第6話

 ミルンの首都ロペスは、正門から伸びる大通りの至る所で爆炎が上がっていた。

 住居は焼かれ、多くの民が殺された。今なお、方々で悲鳴があがっている。

 また、数台の戦闘機とヘリが撃墜され、何十台もの戦車や装甲車が潰されていた。

 多くの兵士達が、二階級突進した。だが、主戦場は都市では無かった。

 ミルン城の南東で第二部隊二百名が、侵入してきた九名の魔女の迎撃にあたっている。

「援軍は!?」「来そうにない!」「全滅するぞ!」

 魔女達は飛翔魔法で飛びながら、ロペスとミルン城にある空域戦力を破壊した。今、制空権は魔女が握っている。黒衣の魔女達は夜の闇に溶け込み、空から攻撃魔法を放ってくる。

 第二部隊は機関銃アサルトライフル狙撃銃ライフル、手榴弾や擲弾グレネードランチャー発射機で応戦した。が、水を得た魚のように空を飛ぶ魔女達に命中させることは困難を極めた。何発かは魔女達を捉えたが、不可視の防衛魔法バリアーを貫通させるには至らなかった。

「一匹でいいから落とせ! それで奴等の陣形は崩れる!」

 第二部隊分隊長のパーンが大声で指示を下す。

「俺とお前等の四人で魔女どもの前に姿をさらし、機関銃を撃ちまくる! 他の者は右端にいる魔女に一斉掃射しろ! あの魔女が一番若い!」

 兵士全員がゾッとした。魔女に姿をさらす? 殺されるに決まっている。

「このままでは全滅だ! 最小限の被害で奴等に穴を開けるしかない!」

 自分と部下三人の命、それが最小限。けれど兵士達に、考えている余裕は無い。

「アツイアツイ!」「ア、カラダニアナアイタ……」「ダレカ、オレノミギアシミタカ」。

 今この時も、魔女達の猛攻は止まらない。選択肢など、無い。

「総員かかれ!」

 そう叫び命じて、パーン率いる囮部隊が武器庫前の空間に飛び出す。

 四人の目に飛び込んでくる、戦友達の骸。そのどれ一つも、原型を止めていない。黒く焼け焦げ、ズタズタに斬り裂かれ、凍らされて砕かれ。

 それを目にした四人は怒りや恐怖を超越して、狂った。ただ狂いながら咆哮をあげ、夜空を駆ける十匹の化け物に機関銃を撃つ撃つ撃つ。




 金目で光沢のある白髪を背中まで流したプラムは、空から戦況を把握した。人間どもの悪足搔きが一瞬、止まった。次の瞬間、四人の兵士だけが遮蔽物の無い空間に出てきた。

「あの四人は私が殺す。お前達は魔力を温存しながら、隠れている人間どもを殺せ」

 九人の仲間が首肯するのを見て、千歳の魔女は地上へと降り立った。




 囮の四人は、驚愕の表情で乱れ撃ちの手を止めた。

 十メートルの高さから攻撃していたはずの魔女が一人、突如として眼前に現れたから。

 その魔女が放つ負と殺意のオーラに気圧されながらも、兵士の本能は失わない。

「全員、って!」

 パーンの号令で、三人の部下達が機関銃の引き金を引こうとして。

「グギャウッ!」「アヂヂヂヂッ!」「ババババババッ!」

 体内に流れ込む雷で痙攣し、眼球が飛び出し、体中の穴から血を吹き出した直後、肉体が破裂した。プラムが放ったいかづち魔法、地走り。自分の足から指方向性の雷を地に流す。

部下の血と内臓がパーンに降りかかる。彼は狂気をも通り越し、無になった。無になったからこそ、体は日々の訓練で覚えた通りに動く。プラムに照準を合わせた銃の引き金を引く。

バラバラバラバラッと規則正しい音を夜に響かせ、機関銃からプラムを貫くべく鉛の弾が発射される。パチッと空撃ちの音。弾切れだ。

けれど魔女相手に、単独での弾倉交換は命取りだ。常に攻撃し続けねば、魔力を練って攻撃魔法を放ってくる。よってパーンは、手榴弾を投擲しょうとした。

先程撃った弾丸が全て、宙で浮いている。防衛魔法に刺さっただけだった。

「お前如きが、人間の指揮官か」

 プラムは吐き捨てると、人差し指をパーンの額目掛けて伸ばす。距離、二十メートル。

 プラムが放った閃光は一瞬でパーンの額に到達、そのまま後頭部に抜ける。パーンの体はビクッと痙攣し、直後、後頭部が破裂した。

プラムは飛翔魔法で空に戻りながら、戦況を確認する。

「(あの女を殺すために魔力の温存は必須だが。仲間達は人間に殺られるかもしれない)」

 その懸念は杞憂だった。

 右端のウーランを地上から狙い撃ちしようとした人間達が、燃え、凍り、引き裂かれ、感電し、押し潰されていた。

 プラムは九人の仲間を一瞥する。

「(魔力は充分だ。ここの生き残りどもを片付けたら、城内に攻め入ってやる)」

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