。残りは人間の攻撃位置を予測して、防衛している。ミサイル防衛に専念した魔女達は、真正面以外、ほぼ無防備な状態になる。
「あと五匹だ!」
「(私を入れて、あと五人しかいないのか!)」
互いに部隊を率いる長二人は、この戦いの結末を確信しつつある。
「(今夜は、あの女を殺せない。ならば、目障りな十三だけでも始末してやる!)」
千年生きた魔女のプラムといえど、憎悪は冷静さと観察眼を奪う。地上からの射線が四つから三つに減ったことに気付かない。四人の中で最も若い魔女は、我が目を疑った。
目の前に、髪をツンツンに立てた目つきの悪い男――人間がいる。
「お前……」
その魔女は、問いを発することができなかった。その前にバウアーが、右腕の機関銃と左手で構えた自動拳銃で両肩を撃ち抜いたから。
精鋭部隊であっても、魔法は使えない。だからバウアーは、飛翔魔法で飛んだのではない。武器倉庫の屋根に飛び乗り、飛び上がった。超人的な飛躍力。
「おのれ! ネーランの仇だ!」
「黙れ! 全員、撤退だ!」
手下の魔女に下命するプラムに、グランが照準を定める。
バアウンッ! 弾の先端部分が防衛に刺さって、止まる。それだけで、グランには充分だった。
「(あの生意気な狙撃手を生かしておくと、今後も厄介になりそうだ)」
仲間達には撤退を命じたプラムが、グランに稲妻を放とうとして。
バアウンッ! 二発目の弾が一発目の弾の底部を直撃。一発目の銃弾が、深く防衛に突き刺さる。バアウンッ! さらにグランは前進しながら、狙撃を重ねる。その度に一発目の銃弾の防衛に深く刺さっていく。
「重ね撃ち」――世界中に狙撃手は多かれど、その射撃が可能なのは、数人のみ。
バアウンッ! 最後の一発が初弾の底部を直撃したのと同時に、プラムの防衛に穴が開く。
「残念だったな。弾切れだ」
「残念だったな。幕切れだ。最後の最後でお前の防衛魔法は崩れた」
プラムとグランが同時に口を開く。プラムがグランに向かって片手を上げ、稲妻を放つ。
防衛魔法の“膜”は不可視。けれど、初弾が落ちた部分ならば、把握は可能。
向かってくる稲妻など眼中に無いかの如く、太腿のホルスターから自動拳銃を抜きざま、一発だけ撃つ。
その弾は狙撃で開いた防衛魔法の穴をくぐり、プラムの脇腹に着弾する。
「グフッ」
脇腹を押さえて、プラムが墜落しかける。
プラムが放った稲妻は微弱に終わったが、グランを捉える。
「グッッッワッ……!」
体中の穴に針金を無理矢理突き刺されて放電され、かき回されるような激痛。
グランは脂汗をかき、荒い息遣いで膝からへたり込む。
けれど、震える手で自動拳銃を構え、朦朧とする意識の中、その目は魔女を探す。
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