第10話 佐々木さんと帰りたい(願望)

「よぉし、終わったぁ。家帰るかぁ」


 俺は軽く体を伸びしながらつぶやいた。


 6時間授業を終えて、掃除も全て終わった放課後。


 周りの皆さまが部活へと意気込む中、帰宅部の俺はのんびりと帰る準備を進めていた。


「あ、あの……」


「おぉ、佐々木さん。どったの?」


 俺が明日の持ち物を確認していると、隣の席の佐々木さんが控えめに声をかけてきた。


 不安げに伸ばされた手と、眉尻を下げたお顔が最高にキュートです。


「えっと、今から帰り……ですか?」


「そうそう。佐々木さんは?」


「私も今から帰るところです。」


 そういや、佐々木さんって何部なんだろ。


 学級委員ってことは知ってるけど、他のことあんまり知らないな。今度色々と聞いてみよう。


「佐々木さんの家ってあっちだよね?」


 俺は駅の方を指さして言う。


 学校から坂を下りてすぐが駅。

 この辺は小さな声でなら都会と言えるくらいの都会なので、駅まで下りちゃえば何でもある。


「そうです。駅のあのへんです。」


 佐々木さんは俺の指さした方を見ながら、コクリと頷く。


「へぇ、案外俺んちと近いかもね。」


「へ?」


 俺が述べた感想に、佐々木さんが不意をつかれたというような顔をする。


「俺んちは佐々木さんの家の更にあっち側だから。」


 佐々木さんの家は駅の左側。俺は学校から駅を通り越して少し言ってから左側だから、横座標はおんなじ位で縦の座標だけが違う感じだ。


 距離にして数百メートルもないと思う。


「へ、へぇ……そうなんですね……。なら……」


 大袈裟に頭を縦に振った佐々木さんは、少し躊躇うような表情をしてからつぶやき。果たしてこれは言っていいのかと不安げな表情になって、口を閉じる。


 くっ……可愛すぎだろ……!!!!


「一緒に帰ろうか?」


 その一連の動作でなんとなく彼女の言わんとすることが分かった俺は、このまま泳がせるのもありだなと思いつつ、意地悪するのは良くないとこちらから提案をする。


「ほへっ!!? で、でもお友達とか……」


 一瞬すんごい嬉しそうな顔をした佐々木さんは、しゅんと言う音が聞こえるくらいうつむいてそう続ける。


「鈴木くんは、愛しの下関さんと一緒に下校という名のまとわりつき中だから。あと、あいつバスケ部だし、そもそも一緒に帰ることは少ないんだ。だから、俺は基本ボッチですよ。」


 あいつなぁ。イケメンでバスケ部の期待の新人だか、エースだか、キャプテンだか、ダークホースだか、ダークライのくせに。

 下関さんにつきまとう変態なんだから、ほんとにもったいないよなぁ。


「な、なら……よろしく、お願いしましゅ……!」


 俺の説明を聞いて、踏ん張りがついたように張り切って言葉を発した彼女は……最後に舌を噛んでしまい、カーッとみるみるうちに顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


 マジでさぁ、可愛すぎ(半ギレ


 人を好きになる理由なんて数え切れないほどにあると思うし、言語化できるようなものではないと思うが。


 今の彼女を見れば、全世界の全人類。いや、全生物。いや、全物質が秒で惚れるだろう。


 マジ、天使。聖書に書いてないのが不思議なくらいに天使。


「あはは、こちらこそ。俺も佐々木さんと話したかったし。」


 俺は奇声を上げてグラウンドを超高速で走り回りたい衝動を抑えながら返事をする。


「うぅ……噛んじゃったぁ……」


 佐々木さんが恥ずかしそうに手で顔を抑えて悶えるのを見て、その可愛さに悶えそうになるのを我慢しつつ、俺は自分の帰る準備を進める。


「よし、じゃあ帰ろうか」


 俺は鞄を閉じると同時に佐々木さんに声をかけた。


「はい!! よろしくおねがいします!」


 彼女は今度は噛まないぞと言ったように、元気に返答する。


 最後まで噛まずに言い切れて佐々木さんは、よしっとガッツポーズをした。


 その姿を見て、俺は軽く悟りを開いた。

 あぁなんて世界は美しいのだろうと。


 世界 is ビューティフル!!!!!

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