第15話 佐々木さんと隙間
「これ……」
俺は落ちたプリントを拾い、右に向かって差し出す。
「あ、うん。ありがとう。」
落とし主はこちらを見ることもせずに、小さく感謝の言葉をつぶやいて受け取った。
「佐々木さん……その、大丈夫?」
俺は少々強引に視線を合わせて、そう声をかける。
「全然大丈夫です。いつもどおりですよ。」
「そ、そう。なら良かった……」
佐々木さんは微笑んで前に向き直ったが、絶対にいつもどおりなんかじゃない。
俺の家に来てもらってご飯をつくってもらってから数日。
学校で幾度も顔を合わして、こうして会話も交わしているのに。
なぜだろうか、彼女はまるで俺のことを避けるように淡白な返答しかしてくれない。
「はぁ……」
「お前ら、なんかあったのか?」
なにかしてしまったのだろうかと深いため息をつく俺に、いつの間にか後ろに立っていた鈴木が声をかけてきた。
「わからん……ただ、なんかおかしい。なんでろう……」
「はぁ、おまえがわかんねぇのに俺が分かるわけねぇだろ。」
尋ねられた鈴木は、焼きそばパンをかじりながら頭をかく。
「そうだよなぁ……」
俺がわからないのにお前が知ってるわけないよな。
せっかく仲良くなれたと思ったのに、いきなりこうやって避けられてしまうなんて。
恋の駆け引きの一種で、急接近してからわざとそっけない態度を取ることで相手の気を引くというものがあるらしいが……。
明らかに佐々木さんのソレは、駆け引きなんかじゃなかった。
「はぁ、ったく本当に世話の焼ける親友だぜ。なんか傷つけるようなこと言わなかったか?」
俺がうつむいて考え込む姿を見て、仕方ないなとため息を付いた鈴木が、そう尋ねてくる。
「記憶にある限りそんな事は言ってないと思う。」
「じゃあ、なにか不安になるようなことや、将来の可能性を否定するようなこと。あとは、他の女の子のことを露骨に褒めたりとかは?」
「全部してないと思う。」
そういった類の事をした記憶があれば話はもっと簡単なのだ。
それについて謝罪すればいいのだから。
そういった嫌われてしまうような行動を何一つしていないというのに、避けられてしまっているから困っているのだ。
「マジか。お前に何も問題がないとすれば……そうか、それはめんどいなぁ。」
鈴木は顎に手を当てて数秒考えてからそうつぶやく。
「なんだよ? 教えてくれよ」
俺がお前だけが頼りなんだと肩をつかめば、
「――――家族関係」
鈴木が一言で答えた。
「ッなんでそうなるんだ!?」
俺の脳裏に一瞬、佐々木さんのお兄さんとの一幕がよぎる。
しかし、鈴木はそのことを知らないはず。
「もっと正確に言えば、お前ら自身の問題じゃなく外側の影響ってことだな。家族以外にも、友達とか元カレとか先生とか色々あるが。まぁ、今回の場合は九分九厘家族関係だろうな。」
「家族関係か……」
鈴木の説明を聞いて、俺はやっぱりあれかと頭を抱える。
「なんか心当たりあるか?」
「まぁ、一個だけ。」
鈴木の問に、俺は小さく答えた。
俺もなんとなくそうかなとは思っていた。
けど、確信が持てなかったし、親はまだしも兄弟ということでスルーしていたのだ。
「マジか……これは難しくなるぞぉ。家族関係なんて、一番俺らにはどうしようも出来ない問題だからな。俺らはまだ高校生だし、他人の家族関係になんて口出しできる権利なんてないんだから。なにか言ったところで、一蹴されて終わりだ。」
鈴木が真剣な顔で解説する。
さすがストーキング行為が相手の家族にまでバレている男。説得力が違うぜ。
「だよなぁ……」
「お前、どうすんだ?」
俺は横目で佐々木さんを見る。彼女は友達と話して、微笑んでいた。
普通の一幕。平和な日常なのに、どうしてだろうか。その背中が悲しげなのは。
「どうするって……わかんねぇよ」
俺はその何もかもを受け入れて、諦めるような瞳に、そう情けなくつぶやくことしか出来なかった。
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昨日更新できなくてすみません!!
色々バタバタなのと、新作関係で時間が取れませんでした!!!
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