第7話 佐々木さんと耳かき

「み、耳かき……ですか?」


 俺の上に乗った佐々木さんが、若干の戸惑いを見せてつぶやく。


「うん。なんか、高校生になって親にやってもらうのもあれだし、自分でやるのも怖いし。かといって、やってくれるような人は周りにいないから……良ければだけど、やってもらえると助かる。」


 流石にキモいかな……とか思いながら答える。


 耳かき、昔から好きなんだよね。

 あの刺激と眠気の間にいる感じが本当に良い。


「りょ、了解です。任せてください!! 今どきそういうエーエスエムアールA S M Rとかも流行ってますしね!」


 佐々木さんは笑いながらそういうと、少し名残惜しそうに俺の上から退いた。


「お願いします」


 やっと解放? されて、俺はベッドの上に座り直して佐々木さんに頭を下げた。


 巨乳美少女に押し倒されるなんて、羨ましい!! と、思うかもしれない。俺も少し前まではそう思ってた。


 けど、実際にやって……やられて? みると、そんなに楽じゃないことがわかる。


 顔が近いし、体も近いし、なんか良い匂いとかしてきてとてもドキドキするし、緊張する。


 自分の息、臭くないかな? とか、俺の息子よおさまれ……! とか、本当に色々なことを考えてしまって、心臓に悪い。


 それがいきなりだった場合なおさらね。


「じゃあ、まずは……こうですね」


 ほっと胸をなでおろしていると、佐々木さんはカーペットの上にペタンと座る。いわゆる、女の子座りというやつだ。


 ま、まさか……!!!?


 俺はその格好を見て、まさかをやってくれるのかと、驚愕する。


 アレは確かに耳かきの鉄板。もはや、アレがないと耳かきとは言えないと言っても過言ではない。


 でも、それを同級生の女の子がやってくれるなんて……!!! それは、夢 オブ・ザ 夢だろ。


「はい、どうぞ」


 佐々木さんは自分の太ももを軽く手で払うと、そう言ってこちらに微笑んだ。


 っ!!!!!!!!?


 ま、マジカヨ……!!

 マジでやってくれるのか……ひ、膝枕を!!!


 やべぇ、なんか変な汗出てきた……。


「し、失礼します……」


 俺は超緊張しながら、横になって彼女の膝にそっと頭をのせる。


 …………これ、ヤバい


 良い感じの柔らかさに温かさ。そして、良い匂いととてつもない幸福感。


 ここまでとは知らなかった。膝枕、恐るべし。


「じゃあ、あっち側を向いてくださいね。あと、危ないのでなるべく動かないようにお願いします。」


「はい、了解っす」


 俺は佐々木さんに言われるがままに動く。


「では、左の耳からいきまーす」


 佐々木さんは耳のそばで囁いた。


 ヤバいよ、マジヤバイよ。出川○朗も慌てふてめくレベルでヤバいよ。


 耳に意識を集中させれば、佐々木さんの手が動く音が微かにだが聞こえる。


 来る……来ル……………キタッ!!!!


「あっ……ヤバッ……」


 思わず声が出てしまった。


 いや、これマジでレベチ。

 俺の語彙力では表せないが……とにかく、最高だ。


「ふふふ、たまに妹にするので慣れてると思います。」


 俺の変な声聞いて笑いながら、佐々木さんが言う。


「佐々木さん、妹さんがいたんだ。」


「はい。歳が離れてるのでとても可愛いですよ。」


「うちは独りっ子だわ。いいよな〜兄弟。」


 俺も美少女の妹欲しかったわ。

 そしたら、妹に耳かきしてもらえるもんな。


 いいな〜、妹耳かき。語感だけで、ご飯3杯イケるわ。


 お姉ちゃんもいいよね。

 バレンタインとかにクッキ作ってくれて。


 いいな〜、姉クッキー。語感だけで、5キロは走れる。


「いいところだけじゃないですけどね……。」


 佐々木さんが言う。


 それは兄弟を持っている人ならよくある苦労話的なやつなのだが。なぜか、そこに深い闇を感じた。


 どこか触れてはいけないような、少し一線を引くような、何かを。


「え? あ、うん……? 佐々木さん、耳かきチョー気持ちいいよ。」


 俺はこれ以上触れないほうがいいと、さり気なく話題を変える。


 少し強引感は否めないけど、本当に気持ちいいし。どこかでこの気持ちよさを伝えたかったし。


「なら良かったです。では、反対を向いてください。」


「おいっす」


 楽しげな声色に戻った佐々木さんに微笑んで、俺は向きを変えた。



 耳かきって最高だよな。


 だって、右と左で2回もできるんだぜ?

 ほんと、人間ってスゲェや!!!!!!

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