第11話 佐々木さんと帰る(実現)
「佐々木さんってなんか部活入ってるの?」
佐々木さんと歩きながら、先程出た疑問を投げる。
今は学校と駅のちょうど間くらい。
周りでは俺と同じく帰宅部の奴らが部活に精を出していたり、運動部が坂ダッシュしていたりしている。
いやぁ、青春だね。しらんけど。
「えっと、一応家庭科部に入ってます。」
「家庭科部か〜。料理とかできちゃう感じ?」
「そこまでうまくないですけど……一応作れはします」
俺の問いに、佐々木さんは少し恥ずかしそうに答えた。
「え、マジで!!? 食ってみたいな。」
佐々木さんの手料理と聞くだけで、ご飯3杯はイケる。
本当に佐々木さんの手料理が食べられるとなったときには、この世のご飯すべてを集めても足りないくらいだ。
ごめん。流石にそれは盛った。
頑張ってもお茶碗5杯が限界だわ。
「え? でも、本当に上手くないですよ、できるというだけで……。」
佐々木さんは俺の言葉を、ブンブンと首を振りながら否定する。
「それでもいいよ。というか、佐々木さんって高スペックだよね。いいお嫁さんになりそう……って、そんなこと言うとこのご時世怒られちゃうのかな。」
今は、イラストの女の子が少しエロいタイツを穿いてるからと言って叩かれる時代。
『いいお嫁さんになるぞ〜』なんて言った暁には、ボッコボコのメッタメタに叩かれてしまうだろう。
『亭主元気で留守がいい』でゲラゲラ笑ってた昔とはエラい違いでござる。
「お、おおお、お嫁さんだなんてそんな……。」
「あはは、いきなりごめんね。」
お嫁さんという言葉に顔を赤くする佐々木さんに軽く謝る。
そういう、うぶなところも可愛いよ、グフフ
……俺くんって、よくキモいって言われない?
「い、いえ、大丈夫です!!」
セルフ罵倒する俺に、佐々木はそう笑いかけてくれる。
マジ天使。
惚れるよ? 惚れちゃうよ、良いの? って、もう惚れてましたわ。
「あれ、あんなお店あったっけ?」
気がつけば坂を下りきって駅前まで来ていた。
見慣れた餅像の向こう側に、見慣れない看板があるのを見つけて俺は首を傾げる。
「最近できたのかもしれませんね。」
前に来たときは佐々木さんとの待ち合わせということで緊張していてよく見ていなかったが、駅の結構目立つところに小洒落たお店が出来ていた。
「へぇ、クレープかぁ」
木のオシャンティな看板には『クレープ』の文字。そこそこに人気があるようで、行列ができるまでではないが女子高生を中心に賑わっていた。
この辺うち以外にも高校在るし、オフィス街もすぐそこに在るし。JKとかOLさんとかも買いに来るのかな。
「…………」
佐々木が静かになったかと思って目線をやれば、お店の方を真っ直ぐに見つめていた。
「食べる?」
「へ? い、いや、大丈夫です……!」
やはり佐々木さんも
あぁ、なるほどね。
「じゃあ、俺が食べたいから付き合ってくれる?」
否定しつつも目線はお店の方を向いたままの彼女に、そう声をかける。
うちの鈴木くんも甘いものが好きなくせに、好きというのが恥ずかしいという天邪鬼だから、適度にからかった後にこう言って連れて行くのだ。
「は、はい! お供します!!」
佐々木さんは、ないはずの尻尾が見えるくらいには嬉しそうに即答する。
うんうん、素直でよろしい。
うちの鈴木くんなんて、『し、仕方ねぇな。田中が行きたいって言うから、仕方なく、付き合ってやってもいいぜ。』と、気持ち悪い男のツンデレを披露するもんだから、軽く殴りたくなる。
あいつ、本当に残念なイケメンなんだよ。
「オッケー。何味がいい?」
俺は看板に書かれたメニューを指さして尋ねる。
「えっと……」
すると、彼女は真剣に考え込んで、
「い、いちごにします……!」
そう答えた。
一番人気と書かれてるし、クレープといえばいちごだもんね。
「おぉ、美味しそうだもんね。じゃあちょっと待ってて」
俺はそう声かけて、お店へと向かう。
「すみません、クレープを2つ」
運良く誰も並んでなかったので、スムーズに買うことができた。
値段もクレープというシャレオツなスイーツにしては安い方だった。
「お待たせ〜」
俺は餅像の前で待っていた佐々木さんに声をかけて、クレープを手渡す。
「あ、ありがとうございます! その、お金は……」
彼女は目を輝かせて受け取ったあと、すぐにお財布を取ろうとする……が、
「あぁ、大丈夫。俺が食べたかったわけだし。」
俺がそう言って止めた。
ここまで来て払わせるのは男として失格だろう。
「で、でも悪いですよ……」
「ほら、俺も女の子の前ではカッコつけたいじゃん?」
佐々木さんが眉を下げるので、俺は軽くふざけつつ微笑んで見せる。
「へ? …………ッうぅーー!!! そんなの、ズルいですよ……。」
俺の方を見て数秒固まった佐々木さんは、ポッと赤くなってつぶやく。
「あはは、ごめんごめん。どう、カッコよかった?」
ここでさらにカッコいいことが言えるのが本物のイケメンなのだろうが、あいにく俺はこういうの慣れてないので、こうやって誤魔化してしまう。
俺もちょっと……いや、結構恥ずかしいし。
「…………んっ……おいひぃ!!」
佐々木さんは俺の方を上目遣いで数秒見つめてから、もう知らないっと言ったように首を横に振ってクレープに噛み付いた。
その表情の変わりようといえば素晴らしく、特に最後の心から美味しそうな、幸せ満開といったような表情は世界を破壊できるほどの破壊力がこもっていた。
「ッ!!!!! その表情だけでお釣りが来るよ。」
俺じゃなきゃ、この場で気絶してたな。
防御力1の俺だからこそ、軽く昇天するくらいですんだぜ。節子、あかん。それ悪化してるで。
「うん、おいしい……!」
多方面に怒られそうなセルフツッコミをする俺の前で、佐々木さんは実に美味しそうにクレープを食べ進める。
うんうん、その表情で俺はクレープを食べるよ。もぐもぐもぐ、グヘヘヘへへ。
俺氏、クソキモ過ぎワロタ。
「あのさ、」
俺は自分のクレープにかぶりつき、少し緊張しながら――――
「ああいった手前なんだけどさ。クレープの分、佐々木さんの手料理を食べさせてほしいなー……なんて。」
――そんな提案をする。
やっぱりキモかったかな……。なんて、言ったそばから不安になるが、
「…………ズルイですってば……」
佐々木さんはうつむきながらつぶやき、
「分かりましたよ。今度の週末にでも作りますけど、本当にそんなにうまくないですからね! き、期待しすぎてガッカリとかしないでくださいね……!」
そう言って、笑ってくれた。
「オッケーオッケ。まず、ガッカリするなんてありえないから大丈夫。」
よかったぁ……!!
俺は内心で胸をなでおろしながら、いつもどおりにおちゃらけてサムズアップして見せる。
「も、もう……!!」
こうして、佐々木さんとの放課後は過ぎていった。
最高な日々だ。
ずっと続いてほしいと思うくらいには。
けど、幸せというものは始まりがあるように、また等しく終わりがあるものなのだ。
俺はまだ、そのことを知らなかった。
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